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第一章 九月の嵐

契約4

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 想像してから、ブンブンと首を振った。
 いくら何でも無謀すぎる!

 「絵美ぃ。あんた、多分やればできる子よ」

 言い方。超腹立つ。

 ルナは指をしゃぶりながら、愉快そうに私をうかがっている。
 赤ちゃんは怖い。小さくて壊れそうで。
 すぐ泣くし、言ってることも分からない。でも。

 ──あたしとは喋ってるじゃん。

 そうだ。さっきから、ずっと。
 ルナの言うことなら分かる。
 ルナとは意思疎通ができているのだ。

 恐怖の原因の一つは、除去されている。

 捉え方によってはチャンスかもしれない。
 喋る赤ちゃんなど滅多に出会えるものではない。
 っていうか、全般的に赤ちゃんは喋らない。

 「分かったわよ」

 気づいたら口にしていた。
 どうせ、職探しへの意欲も失せていたところだ。
 気分転換とアレルギーの克服を兼ねられるなんて、一石二鳥じゃない?

 「預かってあげるわ」

 もう一度断っておくが、私は鬼ではない。
 小さき者を保護するのは、大人の務めなのである!

 意思疎通ができるなら、赤ちゃんよりチョロい。
 この時の私は、そう思っていた。

 ルナは、しゃぶっていた指をおもむろに口から外し、ぎゅっとまばたきして見せる。

 「ようやく、その気になったわね」

 私はルナを凝視したまま、こっくりと頷いた。

 「契約成立ね」

 ルナが私の指を握る。

 九月二十五日。
 十畳のワンルームから、男の痕跡が全て消えた日。
 寂しい夏の終わり。
 私の部屋に、赤ちゃんがやって来た。

 せいぜい利用してやる。
 どうせ、たった三ヶ月間のことだ。
 これでベビー・アレルギーを克服する。
 幸せを掴む足がかりにしてやる!

 九月二十五日。
 ある意味、忘れられない日になっ……
 




 「さあ。それじゃ早速、抱っこでもしてもらおうかしら」

 「……」

 「ほら。やってみなさいよ」

 行き当たりばったりな性格が災いした。

 「おぎゃぁぁぁっ!」

 「えーっ!?」



 九月二十五日は、まだ終わっていなかった──。
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