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念願のダンジョン探検隊に就職したぞ(ただし雑用係)

#8 コカトリスがあらわれた!

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 それは、ニワトリだった。

 ただ、とんでもなくでっかいニワトリだ。トサカの高さは二階建ての家の屋根くらいある。
 翼はドラゴンのそれ。尻尾は蛇。

「コカトリスだあーーーーー!」
 誰かが叫んだ。
「コケーーーーーーーーッ!」
 コカトリスも叫んだ。
 同時に、そのクチバシから黄色いガスが吹き出す。
 反射的に、遊太は鼻をつまんでいた。
「く、くっさあーーーーーっ!」
 タマゴの腐ったような猛烈な異臭だ。
 最前列にいた傭兵が、バタリと倒れた。口から泡を吹いている。
 でもそれは、臭さに悶絶したためではなさそうだった。
「毒だあ! 毒を吐いてるぞおー!」

「後退! 後退ーーーーっ!」
 全員が、きびすを返してもと来た道を全力で戻り始めた。
 鼻と口を素早く布で覆ったガッツのある弩使いのコンビが、コカトリスに矢を発射する。
 矢は腹に命中したが、ダメージはほぼゼロだった。
 弩使いの一人は脚で踏み潰され、もう一人は尻尾の蛇に丸呑みされてしまった。

 ドブルイニュは肥満体のくせに、おそろしい逃げ足だった。部下たちを置いて、誰よりも速くもと来た道を駆け戻っていく。兵士や人足たちも、必死でそのあとについていく。
 もちろん、遊太もだ。荷物を放り捨てて、全力疾走。
 すぐ前で、ヴェルマが叫ぶ。
「遅れるんじゃないよ、ユータ!」
「は、はひっ!」

 走りながら、遊太はある異変に気づいた。
 前方の地面の石畳に、亀裂ができていた。しかも、みるみる網の目のように広がっていく。
「床が崩れる!」
 ヴェルマが振り返る。
「え!? なんだって!?」
 聞こえていない。亀裂にも気づいていない。
 ヴェルマの目前で、ついに床が崩落した。直径一メートル近い穴がぼこりと口を開けた。
 このままでは、ヴェルマは落ちる。
「んがーっ!」
 気がつくと、遊太はヴェルマを突き飛ばしていた。
 女戦士はつんのめり、結果として床の穴を飛び越えた。

 遊太も体勢を崩す。
 そして、目の前には真っ黒な陥穽があった。
 なにかにつかまろうと手をばたつかせたが、ムダだった。
 見事に遊太は、穴に転がり落ちた。

 松明を握っているが、底はまったく見えない。めちゃくちゃに深い。
 これは確実におだぶつだろう。
(ああ、異世界に来てたった数時間でゲームオーバーか、おれ。まあ、だれも頼る相手のいない異世界で、ビキニアーマーのケモ耳美人にやさしくしてもらったしな。感謝の気持ちは、返さないとな)
 暗い地底に落ちていきながら、遊太は思った。
(でも死ぬ前に一度でいいからしたかったな……見抜き)


 どぼん。
 遊太は、冷たい水の中に落ちた。
「ぷはっ」
 じたばたではあるけれどなんとか泳いで、水から顔を出す。
 水面で思い切りお腹を打って痛かったけど、とにかく生きてる。
 そこは、自然の鍾乳洞のようだった。むき出しの岩肌が見える。地底湖に落ちたらしい。

 上を見上げる。
 落ちてきた穴は見えなかった。かなりの高さがある。自力で登るのは無理そうだ。
「ていうか、なんでまわりが見えるんだ? 松明ないのに?」
 松明は水中に落ちたときに消えてしまった。
 今いる場所は完全な暗黒のはずだ。
 遊太は振り返った。
 理由がわかった。

 地底湖には岩でできた小さな島があって、そこでなにかがぼんやりと青く光っているのだ。
 遊太は泳いで、その島に這い上がる。
 差し渡し十歩とない、岩の塊。
 その中心に、「それ」はあった。

 槍だった。

 長さは二メートルというところか。細く引き絞られた竜巻のような、美しい槍頭を持っている。
 光っているのは、その槍頭だった。
 しかもその槍は、岩に突き立てられているのはではなかった。どんな力か、拳ひとつ分ほどの高さに浮かんで静止している。

 魔神の槍。

 ドブルイニュがそんなことを言っていた。
 どうやら遊太は、このクエストの目的であるアイテムを見つけてしまったようだ。
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