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35、お腹の中の赤ちゃん

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 「…………ん………………」

 あれ? 私、どうしたのでしょう……?

 「アナベル! 目が覚めたのか!?」

 ルーク様の声……これは、夢でしょうか? それとも、すごく会いたいと思っているから幻聴が聞こえるのでしょうか?

 「アナベル、大丈夫か?」

 「ルーク……様? 本当に、ルーク様なのですか?」

 「俺以外に、誰だというんだ」

 本物の、ルーク様です!

 「お戻りになられたのですね。お帰りなさい、ルーク様」

 「帰って来たら、君が倒れたと聞いて、心臓が止まるかと思ったよ」

 そっか、私、倒れたのですね……

 「ご心配をおかけして、申し訳ありません。あの……タジガナルはどうなりましたか?」

 「謝るのは俺の方だ。俺の事が心配で、寝不足だったんだろう? すまなかった。
 タジガナル王国との交渉は、上手くいったから心配いらない」

 「よかった……」

 「もう無理はしないと、約束してくれ。お腹の赤ん坊の為にも」

 「…………………………へ?」

 「俺と同じ反応だな。やっぱり、気付いていなかったか」

 「あの……お腹の赤ん坊って……」

 「俺たちの子だよ。3ヶ月だそうだ」

 赤ちゃん……私に、赤ちゃんが出来たのですか!?
 私とルーク様の……赤ちゃん……

 涙が自然に流れてきました。自分では、止められそうにありません。

 「まったく、子供みたいに泣いて……
 親になるんだから、しっかりしないとな」

 「……ぐす……はい……うぅ……」

 涙はなかなか止まりませんでした。私が泣いている間、ルーク様はずっと頭を撫でていてくださいました。

 「寝不足だったんだから、もう少し寝なさい」

 そう言われて、頭を撫でてくれてるのが心地よくて、私は泣きながらもう一度眠りに着いていました。



 数時間後、目を覚ますと、ルーク様はイスに座り、私の頭に手を置いたまま眠っていました。
 綺麗な寝顔……やっぱり、ルーク様に似て欲しいですね。
 頭の上の手をそっと下ろし、その手を握りました。火傷の跡がいっぱいで、どれほど料理を頑張って来たのか分かります。頑張って来たことを、全て私の為に使ってくれるルーク様がとても愛おしいです。
 何に対しても、全力で取り組むルーク様。こんなに素敵な人が、私の旦那様なのですね。



 
 ルークとアナベルに、子が出来たことを発表すると、国中が歓喜に包まれた。

 「アナベルに子が出来た……?」

 ドラナルド王国の王都で、アナベルに子供が出来たことを知り倒れた男がいた。

 「ちょっと、あんた大丈夫かい!?」

 「大丈夫……です。ありがとうございます」

 倒れた男に、通りすがりのおばさんが立ち上がるのに手を貸した。

 「あんた、この国の人間じゃないだろ? どこから来たんだい? 」

 大荷物を持った男は、どう見てもこの国の人間ではなかった。

 「ナラードから来ました。住むところを探しているのですが、この辺りにいい所はありませんか?」

 その男は、エルビンだった。
 アナベルに何かするつもりはない。ただ、アナベルの近くにいたかった。遠くからでも、アナベルの姿が見られればと思い、国を出てきたのだった。

 「住むところねえ……。確か、王都の北の外れに小さな家が何件か空いていたと思うよ。大家がその辺に住んでいるから行ってみるといい」

 エルビンはおばさんに言われた通り、王都の北へと歩いて行った。




 ―アンダーソン公爵邸―

 「王太子が妻を迎えたと思ったら、もう子供が出来ただと!?」

 アンダーソン公爵は激怒していた。
 タジガナル王国と組んで国王を失脚させた後、王太子であるルークを国王に据えてリンダを王妃にするつもりだったが、アナベルが妊娠したことにより計画が狂ってしまったのだ。

 「大丈夫よ、お父様。あの女が死ねば問題ないわ。お腹の中の子と一緒にね」

 リンダは不気味な笑みを浮かべた。


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