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長編

第14話 民謡居酒屋

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「このまま帰るのもアレなんで、また飲みに行かないっすか?」

 飲みに?
 御堂係長をみると、OKらしく頷いてきた。
 
 でも、今日の夜の予定は特に考えてなかったが……。

 すると、瀬下が昨日、一緒に飲んだ女の子達から那覇市内の情報を聞いていたらしく、祭り会場からほど近いところにある民謡居酒屋に向かった。

 あまりお目にかからない沖縄民謡をライブで聴けるとあって、観光客で賑わっている。〝三線サンシン〟という弦楽器を軸に、独特な節回しのメロディーラインが耳に残る。沖縄固有の文化と歴史を感じさせる美しい音楽形式で、聴いていて飽きがこない。

「これはなんですかね?」
「たしか『海ぶどう』という食べ物だ」

 東京都内にも大きな駅の近くには沖縄のお店がいくつかあるので、けっこう見慣れた食べ物だが、意外にも地元のひと達はあまりというか、ほとんど家庭では食べることがなく、居酒屋で出される定番メニューという認識だそうだ。

 酢の物でお通しとして出されたので食べる。プチプチと口の中で弾ける食感が美味しい。ぶどうという名前だが、海藻の仲間で、沖縄や東南アジアで食用として栽培されているそうだ。

 せっかく本場である沖縄の居酒屋にきたので泡盛を頼んだ。
 泡盛というのは、沖縄のお酒で焼酎と同じ蒸留酒だが、製造方法が違うらしく、泡盛の中でも古酒クースと呼ばれる何年、何十年と寝かせて熟成させたお酒は、その風味が格別らしい。

 カラカラと呼ばれる沖縄独特の酒器で出てきたので御堂係長と瀬下と3人でさっそく飲んでみる。ちなみに当真くんはお酒が飲めないため、メニューの中にあったジンジャエールを飲んでいる。

 うん? 特に以前、東京の沖縄店で飲んだ泡盛と違いがわからない。でも正直、お酒の違なんて、よほど飲み比べてないと違いなんてそこまでわかるとは思えない。まあ気分を味わうのも悪くないと独特の酒器で注いだお酒を飲みながら、ラフテーやゴーヤチャンプルーといった沖縄の定番メニューに箸を下ろす。

「今日は美男美女のグループさんがいるさ~、だぁ、コッチに上がってきてごらん?」

 食事が終わり、お酒もイイ感じに底をついたので、そろそろ帰ろうかとしている時に舞台の方から、俺達を名指ししてきた。

「今日はどちらから来ましたか?」
「東京っす」

 三線を調弦しながら、民謡の歌い手である女性に質問される瀬下。沖縄は楽しいですか? と聞かれて、「はいっす。女性が皆、綺麗っす」とお世辞を言って、他のお客さんを喜ばせている。

「では、唐船とうしんドーイをやりましょうね」

 三線の弾く速さがあがり、アップテンポな民謡が流れる。個室の方で飲んでいた他のお客さん達も大部屋にやってきて皆、手踊りを始めた。

「これは、カチャーシーっていうんですよ」

 近くにいた年配の老夫婦が、乗り遅れた俺と御堂係長に教えてくれた。
 カチャーシーというのは「かき回す」という意味だそうで、頭上で左右に手を振るので、その名がついたそうだ。
 女性は手を開き、男性はグーにして踊るのが一般的だそうで、このカチャーシーというのを見るだけで、観光客なのか地元客なのかが一目瞭然だった。瀬下は、他の追随を許さない圧倒的な不気味かつ珍妙な踊りをみせ、見るひとをざわつかせている。そして、俺や御堂係長は他の県外客とそう変わらない不格好な踊りでなんとかついていっているが、当真くんをみて、ゾクッとした。

 ──当真くんカチャーシーがちゃんとできてる。手を開いて踊るその姿はまるで空から舞い降りてきた天女のようだ。

 なんで当真くん、こんなに綺麗に踊れるんだ?

 曲が終わると、皆、自分の席に戻っていき、俺たちはそのまま会計を済ませ、店を出て、そのままホテルに向かう。

「ボク、お爺ちゃんが沖縄出身なんです」

 へ~初耳。
 当真くんの家では、亡き祖父が、当真くんが小さい頃に三線で沖縄民謡を弾いてくれたそうで、自然と踊りも覚えたそうだ。だからあんなに自然に踊れるのか。沖縄には初めてきたが、何だか懐かしく感じますと当真くんは笑って俺に教えてくれた。

 ホテルの下にはコンビニがあったので、必要なものを買いそろえ、そのまま今日は解散した。

 ──瀬下の動きが怪しいが、放っておこう。そして明日、遅刻しないように真っ先に起こしてやろうと心に誓った。
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