上 下
43 / 44

43、アンダーソン公爵家との決着 後編

しおりを挟む


 「お嬢様! お逃げ下さい!」

 執事はリンダがいる部屋のドアを、バンッと乱暴に開けて飛び込んで来た!

 「どうしたの? 何かあったの?」

 もうすぐ王妃になれると思い、リンダは優雅にお茶を飲んでいた。

 「タジガナルが裏切りました! 旦那様も、アンダーソン公爵の一族も、皆捕らえられています!」

 「どうして……?
 分かったわ。オーウェンは? オーウェンはどこにいるの?」

 「俺なら、ここにいます」

 執事が乱暴に開けたドアに寄りかかるエルビン。

 「オーウェン! この前、一緒に逃げようと言ってくれたわよね? 逃げましょう! 私、オーウェンと一緒に行くわ!」

 エルビンに駆け寄るリンダ。

 「はあ? 何で俺が、お前と逃げなきゃならない? お前は逃がさない!」

 エルビンはリンダの腕を掴んだ!

 「貴様! お嬢様に何を!?」

 エルビンに掴みかかろうとする執事。

 「ストップ! それ以上近付いたら、リンダの腕が折れるかもしれないな」

 リンダの腕を掴んだ手に力を入れると、執事はその場から動くことが出来なくなった。

 「……っ! オーウェン……どうして?」

 「俺の名は、オーウェンじゃない。エルビン・バディスト、アナベルの元夫だ」

 「ア……ナベル!?」
 
 「俺の愛するアナベルに、お前は何をしようとした? 殺すつもりだったよな? 俺はお前を、絶対に許さない!」

 リンダはエルビンに、本気で好意を持っていた。そのエルビンが、愛するアナベルと言ったことにショックを受けているようだ。

 その後すぐに兵士達が来て、リンダと執事は捕らえられた。
 
 こうして、アンダーソン公爵家の企みは未遂に終わったのだった。
 反逆を企てたアンダーソン公爵とその一族は、斬首された後、晒し首の刑に処されることが決まった。
 そして、刑が執行される時……

 「オーウェン……オーウェンはどこ? オーウェンに会いたい……オーウェン……愛し……」


 首が斬り落とされる瞬間まで、リンダはずっとエルビンを探していた。その場に、エルビンが姿を現すことはなかった。
 エルビンが、一緒に逃げようと言った時に逃げていれば、こんなことにはならなかった。愛よりも、欲を選んだ結果だった。



 
 アンダーソン公爵の一族が全ていなくなり、ドラナルドには平穏が戻っていた。

 「まさか、あなたがこの国にいるとは思ってもみませんでした。ですが、情報は助かりました」

 ルークはエルビンが住んでいる小さな家を訪れていた。

 「俺は生涯、アナベル様を想い続けると決めています。アナベル様が危険だと判断し、行動に出たまでです」
  
 「しゃくですが、あなたには感謝している。あなたの情報のおかげで、国民に被害が出なくてすみました。
 侯爵家を捨てて来たのでしょう? 城で働くつもりはありませんか?」

 エルビンはフッと鼻で笑う。

 「ルーク様もお人好しですね。妻の元夫を、妻のそばにいさせるおつもりですか?
 俺は今のままで十分です。アナベル様に会うつもりはありません。俺を見たら、つらい過去を思い出してしまうから……
 アナベル様が幸せなら、俺も幸せです。たまに遠くからお姿を見ることだけは、許してください。それから、俺のことは決してアナベル様には言わないでいただきたい」

 「あなたのような方がどうして……
 いいえ、過ぎたことですね。では、私はこれで失礼します」

 ルークはエルビンに背を向け去って行く。その背中を見ながら、アナベルの夫がルークで良かったと心底思ったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

見捨てられたのは私

梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。 ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

終わっていた恋、始まっていた愛

しゃーりん
恋愛
結婚を三か月後に控えた侯爵令嬢ソフィアナは、婚約者である第三王子ディオンに結婚できなくなったと告げられた。二つ離れた国の王女に結婚を申し込まれており、国交を考えると受けざるを得ないということだった。ディオンはソフィアナだけを愛すると言い、ソフィアナを抱いた後、国を去った。 やがて妊娠したソフィアナは体面を保つために父の秘書であるルキウスを形だけの夫として結婚した。 それから三年、ディオンが一時帰国すると聞き、ディオンがいなくても幸せに暮らしていることを裏切りではないかと感じたが思い違いをしていたというお話です。

処理中です...