上 下
55 / 68

55 憧れの女性(ひと)

しおりを挟む
「オポト無事だったんだね」
「はい、皇子、木人きびとが助けてくれました」

地底世界へきて約3か月が経とうとしている。

ボクは100階層の地底世界へ飛ばされたあと、地底人のいる村のすぐそばに落ちたのでそれほど苦労はしなかった。だが一緒に行動をともにしているミラノやウェイクはこの村に着くまでにかなり大変だったと本人たちから聞いた。

今日になって、木人きびとに案内されてオポトがこの村へやってきた。

木人はこの地底の世界の他の種族と比べると温和な部類に入る。人間に敵対的な態度を取らないため、この村の住人も木人には気を許している。

オポトはこの村の近くにある木人の群れとはまた違う群れのところで保護されたそう。いくつかの木人の群れを渡り歩いてこの村までやって来れたそうだ。

今、ボク達が滞在しているこの村は1万人近くおり、規模がかなり大きい。近くにもここより規模は小さいながら3つ村があって、4つの村が支え合って成り立っている。

この地底世界の住人は魔法が使えず、魔力という概念すら知らない。文明のレベルもそこまで高くなく医療体制もほぼ民間呪術や薬草に頼っていて、あまり期待はできない。

2ヵ月前までこの村から半日ほど離れたところに炎人という好戦的な種族がいたが、ボク達魔法を使える3人を中心に戦闘を仕掛けてなんとか炎人を倒すことはできた。だがその争いの中で多くのひとが命を落とし、ウェイクもひどい火傷を負った。一時期死線をさまよったが、なんとか持ちこたえて今はどうにか歩けるくらいには回復している。

炎人がいなくなって村のひと達は喜んでいたが、今度は別の種族が1ヵ月前あたりから村へちょっかいを出してくるようになった。森に程ちかい家畜小屋が襲われたり、柵を壊されたりといった被害が出ているらしい。

魔人と呼ばれる連中で、どうやらボク達と同じく魔法らしきものを使ってくるそうだ。幸い確認できている数はそこまで多くないので、まだ大きな被害は出ていないが、炎人同様に早めに対策を立てなければならない。

3日後、魔人との間で大きな争いが起きた。まだそこまで動けないウェイクを残し、ボクとミラノ、オポトの3人で村人たちの応援にひとつ山を越えた先にある火の手の上がった別の村へ向かった。

くそっ武器まで使ってくるのか……。2か月前まで争っていた炎人は元よりこの地底世界の人間以外の種族は武器を使わないと聞いていたのだが。目の前で振りかざした魔族の剣を磁気盾ピレルビで弾き、銃光剣レイズンの先についている銃口を向けて、魔人の頭を吹き飛ばした。

チカラも強く、初歩的なものだが魔法まで使ってくる。おまけに武器を持っているので、数が多いだけの村人たちはボクら3人の善戦むなしくどんどん倒れていく。

「ボクらに任せて退却するんだっ!?」

このままでは全滅してしまう。村人を逃すために3人で殿しんがりを受け持つと村人達へ大声で伝えた。

すると。

トトトトッ、と大量の矢が降り注ぎ、目の前に迫った魔人たちが次々に倒れた。

「素晴しい指導者になれるね、皇子」

その声は……。

建物の上に見間違えるはずがないボクの憧れの女性ひとが立っていた。

「だけど自分を犠牲にしようとすのは良くないな~。味方も自分も助かる方法を最後の最後まで考えないと」

「オオォ」と鬨の声が上がると、彼女が立っている建物の両脇から完全武装した民兵たちが怯んだ魔人たちに突撃していき、次々に打倒していく。

魔人のひとりが苦し紛れに放った火球を指でピンっと弾きながら、3か月前に離れ離れになったシリカ・ランバートが魔人たちに宣告する。

「サラサをどこへやったの? 答えなさい。答えたら楽にしてあげる」

鋼でできた鎧に盾を装備した一団のなかにエマやロニも加わっていて、積極的に魔人を狩っている。魔人たちの武器が鋳造技術で造られた青銅製であるのに対し、完全武装の一団が使っている武器は鍛造された鋼の剣や長い槍。弓兵が後方から援護射撃を行い、長槍を持った兵が魔人の先頭集団を貫き、その脇を抜刀した剣兵が魔人へ肉薄して圧倒する。魔法が使えず身体的に劣っていても、武具性能が高く、戦術を操る人間の方が強かった。

おまけに屋根の上から相変わらずの限界を知らないシリカの魔法が奥にいる魔人たちを魔法で片づけているので、1時間もしないうちに決着がついた。

「光を纏う女は我ら魔王の貢物として捧げた」
「ふざけんな、このこのこの!」

魔人の将らしき人物を捕獲して、尋問するとニヤリと笑みを浮かべシリカを挑発したので、怒ったシリカは手刀のカタチを作って魔人の将にビシビシと地味な攻撃を仕掛けている。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約破棄された男爵令嬢〜盤面のラブゲーム

清水花
恋愛
 チェスター王国のポーンドット男爵家に生を受けたローレライ・ポーンドット十五歳。  彼女は決して高位とは言えない身分の中でありながらも父の言いつけを守り貴族たる誇りを持って、近々サーキスタ子爵令息のアシュトレイ・サーキスタ卿と結婚する予定だった。  だが、とある公爵家にて行われた盛大な茶会の会場で彼女は突然、サーキスタ卿から婚約破棄を突きつけられてしまう。  突然の出来事に理解が出来ず慌てるローレライだったが、その婚約破棄を皮切りに更なる困難が彼女を苦しめていく。  貴族たる誇りを持って生きるとは何なのか。  人間らしく生きるとは何なのか。  今、壮絶な悪意が彼女に牙を剥く。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

彼女がいなくなった6年後の話

こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。 彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。 彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。 「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」 何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。 「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」 突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。 ※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です! ※なろう様にも掲載

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...