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7、神様はいないのですか?
しおりを挟むお茶会に行く前に、ホーリー侯爵夫人の贈り物を買うことにした私は、朝食の後すぐに邸を出ました。
それにしても、ホーリー侯爵はどういう神経をしているのでしょうか。お姉様と浮気しながら、妻まで抱いていた……という事ですよね……気持ち悪いです。夫人もどんな気持ちで……って、考えても仕方ありませんね。
貴族の妻なら、跡取りを産まなければならないのだから、夫人に選択肢なんてなかったのかもしれません。
全てお姉様のせい……とは言いきれません。お姉様が誘ったのかは分かりませんが、ホーリー侯爵の意思でしたことです。
どうして男性は、見た目だけのお姉様を好きになってしまうのでしょう? お姉様はワガママ放題で、それを隠そうともしていません。それでもお姉様を好きになる男性の気持ちが、さっぱり分かりません。
「奥様、贈り物はおやめになった方がよろしいかと……」
店を見て回っていた私に、メイドのマヤが小声で言ってきました。
「どうして?」
「実は先程、街の人が噂していたのです。ホーリー侯爵夫人が、流産したと……」
流産!?
「噂……でしょ? 事実とは限らないわ」
噂なんてあてになりません。
夫に浮気されて、更に子まで失うなんて、そんな酷いこと、神様が許すはずがありません!
「そうですが、もし本当のことなら、贈り物をするのはよろしくないかと思います」
そんなわけないと思ってはいるけど、そんな噂をされて傷ついているかもしれません。子供には、触れない方がいいですね。
「そうね。贈り物はいつでも出来るし、また今度にするわ」
贈り物を買うのをやめて、ホーリー侯爵邸へと馬車を走らせました。まだお茶会には早いですが、夫人の事が気になってしまい、いてもたってもいられませんでした。
ホーリー侯爵邸に着くと、当たり前ですがまだ誰も来ていないようでした。門番に、早く来てしまった事を伝えると、中へ入れてくれました。
「随分、早いな。イザベラは元気にしてるかい?」
出迎えてくれたのは、ホーリー侯爵でした。私よりもホーリー侯爵の方が、お姉様の事をご存知なのでは? そう思ったけど、私も大人なので、口には出しませんでした。
「元気ですよ。多分」
余計な一言を言ってしまう辺り、やっぱり大人ではないのかもしれません。
「何しに来たの?」
少し遅れて顔を出した夫人は、すごく怒っているように見えます。
「時間より早く来てしまい、申し訳ありません」
「そんな事、どうでもいいわ! よく平然と顔を出せたわねっ!!」
えっと……
夫人は私が邸に来たから、怒っているのでしょうか?
「やめないか!」
「旦那様も旦那様よ!! あんな女にそそのかされて、遊ばれているのが分からないの!? あんな女の、どこがいいのよ!!」
バシッ!! と大きな音が響き渡り、ホーリー侯爵は夫人の頬を叩いていました。
「彼女を侮辱するのは許さない!!」
何……してるのですか? どうしてホーリー侯爵は、妻ではなくお姉様を庇ったのですか?
夫人は叩かれた左の頬を手で押さえ、涙を堪えています。
「不快な思いをさせて、申し訳ない。妻は子を失ったばかりで、気が立っているんだ。許してやってくれ」
子を失ったって……やっぱり、流産していたという事!?
「どうして……」
「あなたの姉のせいよ……あなたの姉が、私の子を殺したの……」
夫人は拳を握りしめながら、目に涙をいっぱい浮かべています。
「いい加減にしろ!!
すまないが、帰ってくれないか? 妻の体調が、思わしくないようだ」
どの口が言っているのでしょう!? 体調が思わしくない妻を殴ったくせに!!
何にしても、お姉様の妹である私がいるべきではないですね。私がお姉様を大嫌いでも、はたから見たら姉妹だということにまで、気が回りませんでした。私の落ち度です。
「不快にさせてしまい、申し訳ありませんでした。失礼します」
その場からすぐに立ち去り、馬車に乗り込みました。
夫人は流産してしまったのですね……
神様はいないのでしょうか……
お姉様が殺したとは、どういう意味なのでしょうか……
考えた所で、答えは出ません。
お茶会に出ることなく邸に戻った私は、早く戻ってしまった事を後悔する事になりました。
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