上 下
19 / 44

19、波乱の舞踏会

しおりを挟む


 アナベルがルークと共に姿を消してから、1年と2ヶ月が経っていた。エルビンはあれからずっとアナベルを探しているが、最初の情報からなんの手がかりも掴めていなかった。

 ある日、1ヶ月後に舞踏会を開催するという知らせがエルビンに届いた。その舞踏会には、大国ドラナルド王国の王太子夫妻が出席する為、貴族やその家族は全員参加するようにとの事だった。

 「旦那様、この舞踏会には出席しなければなりません」

 バランはエルビンに、舞踏会の招待状を渡した。エルビンはアナベルがいなくなってから、社交の場に1度も出席していなかった。それどころではなかったからだ。
 ホーリー侯爵夫人の死の真相を知り、もしかしたらアナベルの身が危ういのではないかと心配になったエルビンは、イザベラに見張りをつけた。
 ホーリー侯爵夫人の時も、暴行する時にイザベラがその場にいた事を考えると、手を下すのはイザベラではなくても、人の不幸を自分の目で見たいはずと考えたからだ。
 イザベラをずっと見張っていたが、動き出す気配はない。毎日毎日、ブライト公爵とは別の男と遊び回っている。しかも、相手は毎回違う男。
 こんな女のせいで、アナベルを失ってしまったのかと思うと、怒りが込み上げてくる。

 「……分かった」

 舞踏会などどうでもよかったが、全員参加との事ならブライト公爵も出席するはず。
 エルビンは自分の過ちを含めて、イザベラがした事をブライト公爵に全て話そうと決めた。
 全てを話してしまえば、自分もただでは済まない事は分かっていた。それでもやると決めたのは、アナベルが望んでいたことだったからだ。
 手紙の内容を知った事で、アナベルはホーリー侯爵夫人の為に手紙を守ろうとしていたのだと知った。今の自分には、アナベルの為に出来ることがそれくらいしかないのだと思ったのだ。
 ホーリー侯爵が生きていたら、全てが公に出来たのに……そう思わずにはいられなかった。

 


 舞踏会当日、沢山の貴族達がいつもより豪華に着飾って次々に会場へとやって来る。
 少しでもドラナルドの王太子夫妻に、よく見られたいようだ。
 エルビンが会場に到着した時、イザベラを見張っていた者からの報告はなかった。

 「エルビン様、お久しぶりです! 私を覚えていらっしゃいますか?」
 「エルビン様だわ! 今日は私と、踊っていただけませんか?」
 「何抜け駆けしてるのよ! エルビン様と踊るのは私よ!!」

 エルビンが姿を現すと、令嬢達がいっせいに周りを取り囲んだ。
 この国では、伴侶が1年間行方不明になり、居場所がわからない場合は離縁が成立する。
 つまり、アナベルが姿を消してから1年以上経った事で、エルビンとアナベルは離縁した事になる。
 独身になったエルビンをものにしようと、令嬢達が躍起になっているのだ。

 「俺は、アナベル以外興味がない。そこをどいてくれ」

 周りに群がる令嬢達に阻まれ、ブライト公爵を探す事が出来ない。

 「あら、アナベルなんて愛してもいなかったのによく言うわね」

 「イザベラ……」

 イザベラがいるということは、ブライト公爵もすでに会場にいるということ。エルビンは辺りを見回す。

 「誰を探しているの? 私ならここにいるわよ。エルビンは私が好きすぎて、妹のアナベルと結婚したんですって。アナベルも気の毒よね。
 まあ、あんなブスじゃ仕方ないわね」

 「黙れ。お前になど興味はない。アナベルはお前なんかより、いや、誰よりも美しい」

 近くにブライト公爵の姿はない。

 「アナベルが美しかったら、あなたが裏切る事はなかったんじゃない? 今更、アナベルを愛してるなんて言わないわよね?」

 エルビンは事実を言われて、言葉が出ない。アナベルもそう思っているのだと思うと、胸がチクリと傷んだ。

 「お集まりの皆様、大切なゲストをご紹介させていただきます」
 
 壇上に上がって話し始めたのは、ブライト公爵だった。ドラナルドの王太子夫妻を、国王の代わりに紹介する為に、裏で待機していたのだ。

 「ドラナルド王国の王太子ルーク殿下と、王太子妃アナベル様です!」


しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。 私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。 彼の姉でなく、私の姉なのにだ。 両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。 そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。 寄り添うデイリ様とお姉様。 幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。 その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。 そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。 ※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。 ※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。 ※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう

水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。 しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。 マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。 マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。 そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。 しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。 怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。 そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。 そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……

処理中です...