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レイリック・ドルタ侯爵 ハンナ視点

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 「お姉様を……殺す?」

 ドルタ侯爵は何を言っているの!?

 「出来ないのなら、このままお帰りください。意気地がない者に、興味はありません。」

 この人は本気だ……

 「理由をお聞かせくださいますか? 納得出来たなら、姉を殺します。」

 「いいでしょう。そのままでは風邪を引いてしまいます。中へどうぞ。」

 邸の中に入り、タオルと着替え用の服を貸してくれた。

 「この服は、どなたのですか?」

 「それは、亡くなった母のです。私は父から毎日暴力をふるわれていた。母は、私の為に父を殺しました。幸い、父の死は事故ということになり、母が疑われる事はなかった。表向きは、仲のいい夫婦だと評判でしたしね。母が父を殺した事で、深い愛情を感じました。
 だから私の妻になる女性にも、私の為に誰かを殺して欲しかった。
 君とは近しいものを感じていました。だから、リリス嬢と婚約したのです。きっと君は、リリス嬢から私を奪うために来てくれると信じていました。」

 この人……狂ってる……
 だけど、嫌いじゃないわ。

 「レイリック様の為に、お姉様を殺します。」

 「君は思った通りの女性だ! 
 この毒を使うといい。毒を飲ませ殺したら、死体の始末を手伝ってあげます。私達は共犯者になるのです。」

 紙に包まれた毒を受けとった。

 お姉様を殺すなんて、どうって事ないわ。
 この人は作り物じゃない私を受け入れてくれる。

 

 毒を受け取り邸へと戻ると、急に怖くなって来た。お姉様の事は大嫌いだし、居なくなって欲しいと思ってる。
 だけど、私が人を殺す? この私が!?

 そんな事を考えていたら、スーザンの事を思い出した。スーザンなら、脅せばお姉様を殺してくれる!
 スーザンに毒を渡し、お茶に混ぜて飲ませるように指示した。


 「ハンナ様……リリス様がお飲みになりました……」

 「よくやったわ! レイリック様が待ってるから、行くわよ!」

 スーザンと二人で、お姉様を馬車に乗せる。
 その馬車にはレイリック様が馭者としてすでに乗って待っていてくれた。

 「メイドの君は邸に残り、リリス嬢が居ないことを気付かれないようにしてください。」

 「は、はい。」

 馬車は静かにブライト伯爵邸を後にして、森へと走り出した。


 「まだ息があるな。」

 森に着いてお姉様を捨てようとした時、まだ息がある事にレイリック様は気付いた。 
 私は気が動転していて気付かなかった……

 「まあいい。直ぐに死ぬだろう。」

 レイリックはリリスを担ぎ、放り投げた。
 ガツンと音が聞こえ、リリスの頭が石にぶつかった。そして、頭から血が流れ出す。

 「行こう。今日から私達は婚約者で共犯者だ。やっぱり君は、最高の女性だ! 幸せになろう!」

 お姉様をなんの躊躇もなく放り投げたレイリック様を、少しだけ怖いと思った。だけどもう、引き返す事は出来ない。
 私はお姉様を、殺してしまったのだから。

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