5 / 13
5、波乱
しおりを挟む「な、何を言っているんだ!?」
驚いた表情を見せながら、デイビッド様は私の腕を掴んだ。正直、この反応は予想していなかった。だからといって、気持ちが揺らぐことはなかった。
その時……
「キルスティン!! お前、俺を騙しやがって!!」
怒声が、響き渡った。
見知らぬ男性が、剣を持ってこちらに走って来る。何が起きているのか分からないまま動けずにいると、男性はすぐ近くまで来ていた。
「お義兄様、私怖い!!」
キルスティン様は、デイビッド様を盾にするように後ろに隠れた。そして、デイビッド様は、掴んでいた私の腕を引き、私を盾にした……。
これが、彼の本性……
ゆっくり、ゆっくり、男性が私に向かって剣を振り下ろしてくる。ゆっくりだと感じるのは、私が死ぬからなのだろうか。
目をつぶり、デイビッド様に掴まれていない方の手で防御姿勢をとる。
「エリーーーーーッ!!!!」
なぜか、アレン様の声が聞こえて目を開けると、必死にこちらに走って来る彼の姿が見えた。アレン様の姿が見えたからか、デイビッド様の手が私の腕から外れる。盾にしていたところを、見られたくなかったのだろう。
剣が振り下ろされると、少しでも男性から離れようとしたキルスティン様が足を滑らせ、しがみついていたデイビッド様を道ずれに湖に落ちて行った。男性の振り下ろした剣は、私の手のひらを斬りつけ、そのまま顔の前で止まっていた。キルスティン様が湖に落ちたからか、私が彼のターゲットではなかったからか、それ以上斬りつけるのを躊躇っているように見えた。
そしてアレン様に気付くと、慌てて男性は逃げて行った。
「エリー!! 無事か!?」
アレン様は私の怪我を見て、真っ青になりながら、ハンカチを手のひらに巻いてくれた。
「ア……レン様、私は大丈夫です! デイビッド様とキルスティン様が湖に!!」
キルスティン様は分からないけれど、デイビッド様は泳げない。
ジョアンナと、使用人のトロイが私の元に走って来ているのを確認したアレン様は、上着を脱ぎ捨てて湖に飛び込んだ。
「エリアーナ様!? お怪我をされたのですか!?」
ジョアンナは泣きそうになりながら、斬られた手をジッと見つめる。
「少し斬られただけだから、大丈夫。それより、アレン様は……」
湖を覗き込むと、ザバンと音を立てて水面からキルスティン様が顔を出した。急いで怪我をしていない方の手を差し出すと、しっかりと掴んできた。ジョアンナとトロイと三人で、キルスティン様を引き上げた。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけると、キルスティン様は私を睨みつける。
「わざと私を落としたんでしょう!? 私を、殺す気だったんでしょう!?」
殺されかけたのは私なのに、彼女はどうしてそう自分中心にしか物事を考えられないのだろうか。
そもそも、あの男性の狙いはキルスティン様だった。
「あの男性を、ご存知ですよね?」
「し、知らないわ!」
明らかに動揺しながら、しらを切った。
「あの人が捕まれば、分かることです。今はそんなことよりも……」
まだアレン様とデイビッド様が、湖の中に居る。キルスティン様に構っている場合ではない。
急いで湖を覗き込むと、アレン様がデイビッド様を抱きかかえて浮かび上がって来た。
アレン様は急いでデイビッド様を湖から引き上げるけれど、デイビッド様は息をしていなかった。
「デイビッド! 戻って来い! 死ぬな!!」
懸命に、救命処置を施すアレン様。
「デイビッド様! 目を開けてください!!」
手を握り、彼の名前を呼び続ける。すると、
「……ゴホッ……ゴホッゴホッゴホッ……」
デイビッド様は水を吐き出し、息を吹き返した。
「良かった……本当に、良かった! デイビッド様、大丈夫ですか?」
目を開けたデイビッド様は、私達の顔を不思議そうに見ている。
「お義兄様!? デイビッドお義兄様!? ご無事ですか!?」
先程まで、自分のことしか考えていなかったキルスティン様は、デイビッド様が目を覚ました途端に、心配そうに駆け寄って来た。
あの男性が近付いて来た時、デイビッド様を盾にしたことを忘れているのだろうか。
「……デイビッド……?? それは、誰のことだ? 俺はいったい……誰なんだ??」
デイビッド様の発した言葉に、その場に居た全員が言葉を失った。
80
お気に入りに追加
3,241
あなたにおすすめの小説
どう見ても貴方はもう一人の幼馴染が好きなので別れてください
ルイス
恋愛
レレイとアルカは伯爵令嬢であり幼馴染だった。同じく伯爵令息のクローヴィスも幼馴染だ。
やがてレレイとクローヴィスが婚約し幸せを手に入れるはずだったが……
クローヴィスは理想の婚約者に憧れを抱いており、何かともう一人の幼馴染のアルカと、婚約者になったはずのレレイを比べるのだった。
さらにはアルカの方を優先していくなど、明らかにおかしな事態になっていく。
どう見てもクローヴィスはアルカの方が好きになっている……そう感じたレレイは、彼との婚約解消を申し出た。
婚約解消は無事に果たされ悲しみを持ちながらもレレイは前へ進んでいくことを決心した。
その後、国一番の美男子で性格、剣術も最高とされる公爵令息に求婚されることになり……彼女は別の幸せの一歩を刻んでいく。
しかし、クローヴィスが急にレレイを溺愛してくるのだった。アルカとの仲も上手く行かなかったようで、真実の愛とか言っているけれど……怪しさ満点だ。ひたすらに女々しいクローヴィス……レレイは冷たい視線を送るのだった。
「あなたとはもう終わったんですよ? いつまでも、キスが出来ると思っていませんか?」
私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?
新野乃花(大舟)
恋愛
ミーナとレイノーは婚約関係にあった。しかし、ミーナよりも他の女性に目移りしてしまったレイノーは、ためらうこともなくミーナの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたレイノーであったものの、後に全く同じ言葉をミーナから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる