上 下
9 / 44

9、手紙

しおりを挟む


 夕食の時間、私は何もなかったように振る舞いました。

  「今日の料理も美味しいですね」
 
 「ああ、そうだな」

 エルビン様の返事は素っ気ないです。
 思えば、エルビン様の様子が変わったのは、お姉様が訪ねて来た日からでした。
 いいえ、その前の夜会の時からかもしれません。あの日、きっと何かあったのでしょう。

 「ホーリー侯爵夫人が、流産したそうです。すごくお辛そうでした」

 お姉様のせいみたいです……なんて、言えませんけど。

 「流産? それは、気の毒だな」

 顔色一つ変えないなんて、他人事のようですね。確かに他人事ですが、女性が子供を失う事がどれほど辛いことか……
 前のエルビン様なら、夫人をもう少し気遣っていたと思うのですが、私が勝手にそう思い込んでいただけなのでしょうか?

 「明日も、お仕事はこちらでなさるのですか?」

 そう聞くのは、明日は私が実家に行くことになっているからです。

 「そうだな。君は、実家のご両親に会いに行くんだったな。久しぶりだし、ゆっくりしてきなさい」

 今までなら、優しい旦那様だと思うところですが、今はそう思えません。きっと明日も、お姉様が来るのですね。

 「やっぱり、明日は実家に戻るのやめようかな。エルビン様が邸にいらっしゃるなら、私も……」

 「いや、行ってきなさい。仕事がたまっているから、君の相手をしてあげられない」

 そんなに私が邪魔なのですね。
 少しでも、私の事を考えていますか? エルビン様の心の中には、お姉様しかいないのですね。
 
 「分かりました。そうします」

 その日も、寝室は別でした。でも私は、ホッとしています。お姉様を抱いたエルビン様と、どんな顔をして一緒に眠ればいいのか、分からないからです。お姉様は抱くのに、私の事は抱こうとはしないのですね。
 私は、それでも妻と言えるのでしょうか……

 



 1人で寝る準備をしていると、バランが部屋に来ました。

 「奥様、ホーリー侯爵夫人から、お手紙が届いております」

 ホーリー侯爵夫人から? 
 お怒りの手紙でしょうか……
 バランから手紙を受け取り読んでみると、お怒りの手紙ではなく、謝罪の手紙でした。
 すぐに謝りたかったようで、私が帰った後すぐに書いて届けさせたと、手紙を持って来た使用人が言っていたそうです。

 〖今日は失礼な態度をとってしまい、大変申し訳ありませんでした。
 アナベル様がイザベラ様の妹というだけで、何も悪くないのに……気持ちを抑える事が出来ませんでした。
 アナベル様とイザベラ様が、不仲だとお聞きしました。だから、この事をお伝えしようと思います。
 私のお腹の子は、イザベラ様に殺されたのです。イザベラ様が雇ったゴロツキに、お腹を何度も何度も蹴られ、お腹の中の子の命を奪われました。
 その場にイザベラ様もいらっしゃり『私には子が出来ないのに、何で愛されていないあんたに子が出来るの? そんなの許さない!!』そう仰ったのです。
 その事を夫に話しても信じてもらえず、アナベル様に当たってしまいました。〗

 酷い……どうしてそんな事が出来るのでしょう!? 身勝手にもほどがあります!!

 手紙は、まだ続きます。

 〖泣き寝入りするなんて出来ません。
 ブライト公爵に、全てをお話するつもりです。信じてもらえなくても構いません。私のような思いを、他の方がしないようにしたい。
 本当は、子供を失ったあの日に死ぬつもりでした。だけど、私は生きる事を選んだ。生きて、イザベラ様がした事の罪を償わせようと思います。
 アナベル様、力を貸してはいただけないでしょうか? どうか、よろしくお願いします。〗

 手紙には、涙のあとが残っていました。
 どれほどおつらかった事でしょうか。お姉様は人間ではありません。悪魔です!
 エルビン様の事があるので少し複雑ですが、お姉様がホーリー侯爵夫人……シルビア様にした事は許されていいはずがありません。私でお役に立つなら、お手伝いしたいと思います。

 そう決めた私は、翌日実家に戻る前にシルビア様に会いに行ったのですが、お会いすることが出来ませんでした。
 シルビア様はもう、この世にいなかったのです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

フェミニンちゃん

三国華子
BL
地元で人気の喫茶店 隣のJKの声は、筒抜け! しかも、目の前の「野坂くん」の悪口言ってます!! 野坂くんは、突然の 告白!? JKよ、「フェミニンちゃん」って何なん?

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

処理中です...