上 下
12 / 44

12、わざと私に見せつけるお姉様

しおりを挟む


 
 お茶のトレイを持ち、寝室のドアをノックする。

 「もっと、キスして……んん…………っ……」

 中から聞こえて来るのは、吐息混じりの声。ドアの外にも聞こえるように、わざと大きな声を出しているようです。

 もう一度ノックをする。

 「……入りなさい……んっ……」

 ドアを開けて中に入ると、2人は舌を絡ませ、激しいキスをしていました。お姉様は私に見せつけるように、私の顔を見ながらエルビン様の口の中に舌を入れます。
 これでもう、エルビン様への想いは消え去りました。私達の幸せだったキスが、穢されてしまいました。

 「……んっ……エルビン……んん……私を……愛してる?」

 「愛してる……ずっと、愛していた……っ……」

 私には、1度も言ってくれなかったセリフ。エルビン様と笑いあっていた日々が、走馬灯のように流れてきます。これは、あなたへの想いとお別れする為のようです。
 もう二度と、元には戻れません……

 トレイを寝室のテーブルに置き、部屋から出ると、自分の部屋に戻り手紙を探します。
 手紙はエルビン様が開けようとしていた机の引き出しには、入っていません。机の上に置いてあった、エルビン様から頂いた本の間に挟んでいました。この本は、溺れたのを助けてくださった時にいただいたものでした。
 怖くて震えていた私に、『この本、面白いよ』と言って渡してくれました。
 今思えば、エルビン様はあの日、お姉様を助けようと駆けつけたのかもしれません。

 手紙を持ち、邸を出ました。
 馬車に乗り込むと、ゆっくりと走り出します。この邸に越してきた時は、あんなに幸せいっぱいだったのに、今はこの邸に二度と戻りたくないと思っています。
 
 実家に着くまでの間、両親にどんな風に話すか考えていました。
 ホーリー侯爵夫人の死に、お姉様が関わった証拠はありません。ですが、手紙にはお姉様がゴロツキを雇い、ホーリー侯爵夫人へ暴行してお腹の子を流産させた事は書いてあります。これはもちろん、立派な犯罪です。

 実家に着いてすぐに、お父様とお母様に手紙を見せました。

 「……信じられないわ。イザベラがそんな事するはずない。ホーリー侯爵夫人に、騙されているのよ」

 「お母様、ホーリー侯爵夫人は亡くなりました。その手紙を私に出した後、すぐに亡くなったのです。その手紙を届けた使用人も、行方不明です」

 「…………」

 お父様はショックが大きいのか、ずっと無言のままです。

 「アナベル、まさかホーリー侯爵夫人をイザベラが殺したと言いたいの!?」

 「私はそう思っています。ですが、証拠は何もありません」

 「証拠はないのだな。それなら、忘れなさい」

 お父様が口を開いたと思ったら、思いもよらなかったことを口にしました。

 「お父様!? 何を仰っているのですか!? お姉様は、罪を犯したのですよ!?」

 「お前は何がしたいのだ!? イザベラの罪を暴こうとでもいうのか!? イザベラは、お前の姉だ。守ろうとは思わないのか!?」

 家族だから、罪を犯した事を隠せと言うのですか!? お父様なら、分かってくれると思っていたのに……

 「お姉様の罪を隠す事は出来ません。ブライト公爵の権力を利用して、やりたい放題した挙句に人の命を奪ったのですよ? これからだって、更に罪を犯してしまうかもしれない!」

 「この話は終わりだ」

 そう言って、お父様は手紙を破り捨てました!

 「な!?」

 ビリビリになった手紙は床に散らばりました。ビリビリの手紙をかき集めようとすると、

 「やめろ。イザベラがした事が公になったら、私達だって無事ではすまないんだ! お前はこのグランド伯爵家を破滅させる気か!?」

 大好きだったお父様が、まさかこんな事を仰るなんて……

 ですがお父様、その手紙は馬車の中で私が書き写した偽物です。お母様はお姉様の事ばかり可愛がっていたので、保険のためでした。まさか、お父様が破り捨てるとは思っていませんでしたが、本物の手紙は無事ということです。
 お父様は、娘の書いた文字も分からなかったのですね。お父様だけは、私の味方だと思っていたのに……
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

(完)あなたの瞳に私は映っていなかったー妹に騙されていた私

青空一夏
恋愛
 私には一歳年下の妹がいる。彼女はとても男性にもてた。容姿は私とさほど変わらないのに、自分を可愛く引き立てるのが上手なのよ。お洒落をするのが大好きで身を飾りたてては、男性に流し目をおくるような子だった。  妹は男爵家に嫁ぎ玉の輿にのった。私も画廊を経営する男性と結婚する。私達姉妹はお互いの結婚を機に仲良くなっていく。ところがある日、夫と妹の会話が聞こえた。その会話は・・・・・・  これは妹と夫に裏切られたヒロインの物語。貴族のいる異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。 ※表紙は青空作成AIイラストです。ヒロインのマリアンです。 ※ショートショートから短編に変えました。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!

風見ゆうみ
恋愛
「1番愛しているのは君だ。だから、今から何が起こっても僕を信じて、僕が迎えに行くのを待っていてくれ」彼は、辺境伯の長女である私、リアラにそうお願いしたあと、パーティー会場に戻るなり「僕、タントス・ミゲルはここにいる、リアラ・フセラブルとの婚約を破棄し、公爵令嬢であるビアンカ・エッジホールとの婚約を宣言する」と叫んだ。 婚約破棄した上に公爵令嬢と婚約? 憤慨した私が婚約破棄を受けて、新しい婚約者を探していると、婚約者を奪った公爵令嬢の元婚約者であるルーザー・クレミナルが私の元へ訪ねてくる。 アグリタ国の第5王子である彼は整った顔立ちだけれど、戦好きで女性嫌い、直属の傭兵部隊を持ち、冷酷な人間だと貴族の中では有名な人物。そんな彼が私との婚約を持ちかけてくる。話してみると、そう悪い人でもなさそうだし、白い結婚を前提に婚約する事にしたのだけど、違うところから待ったがかかり…。 ※暴力表現が多いです。喧嘩が強い令嬢です。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。 格闘シーンがお好きでない方、浮気男に過剰に反応される方は読む事をお控え下さい。感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、感想欄での感情的な批判、暴言などはご遠慮願います。

嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」 顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。 裏表のあるの妹のお世話はもううんざり! 側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ! そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて―― それって側妃がやることじゃないでしょう!? ※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。

処理中です...