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まだまだ未熟でした。

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 そうだ。私、確かに言った。
 この人に「大丈夫だから」って。



 ──阿呆あほうが。



 たかむらが言ってた意味がやっと分かった。
 私が現地へ飛んだところで、運命は変わらないんだ。

 
 知らなかった。
 安請け合いをしたつもりはなかった。


 ……言い訳だ。
 私は怖かった。


 生命力にあふれ、ひたすら真っ直ぐに誰かを愛する若者。
 そんな彼の、死の宣告に立ち合うことが。



 「俺はまだ、こんなとこに来るわけにいかねえ!
 アコと一緒になるんだよ!」



 俗世では流れなかった涙が頬を伝った。
 痛みを感じないはずの冥界なのに、ものすごく胸が痛い。



 「どうしてくれんだ!!」


 シュンタさんが拳を振り上げる。




 「その辺にしておけ」




 いつの間にか、シュンタさんと私の間に篁が立っていた。
 大きな背中を見上げる。


 どうしてかばうの?


 そのまま殴られた方がマシだった。
 阿呆って言われた方が。


 「そなたの運命さだめと、この者は関係ない」


 「なにがサダメだ! そんなもん認めてたまるか!」


 シュンタさんが、振り上げた拳で篁に殴りかかる。
 篁は、それを軽く受け止めた。


 「このままでは悪霊化する」


 篁の手の中で、シュンタさんの拳は力を失っていく。


 「クソッ! どうすりゃいいんだよ、分かんねえよ……!」


 シュンタさんは篁の足元に泣き崩れた。


 「そなたも聞いておけ」


 篁が身体の向きを反転させる。
 涼しい横顔はいつもと変わらない。


 「冥界ここには、万に一つも間違いはない。
 これは運命さだめである」


 篁は、肩を震わせて嗚咽を漏らすシュンタさんの傍らにひざまずいた。


 「せめて、そなたらしくあれ」


 分からないといった表情のシュンタさんに向かって、篁は続ける。


 「永遠とわまみえること叶わずとも、俗世に残る者が知るそなたのままであれ。
 己を失い、悪霊になぞなるな」


 「アコが知ってる……俺……?」


 シュンタさんは、涙に濡れたままの顔を上げた。


 「そなたの心残りは何だ?」


 「アコの……幸せだけだよ」


 篁は大きく頷いた。
 そして、羽扇で私を指し示す。


 「この者、見ての通りの阿呆であるが……冥界ここと俗世を行き来できる。
 そなたの願いを聞き、不安を消してくれようぞ」


 戸惑っているシュンタさんに向かって、私はしっかりと頷いてみせる。
 もう、目はそむけない。


 「心は決まったか」


 静かに問う篁に、シュンタさんは「はい」と応じた。


 篁がゆっくりと羽扇をかざす。
 シュンタさんが大きく一つ、深呼吸する。


 「よう励んだな」


 篁の声音が、少し柔らかくなったような気がした。
 シュンタさんが目を閉じる。


 目の前が滲んだ。


 しっかり見届けるんだ。
 冥界の案内人として。




 「大往生であるぞ」




 篁が羽扇を振った──。



 
 


 




 


 
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