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59 煽るねぇ……

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背後に川、前方に迫る敵……べつに背水の陣という言葉を体現したいわけじゃない。ただ〝水〟がそばにあるので、私というが生きてくる。

始源マナよ、百千ももちたる鋭刃の水輪となりて、其を轢断ぜよ」

5歳の頃にこれをぶっ放した時は爽快だった。今は魔力を10分の1程度に抑えられているが、それでも魔力総量も瞬間的な出力もあの頃よりはるかに上……。

〝百車水輪〟バーリヒ・バルミルド

その名のとおり激しく渦巻く水の円環が縦に回転して疾走していき、魔人の先頭集団を呑み込んだ。

「皇子、ウェイク、ミラノ!」

止まらない場合もいちおう想定してはいたが、可能性は低いと思っていた。馬は潰れたのに迫る勢いがひとり止まらない大男の右拳を皇子の磁気盾が受け止めると双方、大きく仰け反った。

「オラオラオラオラオラオラァァァァァッ!」

隙が出来たところにウェイクが連撃ラッシュをかける。右に左に大男の頭が吹き飛ぶが、巨腕ではない普通の左拳でウェイクを吹き飛ばす。

「いってぇぇ……この化け物が」

魔力が抑えられているのにふたりとも充分すごい。

ふたりが時間を稼いでくれたおかげで私に次ぐ魔法の使い手ミラノの魔法が完成した。

空気球エアバルーン──相手を倒すための魔法ではないが、この状況下において、すごく有効的で智者と誉れ高いミラノらしい魔法。

黄色い丸い球に大男は包まれると、ゆっくりと上空へ浮上していく。ゴムのような性質があり、中からどんなに強烈な打撃を加えてもまず割れない風系魔法の中でもかなり異質な部類に入る。

3人が大男の相手をしてくれたので、私は前方奥に残っている魔人をハチの巣にするべく二重奏デュオチャントで詠っていたもうひとつの魔法の詠唱を綴り終えた。

〝連射水弾〟ウォーターガトリング──毎分200発の当たれば四肢が吹き飛ぶ防御不可能な水系上位魔法で使い手泣かせな高難度の魔法として知られている。今の私の魔力では消耗が激しく使用不可な高出力魔法だが背後に川があったのでうまく使えた。きっかり2分間連射を続けたあと、後方で呻いている魔人の残りを突撃して狩りつくした。



「へぇー、ダリウムが出て行ったのにここまで来るってことはアンタら、とんでもなく強いね」

おおー、なんかムキムキマッチョな女のひとが出てきた。褐色の肌に赤い髪、頭には魔人の特徴である2本の角が生えているが、私はパッと見、嫌いじゃないタイプだと感じた。

「アタイはナルミ。4騎士のひとりさ」

深い霧が立ち込める中、高い外壁の上に立ち、私たちを見下ろしている。外壁のてっぺんにある胸壁の隙間から弓兵がこちらを狙っているので、これ以上は近寄れない。

「それで臆病なナルミさん、降りてきて戦ってくれないの?」
「煽るねぇ……まあアタイ的には戦いたいところなんだけど」

彼女は自分が敗れたら、城下町に暮らす無辜の民が虐げられるので、好きでもない籠城戦に徹すると話す。やっぱり嫌いになれないなこのひと。

「それで、アンタ達はここへ何しに来たんだい?」
「捕らえている人間と魔王を差し出してくれれば、これ以上は攻めない」

サラサの見た目の特徴を説明し。魔王が魔人以外の全種族を滅ぼそうと企んでいることを知っていると話した。

「そうかい、娘の方は返してやりたいのはやまやまなんだけど」

魔王に命令されているため、サラサも魔王の身柄も渡せないと断られた。

「魔人はチカラのあるものに従う。魔王様の命令は絶対なのさ」
「ふーん、じゃあ私が魔王をボコボコにしたら言うこと聞くんだ?」
「おもしろいことを言うね~お嬢ちゃん、やれるモンならやってみな」

交渉は決裂か。でも良い情報を得た。

「ところで私たちの仲間に器用な子がいるんだよねー」
「……それがどうしたのさ?」
「その子、頭のおかしい将軍に魔改造されちゃって、変身魔法が得意なんだよなーこれが」
「アンタたちまさかッ!?」
「魔紋までコピーできるから、見破れるかなーあなた達に?」



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