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王国再興

第49話

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「私にお任せくださーい!」

鬣犬人スカベンジギュートンがカぺルマンを囲む。
灰熊人グリズフドリドルと一緒にペリシテの巨人を抑え込もうと動いた。
ギュートンに先を越されたが、この状況下では最適な選択といえる。
カぺルマンは今、「耳」が使えていないので動きが鈍い。

それより、今もっとも危険なのは怪物じみた3人の騎士。
ハイレゾとジェイドと一緒に3騎士と向かい合う。
だが、ハイレゾはともかくジェイドはそこまで戦闘に向いていない。
後方支援してもらうとして、ハイレゾとふたりで怪物級の3騎士と戦えるのか?

白騎士と赤騎士のひとりを自分が受け持つ。
自然とハイレゾはジェイドの支援を受けながら、もうひとりの赤騎士と相戦う。

余力があれば、ハイレゾの援護をしようと思ったが無理かもしれない。
白騎士の剣が目の前に迫る。
あぶない……ほんのわずかでも油断したら、棺の中に入れられてしまいそうだ。
直剣グラディウスで弾いて、追撃に移る。
だが赤騎士の両手斧が自分の進路を塞がれた。

触れた武器や鎧を溶かす直剣グラディウスに耐性がある?
白騎士が持つ青紫色に怪しく光る剣。
何度も直剣と刃を交えるが、溶けもせず、折れもしない。

一方で赤騎士は両手斧をうまく直剣と衝突しないようように立ち回っている。
剣の特性に気が付いているとしか思えない動き。
両者とも今一つ攻めきれない状況が続く。
あらためてシンバ将軍の凄さがわかった。
ふたりでも大変なのに3人も相手をしていたなんて……。

ハイレゾの方はかなり苦戦している。
無理もない。
大将カぺルマンや地下迷宮主黒腕ジルほどではないが、赤騎士は化け物。
勝てないと早々にわかって負けない戦い方に切り替えている。

ジェイドの方は握った右拳を赤騎士へ向けていて動かない。
左手は右手に添えられており、なにかを狙っているようにみえる。

奥の方にチラリと見えるのは大将カぺルマンと鬣犬人スカベンジギュートン。
指揮官補佐ドリトルとふたりで挑んでいる訳ではない。
ギュートンの部下数十人の鬣犬人スカベンジがぐるりと大将を囲んでいる。
一人ひとりはけっして強いとは言えない鬣犬人スカベンジ兵。
だが、包囲が完成した途端、けっして抜け出せない無限の回廊に変わる。

相手が正面を向いたら退がり、背中を見せたら前に出る。
斬るもの、刺すもの、捌くもの……
行動をひとつ取っても数人が連係していて、まったく隙がない。
戦鼓を壊されてしまったが、銅鑼はまだ健在。
常に後ろで他の兵士が鳴らしている。
そのお陰で、カぺルマンの雷のような動きを失速させている。

圧倒的強者に対して、彼らははなから倒そうという気はさらさら無い。
ハイレゾ同様に時間を稼いでくれている。

膠着した状態がしばらく続いた。
どこかで均衡が崩れたら一気に片が付く……そんな熾烈な戦い。

ハイレゾが石につまづき、後ろへよろけた。
その瞬間、赤騎士とジェイドが同時に行動へ移した。
戦棍メイスをハイレゾにめり込ませようと前に出る赤騎士。
その赤騎士に向けられているのはジェイドの右拳中指に嵌められた赤い指輪。
以前、地下迷宮で手に入れた用途不明の魔法具。
その指輪から黒い塊が発射されると、網のように広がり赤騎士を絡め取った。
ジェイドはすぐさま弓矢を手に取った。
爆発する粉をつけた鏃につけた矢を立て続けに放ち、赤騎士を幾度となく爆撃する。

ハイレゾは体勢を立て直すと、大斧を持った赤騎士へ真横から接近した。
大斧を持った赤騎士は忍び寄ってきた敵に気が付き、迎撃するべく身構える
赤騎士から受けていた重圧が減ると同時に自分に余力が生まれた。
白騎士の兜を下から切り上げて、怯ませ後退させる。
その隙にハイレゾへ意識が向いている赤騎士へ黒腕の籠手で金属球を飛ばした。
こめかみを撃ち抜いて一撃で赤騎士を倒す。
すぐさま白騎士を追撃しようと直剣グラディウスを握り直した。──だが。

まただ……。
白騎士は昨日同様、発作が起きて頭を抱え始めた。
隙だらけだが、剣を振り下ろす気にはなれない。
斬り上げた兜が地面に落ちるとすごく懐かしい顔が姿を見せた。
銀髪、灰眼なので見間違えようがない。
幼少期に孤児院で一緒に育った親友、ユリアル……。
7歳の誕生日にキューロビア連邦に連れて行かれたきり8年ぶりの再会。
剣を地面に落としたまま頭を抱えうずくまっている。

「やむを得まい……」
「くそっ、逃がすか!?」

ジェイドの悔しがる言葉が聞こえた。
振り返ると黒い網に絡め取られていた赤騎士が網を切り裂き抜け出していた。
赤騎士は白騎士を捨て置いて、そのまま丘から崖下へと飛び降りた。

「ダメだ、待ってくれ!」
「あん? なぜだ?」

ハイレゾとジェイドが白騎士にトドメを刺そうとしたところを止めた。
ジェイドが不服そうな表情を露骨に示した。
だが、止めたのにはちゃんと理由わけがある。

「メイメイに……メイ皇女に頼まれたから」

笑う兵を連れてこいという話だったが、ユリアルでも構わないだろう。
ユリヤルの拘束をまわりの人に頼んで自分のすべきことをやる。

「残るはアンタひとりだ。レッドテラ帝国軍大将カぺルマン!」
「サオン殿……」
「自分に任せてもらえませんか?」

戦鼓に続き、銅鑼も鳴らしていた兵ごとやられてしまっていた。
もう少し白騎士赤騎士との戦闘が長引いていたら、こちらが危なかった。
戦場の掃除人、鬣犬人スカベンジの包囲網を広げてもらい、輪の中に入って行く。
呆然と立ち尽くすドリドルに退がってもらい、ペリシテの巨人と対面した。

「降伏に応じるなら命までは奪わない」
「このクソ雑魚がっ!? 誰に向かって口を利いている!」

まあ、そうなるか……。
横へ唾を吐き捨てる敵軍大将に直剣グラディウスを向ける。

「雑魚かどうか、試してみなよ?」
「テメーを捻り潰して、他の連中もぶっ殺す!」

目の前の怪物はその言葉通り、敵軍を壊滅できるほどの実力を備えている。
だけど、自分がいる。
もう好き勝手にはさせない。

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