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聖女騎士リリティス
#29 魔槍 vs 聖剣
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遊太は固まる。
「え?」
リリティスはつかつかとこちらへ戻ってくる。
「なぜ、槍の名がアフラザゼルだと知っているのですか?」
やってもたあー! 口すべったあー!
アフラは「バカタレが」というように天を仰いでいる。
「えっ、や、だって、有名でしょ?」
「魔神の名は限られた魔法書にしか記されていません。読めるのは魔法使いか、高位の聖職者、よほど身分と教養の高い貴族くらいです。失礼ですが、貧しい農民の子供が読解できるものではありません」
すでにリリティスは剣の柄を握っている。目はまったく笑っていない。
「答えなさい。あなたは何者ですか。魔神の槍についてなにを知っているんですか」
地面に座り込んだまま、遊太は身じろぎもできない。
下手に動けば、さっきの木みたいにあの剣で真っ二つだ。
突然。
アフラがかぶっていた敷布をはねのけて、自ら焚き火の中に飛び込んだ。
「主よ!」
バッ! 焚き火が崩れ、焼けた炭や火の粉が高く舞い上がる。
反射的にリリティスは顔をそむけた。
一瞬の間隙ができる。
リリティスが顔をあげたとき、そこには魔神の槍を手に身構えた遊太がいた。
「あなたが……そうだったのですね。まさかとは思いましたが」
リリティスは驚きを隠せない様子だった。
「そんなに意外でした?」
じりじりと間合いを変えながら、遊太が尋ねる。
「ええ。だって、とても魔神と契約するような人間には見えませんもの。とてもいい人そうだし、ひ弱そうだし、平凡そうだし」
「当たってるけど後半傷つく! こっちにもいろいろ事情がありまして」
「ならば仕方ありません」
リリティスはすらりと剣を抜いた。
ピィィィィン……。
たちまち神々しい霊気が周囲に張り詰める。
槍が遊太にささやきかける。
「油断するな主よ。あれはただの剣ではない。古の処女神官によって鍛えられ祝福された本物の聖剣じゃ。我とてもたやすくは倒せぬやもしれん」
「マジかよ……」
絶対優位のチート武器を装備しているという遊太の自信が、さっそくグラグラしてくる。
リリティスは、剣を垂直に立てて自分の額を押し当てた。
「聖なる剣イスタリオンよ、我とともに悪をくじき給え、我に力を与え給え」
大きく剣を振りかぶると、リリティスは猛然と遊太に飛びかかった。
「魔神滅ぶべし!」
(速い!)
アフラによってブーストされた視覚をもってしても、リリティスの動きは少しもスローに見えない。
体が勝手に動いてイスタリオンの初撃を弾く。
が、リリティスは止まらない。
凄まじい突きの連撃。まるで十本の剣が一斉に突きかかってくるかのようだ。
そしてアフラは、それを凌ぐスピードですべてを受け返す。
遊太は後方へとんぼを切って、大きく距離をとる。
アフラが叫ぶ。
「やはり楽にはいかんな! 主よ、本気で行くぞ!」
遊太は叫び返す。
「殺すなよ!」
「この期に及んでまだそんな甘いことを……!」
明らかに魔神は苛立っていたが、遊太は退かない。
「前に言ったよな! 人は殺さない! わかったな!」
「相手は本気じゃぞ! どうせよというのじゃ!」
遊太のキリリ顔が、急にデレつく。
「だからさー、よくあるだろ? 都合よく鎧だけ破壊してポロリイヤーンみたいなパターン」
「あるか、そんなパターン!」
「そこをなんとか! 無敵の魔神だろ!?」
この一点に関してだけは、遊太はとにかく頑固だ。
「チッ。よかろう、命だけは容赦してくれる。だが敵も相当の手練じゃ。ギリギリの手加減しかできんぞ」
槍頭を包む暗い紫色の炎が、いっそう燃え盛る。
いよいよアフラザゼルの魔力が本格的に解放される。
「え?」
リリティスはつかつかとこちらへ戻ってくる。
「なぜ、槍の名がアフラザゼルだと知っているのですか?」
やってもたあー! 口すべったあー!
アフラは「バカタレが」というように天を仰いでいる。
「えっ、や、だって、有名でしょ?」
「魔神の名は限られた魔法書にしか記されていません。読めるのは魔法使いか、高位の聖職者、よほど身分と教養の高い貴族くらいです。失礼ですが、貧しい農民の子供が読解できるものではありません」
すでにリリティスは剣の柄を握っている。目はまったく笑っていない。
「答えなさい。あなたは何者ですか。魔神の槍についてなにを知っているんですか」
地面に座り込んだまま、遊太は身じろぎもできない。
下手に動けば、さっきの木みたいにあの剣で真っ二つだ。
突然。
アフラがかぶっていた敷布をはねのけて、自ら焚き火の中に飛び込んだ。
「主よ!」
バッ! 焚き火が崩れ、焼けた炭や火の粉が高く舞い上がる。
反射的にリリティスは顔をそむけた。
一瞬の間隙ができる。
リリティスが顔をあげたとき、そこには魔神の槍を手に身構えた遊太がいた。
「あなたが……そうだったのですね。まさかとは思いましたが」
リリティスは驚きを隠せない様子だった。
「そんなに意外でした?」
じりじりと間合いを変えながら、遊太が尋ねる。
「ええ。だって、とても魔神と契約するような人間には見えませんもの。とてもいい人そうだし、ひ弱そうだし、平凡そうだし」
「当たってるけど後半傷つく! こっちにもいろいろ事情がありまして」
「ならば仕方ありません」
リリティスはすらりと剣を抜いた。
ピィィィィン……。
たちまち神々しい霊気が周囲に張り詰める。
槍が遊太にささやきかける。
「油断するな主よ。あれはただの剣ではない。古の処女神官によって鍛えられ祝福された本物の聖剣じゃ。我とてもたやすくは倒せぬやもしれん」
「マジかよ……」
絶対優位のチート武器を装備しているという遊太の自信が、さっそくグラグラしてくる。
リリティスは、剣を垂直に立てて自分の額を押し当てた。
「聖なる剣イスタリオンよ、我とともに悪をくじき給え、我に力を与え給え」
大きく剣を振りかぶると、リリティスは猛然と遊太に飛びかかった。
「魔神滅ぶべし!」
(速い!)
アフラによってブーストされた視覚をもってしても、リリティスの動きは少しもスローに見えない。
体が勝手に動いてイスタリオンの初撃を弾く。
が、リリティスは止まらない。
凄まじい突きの連撃。まるで十本の剣が一斉に突きかかってくるかのようだ。
そしてアフラは、それを凌ぐスピードですべてを受け返す。
遊太は後方へとんぼを切って、大きく距離をとる。
アフラが叫ぶ。
「やはり楽にはいかんな! 主よ、本気で行くぞ!」
遊太は叫び返す。
「殺すなよ!」
「この期に及んでまだそんな甘いことを……!」
明らかに魔神は苛立っていたが、遊太は退かない。
「前に言ったよな! 人は殺さない! わかったな!」
「相手は本気じゃぞ! どうせよというのじゃ!」
遊太のキリリ顔が、急にデレつく。
「だからさー、よくあるだろ? 都合よく鎧だけ破壊してポロリイヤーンみたいなパターン」
「あるか、そんなパターン!」
「そこをなんとか! 無敵の魔神だろ!?」
この一点に関してだけは、遊太はとにかく頑固だ。
「チッ。よかろう、命だけは容赦してくれる。だが敵も相当の手練じゃ。ギリギリの手加減しかできんぞ」
槍頭を包む暗い紫色の炎が、いっそう燃え盛る。
いよいよアフラザゼルの魔力が本格的に解放される。
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