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50 白馬に乗った王子(?)さま

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「シリカ、アナタだけでもよけて」

悲痛な叫び……自分を犠牲にしてでも私を守りたいというその心はとても尊い。しかし……。

「ヤダ」

そう言って、遠くへ放り投げたのは簡易転移石……63階層あたりで階層クリア報酬として手に入れたが、しっかり役に立った。地面に落ちたところに私たちふたりが一瞬で転移する。

「サラサ、次、自分を犠牲にしても構わないって言ったら絶交ね」
「そんな、アナタのことを心から愛してい……んふぅ」
「その話はまた今度ゆっくり、ね?」

第3層と第76層で手に入れた2つ揃って初めてその効果を発揮する髑髏の眼をドラゴンに向けながら、サラサのお口に指チャックした。私ってサラサから見たら白馬に乗った王子様? 本当の皇子は向こうにいるけど、もうそんなことはどうでもよろしい。

髑髏の眼の発動による行動遅延でドラゴンは私たちの方へまだ振り向けてもいない。

──これで決める。


始原マナよ、我と倶に征くは白銀の徒、黒鐵の鎚と偉大なる父の火を以ってすべてを断ち切る刃とならん」
始原マナよ、神なる園、蒼き月に映える湖の一滴ひとしずくをここへ降し、其を穿ち給え」

賢者アールグレイとの多重コンボ。アールグレイの〝国断ノ剣〟でドラゴンの結界魔法を破壊したうえ、硬い鱗をチーズのように切り裂き深い傷を負わせ、私の放った水系最上位魔法〝水粒葬黎波イルエイム・アクアリム〟でドラゴンの喉元に風穴を開けた。

黒い煙が爆散した後、拳大の紫色した色見石カラーストーンがドラゴンのいた場所に残った。

凄い──遥か東方の地にあるといわれている浮遊島アクエリオンは紫色の色見石で空に浮かんでいると聞いたことがある。私たちが住むゲルナド大陸において、この最上位にあたる紫色の色見石を発見、入手したという話は過去を振り返っても一度もない。

「挑戦者のチュートリアル・・・・・・・のクリアを確認。これより適合者試験・・・・・に移行します」

ダンジョン第1層に降り立った時に聞こえた無機質な音声が辺りに響き渡った。

今、チュートリアルって言った? この半年の苦労は準備段階ってこと?

パカッと地面が割れた。慌てて飛行魔法を使おうとしたが、フィールド全体に特別なチカラが働き魔法を無効化された。

「サラサ!」
「──シリカ」

くそっ、もう少しというところで彼女の手を掴めなかった。

落下しながら私たちは一人ひとり赤い光に包まれて、弾けるように広大なフィールドへと散り散りに飛ばされた。

 ✜

「あいたたたっ」

痛いんだけど? もう少し優しく下ろしてくれないと怒っちゃうよ?

なんの変哲もない森のなか、ここに落ちる前に見た光景では途中に「村」が見えた。なぜこんなところに村があるのかは置いといて、とりあえずそこへ向かおうと考えた。

と思ったら魔物に遭遇した。

コボルトという犬顔の魔物でゲーム世界ではかなり弱い部類に入る。

3匹いるが、私にとってはまったく脅威にならない。──はずだったが。

え……魔法の威力が弱い!? というよりは魔力の出力がびっくりするぐらい低くなっている。

一匹仕留めて、もう一度、火力を上げて2匹同時に魔法で狙う。

やはり、ほとんど魔力を出力できてない。……というより魔力の量がそのものが少ないことに気が付いた。

いちおう倒せるには倒せたが、ザコモンスターだったから良かったものの強い魔物相手に自分の状態がわからないまま戦っていたら危なかったかもしれない。

魔力の放出を透明な魔力インビジブル・センス無しで純粋な魔力を全力で放出してみた。

結果はこの100階層に来る前の十分の一程度しか出ない。私の持っている魔力自体もだいぶ抑えられている感じがする。

まあ私の場合、元が元なので、十分の一でもよほどの敵が出て来ない限りは問題ないのだが、他の人たちも私と同じように魔力が制限されていたら、かなり危ういかもしれない。

ちなみにカラダ自体は普通に動くので魔力だけに制限がかかっているっぽい。ダンジョンのこれまでの試練のお陰で魔法無しでもそこら辺の男のひとを数十人相手にしても余裕でワンパンずつで仕留められそうだと物騒な物差しで考える。



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