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アゴス防衛戦
#37 ミスター・リア充との再会
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ギギ……。
アゴスの城門が細く開いた。
「さあ、街に入りましょう」
リリティスが近づくと、城門を守る兵士たちはうやうやしく頭を垂れた。
「ようこそ聖職騎士さま。どうぞアゴスの門をお通りください」
「ありがとうございます」
馬にまたがったまま、リリティスは悠然と城門をくぐった。
しかし、そのあとにくっついていこうとした遊太は、交差した槍で行く手を遮られた。
「おっと兄ちゃん。馬から降りな」
「おれはあの子の連れだよ」
ムスッとする遊太だが、門番たちは気にもしなかった。
「規則だから」
「今、オーガたちをやっつけたの、見なかった? 街の英雄じゃね、おれ?」
「見たよ。でも関係ない。規則だから」
一点張りである。
遊太はしぶしぶ下馬した。
スクラッチを引いて前に進もうとした遊太に、門番は手を出した。
「なに?」
「入国税。千コボル」
「リリティスは払ってないじゃん!」
「当たり前だろ。聖職者と貴族は税金免除だよ。バカか」
「んがーーー! 格差社会だあーーー! 納得いかねえーーー!」
プンスカしながら遊太はコインの入った財布を出す。
受け取ったお金を集金箱に放り込みながら、門番は言った。
「規則だからね」
アゴスの街に入るとすぐの広場に、大きなテントが張られていた。
「参戦希望の傭兵はこちらで登録することー!」
若い兵士が叫んでいる。その横には、いかつい男女の長い行列ができていた。
遊太はいきなりげんなりしてしまう。
「うへー、あの列に並ぶのか……」
人間の姿になったアフラがうなずく。
「当然じゃ。きちんと契約しておかんと給金もらえんぞ」
「個人営業っていちいちたいへんだな……」
公共の馬留めにスクラッチをつなぐと、しぶしぶ遊太は列の最後尾に並んだ。
ふと、一足先に城内に入ったリリティスのことが思い浮かぶ。
「リリティスはどこ行ったんだろ」
戦闘が近づき、広場は人でごった返している。目でリリティスの姿を探すが、どこにも見当たらない。
アフラが答える。
「もったいなくもかしこくもアイオーラの聖職騎士さまじゃからの。国賓としてアゴス大公の城館に招かれておったとしても不思議ではない」
「へえー。リリティスって偉かったんだな」
遊太にとっては、森で出会ったただの一人旅の少女だけれど、こうして街に入れば身分も格式もある立派な騎士なのだ。
一時間以上もぼんやり列に並んだだろうか。ようやく遊太の番がきた。
テントの中の机に向かった事務官は、遊太の顔を見もせずに申請用紙を突き出した。
「所定の項目に記入してください。字が書けない場合は口頭でどうぞ」
事務官の顔に気づいた遊太は、思わず大声をあげていた。
「高林くん!?」
ようやく事務官は顔を上げた。遊太を見るなり、目を丸くする。
「安生くんかい? 驚いたな。きみ、無事だったんだ」
そこにいたのは、間違いなくミスター・リア充こと、高林統也だった。
遊太はすぐに、異世界初日でぶちかまされたこいつの冷たい仕打ちを思い出した。口調もいくぶんイヤミっぽくなる。
「あー、おかげさまでまだ生きてるよ。あんたは騎士団入って事務仕事かい?」
イヤミに気づかないのか、それともわざとスルーしているか、高林は平然とうなずく。
「うん。主計官だからね。騎士団の財務を預かる大事な仕事だよ」
「下っ端事務職じゃ、そっちも百億貯めるの大変そうだねー。んんー?」
高林はやはり泰然自若だ。
「うん、楽じゃないね。でも僕なりのライフプランはもう立ててるよ。幸い、入団初日で主計長補の役付きになれた。今の主計長は高齢で退職間際だし、ぼくは騎士団の首脳部にウケがいいから、来年には主計長に就任するつもりだ。そうしたら報酬は幹部待遇になるし、予算にタッチする権限も絶対的に大きくなる。必要経費は全部公費で落ちるし、あとはどれだけ懐に入れるか、ぼくの裁量次第さ。まあ、百億満額まで三年ってところかな」
「どえらく具体的だなおい! えっ、三年!? すごいなあんた!」
異世界にやってきてわずか数日でライフプランって。しかもすごい現実的。
このリア充野郎、どんだけ適応力あるんだよ。
遊太は開いた口がふさがらない。
こちとら傭兵を始めたはいいが、一仕事で幾ら稼げるのかすらまだ見当もつかないというのに。
なにかの書類にさらさらとペンを走らせながら、高林は言った。
「結局、どんな世界に行こうとビジネスはビジネスだよ。要領よくやった奴が勝ち組さ」
うぐぐぐ……は、鼻につくぅ~。
歯ぎしりを必死にこらえながら、申請書類に記入する遊太である。
アゴスの城門が細く開いた。
「さあ、街に入りましょう」
リリティスが近づくと、城門を守る兵士たちはうやうやしく頭を垂れた。
「ようこそ聖職騎士さま。どうぞアゴスの門をお通りください」
「ありがとうございます」
馬にまたがったまま、リリティスは悠然と城門をくぐった。
しかし、そのあとにくっついていこうとした遊太は、交差した槍で行く手を遮られた。
「おっと兄ちゃん。馬から降りな」
「おれはあの子の連れだよ」
ムスッとする遊太だが、門番たちは気にもしなかった。
「規則だから」
「今、オーガたちをやっつけたの、見なかった? 街の英雄じゃね、おれ?」
「見たよ。でも関係ない。規則だから」
一点張りである。
遊太はしぶしぶ下馬した。
スクラッチを引いて前に進もうとした遊太に、門番は手を出した。
「なに?」
「入国税。千コボル」
「リリティスは払ってないじゃん!」
「当たり前だろ。聖職者と貴族は税金免除だよ。バカか」
「んがーーー! 格差社会だあーーー! 納得いかねえーーー!」
プンスカしながら遊太はコインの入った財布を出す。
受け取ったお金を集金箱に放り込みながら、門番は言った。
「規則だからね」
アゴスの街に入るとすぐの広場に、大きなテントが張られていた。
「参戦希望の傭兵はこちらで登録することー!」
若い兵士が叫んでいる。その横には、いかつい男女の長い行列ができていた。
遊太はいきなりげんなりしてしまう。
「うへー、あの列に並ぶのか……」
人間の姿になったアフラがうなずく。
「当然じゃ。きちんと契約しておかんと給金もらえんぞ」
「個人営業っていちいちたいへんだな……」
公共の馬留めにスクラッチをつなぐと、しぶしぶ遊太は列の最後尾に並んだ。
ふと、一足先に城内に入ったリリティスのことが思い浮かぶ。
「リリティスはどこ行ったんだろ」
戦闘が近づき、広場は人でごった返している。目でリリティスの姿を探すが、どこにも見当たらない。
アフラが答える。
「もったいなくもかしこくもアイオーラの聖職騎士さまじゃからの。国賓としてアゴス大公の城館に招かれておったとしても不思議ではない」
「へえー。リリティスって偉かったんだな」
遊太にとっては、森で出会ったただの一人旅の少女だけれど、こうして街に入れば身分も格式もある立派な騎士なのだ。
一時間以上もぼんやり列に並んだだろうか。ようやく遊太の番がきた。
テントの中の机に向かった事務官は、遊太の顔を見もせずに申請用紙を突き出した。
「所定の項目に記入してください。字が書けない場合は口頭でどうぞ」
事務官の顔に気づいた遊太は、思わず大声をあげていた。
「高林くん!?」
ようやく事務官は顔を上げた。遊太を見るなり、目を丸くする。
「安生くんかい? 驚いたな。きみ、無事だったんだ」
そこにいたのは、間違いなくミスター・リア充こと、高林統也だった。
遊太はすぐに、異世界初日でぶちかまされたこいつの冷たい仕打ちを思い出した。口調もいくぶんイヤミっぽくなる。
「あー、おかげさまでまだ生きてるよ。あんたは騎士団入って事務仕事かい?」
イヤミに気づかないのか、それともわざとスルーしているか、高林は平然とうなずく。
「うん。主計官だからね。騎士団の財務を預かる大事な仕事だよ」
「下っ端事務職じゃ、そっちも百億貯めるの大変そうだねー。んんー?」
高林はやはり泰然自若だ。
「うん、楽じゃないね。でも僕なりのライフプランはもう立ててるよ。幸い、入団初日で主計長補の役付きになれた。今の主計長は高齢で退職間際だし、ぼくは騎士団の首脳部にウケがいいから、来年には主計長に就任するつもりだ。そうしたら報酬は幹部待遇になるし、予算にタッチする権限も絶対的に大きくなる。必要経費は全部公費で落ちるし、あとはどれだけ懐に入れるか、ぼくの裁量次第さ。まあ、百億満額まで三年ってところかな」
「どえらく具体的だなおい! えっ、三年!? すごいなあんた!」
異世界にやってきてわずか数日でライフプランって。しかもすごい現実的。
このリア充野郎、どんだけ適応力あるんだよ。
遊太は開いた口がふさがらない。
こちとら傭兵を始めたはいいが、一仕事で幾ら稼げるのかすらまだ見当もつかないというのに。
なにかの書類にさらさらとペンを走らせながら、高林は言った。
「結局、どんな世界に行こうとビジネスはビジネスだよ。要領よくやった奴が勝ち組さ」
うぐぐぐ……は、鼻につくぅ~。
歯ぎしりを必死にこらえながら、申請書類に記入する遊太である。
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