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29、ブライト公爵

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 「初めまして、ダニエル・ブライトです。
 あなたは確か……」

 ブライト公爵は、私の顔を覚えていたようです。妻の妹なのだから、当然かもしれませんが。

 「お久しぶりです、お義兄様」

 ブライト公爵にお会いしたのは、お互いの結婚式の時の2回だけ。私がお姉様を嫌いだったこともあり、ブライト公爵邸には1度も行ったことはありません。

 「これは……
 申し訳ありません……頭の整理がつかなくて……
 あなたは、行方不明だと聞いていたのですが……」

 それはそうですよね。行方不明になっていた妻の妹が、他国の王太子妃になっているなんて、思いもよらなかったはずです。

 「私は1年ほど前に、エルビン様に裏切られ、浮気されたことに耐えられなくなり、ルーク様と一緒にこの国を出て、ドラナルド王国へと行きました」

 「エルビンが、浮気を……ですか!?」

 エルビン様は他の方から見ても、誠実だと思われていたので、ブライト公爵が驚くのも無理はありません。

 「ええ、エルビン様は私のお姉様……イザベラと浮気をしたのです」

 ブライト公爵は目を見開いたまま黙ってしまいました。

 「……………………」

 「こんな話は、聞きたくないのは分かっています。知らなければ、幸せなままでいられたかもしれないのに、その幸せを壊してしまうことをお許しください」

 私には、ブライト公爵の気持ちが分かってしまいます。だけど、知らなければ……なんて、そんな幸せは偽りでしかありません。
 
 「この話は、信じなくても結構です。ですが、この手紙だけは、信じていただきたいのです」

 ずっと大切に持っていたシルビア様からの手紙を、ブライト公爵に差し出しました。

 「……これは?」

 ブライト公爵はようやく口を開き、手紙を手に取りました。

 「その手紙は、ホーリー侯爵夫人が亡くなる前に、私に宛てた手紙です。中をご覧下さい」

 ブライト公爵は、手紙を封筒から取り出して読み始めました。
 手紙を読み終えたブライト公爵は、手をプルプルと震わせています。

 「筆跡鑑定していただいてもかまいませんが、その手紙はホーリー侯爵夫人が書いたもので間違いありません。シルビア様は手紙を出したすぐ後に、自害したことになります。
 その手紙を読んでいただけたら分かる通り、私は自害するなんてありえないと思っています」

 「……私も、同じ意見です」

 すごくおつらそう……
 ですが、ブライト公爵は真実を知らなければなりません。

 「私は他国の王子なので、これ以上口出しするつもりはありません。ですが、ブライト公爵は罪を犯している者を見逃すような方ではないと信じております」

 「…………はい」

 「イザベラのことは、ブライト公爵にお任せします」

 つらい話をした上に、さらに脅しをかけているようなもの。褒められた行為ではありませんが、ブライト公爵次第なので仕方がありません。

 「分かりました」

 シルビア様の手紙は、ブライト公爵に預けました。険しい顔をしたまま、ブライト公爵は部屋から出て行きました。
 ブライト公爵は、大変厳しく冷酷な方だと聞いています。裏切った者を、死よりもつらい目に合わせる方だとも聞いています。
 そんな方が、あんなに噂になっていたお姉様のことを今まで1度も疑わなかったのでしょうか?
 疑わなかったのではなく、疑いたくなかったのかもしれません。
 裏切りを知ったブライト公爵は、お姉様を決して許さないと思います。お姉様のしたことを、ナラード国王に伝えれば、ドラナルドを敵に回したくない国王はお姉様を断罪するでしょう。ですが私は、彼が冷酷非道だと知りながら、ブライト公爵にお任せすることを選んだ……私も、冷酷なのかもしれません。

 「シルビア様の思いを、やっと伝えることが出来ました。きっと天国で、生まれるはずだった赤ちゃんと幸せにしていますよね?」

 「そうだな。俺も、子供が欲しくなって来た。アナベルに似た、ツンデレの女の子がいいな。
 でも、国のことを考えると男の子が先か」

 「私、ツンデレですか!? むしろ、デレデレだと思います!」

 「デレデレな君も捨てがたい!」

 「話がズレてますよ?」

 「とにかく、君に似てる子が欲しい!」

 私はルーク様に似た、素直で優しくて、芯を曲げない男の子がいいです。顔は全面的にルーク様似で! 
     
 

 「そろそろ、舞踏会が始まる。行こうか」

 差し出された手を取り、会場へと歩き出しました。


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