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19、波乱の舞踏会
しおりを挟むアナベルがルークと共に姿を消してから、1年と2ヶ月が経っていた。エルビンはあれからずっとアナベルを探しているが、最初の情報からなんの手がかりも掴めていなかった。
ある日、1ヶ月後に舞踏会を開催するという知らせがエルビンに届いた。その舞踏会には、大国ドラナルド王国の王太子夫妻が出席する為、貴族やその家族は全員参加するようにとの事だった。
「旦那様、この舞踏会には出席しなければなりません」
バランはエルビンに、舞踏会の招待状を渡した。エルビンはアナベルがいなくなってから、社交の場に1度も出席していなかった。それどころではなかったからだ。
ホーリー侯爵夫人の死の真相を知り、もしかしたらアナベルの身が危ういのではないかと心配になったエルビンは、イザベラに見張りをつけた。
ホーリー侯爵夫人の時も、暴行する時にイザベラがその場にいた事を考えると、手を下すのはイザベラではなくても、人の不幸を自分の目で見たいはずと考えたからだ。
イザベラをずっと見張っていたが、動き出す気配はない。毎日毎日、ブライト公爵とは別の男と遊び回っている。しかも、相手は毎回違う男。
こんな女のせいで、アナベルを失ってしまったのかと思うと、怒りが込み上げてくる。
「……分かった」
舞踏会などどうでもよかったが、全員参加との事ならブライト公爵も出席するはず。
エルビンは自分の過ちを含めて、イザベラがした事をブライト公爵に全て話そうと決めた。
全てを話してしまえば、自分もただでは済まない事は分かっていた。それでもやると決めたのは、アナベルが望んでいたことだったからだ。
手紙の内容を知った事で、アナベルはホーリー侯爵夫人の為に手紙を守ろうとしていたのだと知った。今の自分には、アナベルの為に出来ることがそれくらいしかないのだと思ったのだ。
ホーリー侯爵が生きていたら、全てが公に出来たのに……そう思わずにはいられなかった。
舞踏会当日、沢山の貴族達がいつもより豪華に着飾って次々に会場へとやって来る。
少しでもドラナルドの王太子夫妻に、よく見られたいようだ。
エルビンが会場に到着した時、イザベラを見張っていた者からの報告はなかった。
「エルビン様、お久しぶりです! 私を覚えていらっしゃいますか?」
「エルビン様だわ! 今日は私と、踊っていただけませんか?」
「何抜け駆けしてるのよ! エルビン様と踊るのは私よ!!」
エルビンが姿を現すと、令嬢達がいっせいに周りを取り囲んだ。
この国では、伴侶が1年間行方不明になり、居場所がわからない場合は離縁が成立する。
つまり、アナベルが姿を消してから1年以上経った事で、エルビンとアナベルは離縁した事になる。
独身になったエルビンをものにしようと、令嬢達が躍起になっているのだ。
「俺は、アナベル以外興味がない。そこをどいてくれ」
周りに群がる令嬢達に阻まれ、ブライト公爵を探す事が出来ない。
「あら、アナベルなんて愛してもいなかったのによく言うわね」
「イザベラ……」
イザベラがいるということは、ブライト公爵もすでに会場にいるということ。エルビンは辺りを見回す。
「誰を探しているの? 私ならここにいるわよ。エルビンは私が好きすぎて、妹のアナベルと結婚したんですって。アナベルも気の毒よね。
まあ、あんなブスじゃ仕方ないわね」
「黙れ。お前になど興味はない。アナベルはお前なんかより、いや、誰よりも美しい」
近くにブライト公爵の姿はない。
「アナベルが美しかったら、あなたが裏切る事はなかったんじゃない? 今更、アナベルを愛してるなんて言わないわよね?」
エルビンは事実を言われて、言葉が出ない。アナベルもそう思っているのだと思うと、胸がチクリと傷んだ。
「お集まりの皆様、大切なゲストをご紹介させていただきます」
壇上に上がって話し始めたのは、ブライト公爵だった。ドラナルドの王太子夫妻を、国王の代わりに紹介する為に、裏で待機していたのだ。
「ドラナルド王国の王太子ルーク殿下と、王太子妃アナベル様です!」
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