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13、頼れる人

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 両親も夫も、誰も信用出来なくなった私は、これからどうしたらいいのか考えていました。
 お父様が手紙を破り捨てたのだから、実家でゆっくりなんて気分ではなくなり、すぐに邸に戻って来てしまいました。エルビン様がいるから戻りたいと思ったわけではなく……

 「美味しい! やっぱり、ルークの料理は最高ね!」

 ルークの料理が食べたかったからでした。
 エルビン様と顔を合わせたくなかった私は、食事を部屋に運んでもらいました。ルークは心配してくれているようで、自ら料理を運んで来てくれました。

 「美味しそうに食べてくださるのが、俺にとって何より嬉しい事です」

 料理を褒められて、本当に嬉しそうな顔をするルーク。ルークはすごいですね。私にも何か取り柄があったら良かったのですが……

 「ルークは、どうして料理人になろうと思ったの?」

 「兄が、俺の作った料理は世界一だって言ってくれたんです。俺にとって兄は、憧れであり目標でした」

 仲の良い兄弟なのですね。羨ましい。

 「良いお兄様ね」

 「はい。とても良い兄でした……」

 でした? 私が首を傾げると、

 「……兄は5年前に、亡くなりました」

 ルークはそう言って悲しそうに笑いました。

 「ごめんなさい……つらい事を思い出させちゃったわね」
 
 私ったら、無神経でした。

 「いいえ。兄との思い出は、幸せな事ばかりですので、つらくはありません。ただ、兄が亡くなり、俺は現実から逃げてしまいました。そろそろ、向き合わなければなりません」

 「ルークなら、キチンと向き合えるような気がする。だって、こんなに美味しい料理が作れるしね!」

 本当にそう思います。
 
 「奥様は、なぜこちらに戻って来られたのですか? あのまま、ご実家に居られた方が良かったのでは?」

 不思議そうな顔で、私を見つめてくるルーク。

 「実家にも、私の居場所なんてなかったの。信頼していたお父様も、ブライト伯爵家の事しか考えていなかったし。私には、頼れる人なんていないのだと思い知った」

 これからは慎重に動かなくてはなりません。お父様が偽物の手紙を破り捨てた事で、手紙の存在を知るのは私だけになったから、有効に使わなくては……

「……それなら、俺と一緒に逃げませんか?」

 「え……? 何を、言っているの?」

 ルークは真剣な面持ちで、じっと私の目を見つめてきました。
 
 「奥様が苦しむ姿を、見たくないのです!」

 ルークだけが、本気で私を心配してくれてるのが伝わって来ます。

 「ありがとう……でも、私は逃げたくない。お姉様からも、エルビン様からも」

 たった数日で、純粋に人を愛していた私の心は、黒く染まってしまいました。もう、前の私には戻れそうにありません。お姉様には、今までして来た事の報いを受けさせようと思います。そして、エルビン様には私を裏切った事を後悔させるつもりです。

 「それなら、俺にも何か手伝わせてください!」

 「ルーク、ありがとう。ルークの料理が食べられるだけで、私は幸せな気持ちになる。それだけで、十分よ」
 
 お姉様の事に関わったら、ルークの命まで危うくなってしまいます。それに、彼にはこんな事に関わって欲しくありません。

 


 ルークと話をしているところに、ノックもなしにいきなり乱暴にドアが開きました!

 「貴様……俺の妻に、何をしているんだ!?」

 入って来たのは、エルビン様でした。



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