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魔導推究

第40話

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容疑者のトネルダはその後、非番だったようだ。
兵士詰め所で私服に着替えて出てきた。
彼の行動はポメラの使い魔である単眼蝙蝠アーリマンが上空から監視している。
ポペイの街の陸上部にある酒場へふらりと入って行った。

酒場の店の中が気になる。
だが、ゾロゾロと酒場に入っていったら目立つので、トネルダにすぐにバレる。
なにより酒の飲める年には見えない者や聖職者もいる。
メイメイの提案により、存在感が薄く成人しているリャムを送ることになった。

しばらく離れたところで待っていると、女性がひとり出てきた。
その後、トネルダが酒場から出てきたので、建物の陰に身を潜めた。
女性の後を尾け始めた……。
2重尾行は相手も用心しているはず、なので単眼蝙蝠アーリマンで監視する。

その場で待機していると、酒場からリャムが出てきて店内での出来事を共有した。
トネルダは、ひとりで酒も飲まずに物色するように店内を見回していたそうだ。
リャムは酒場の主人に少しお金を渡して情報を引き出した。
酒場の主人によるとトネルダは、この酒場によく顔を出していたそうだ。
それも1か月近く前から……。
あと、頻繁に貴族や金持ちが店内にいないかと聞いて回っていたらしい。
酒を飲まない大男なんて珍しいので、間違いないとのこと。

女性を尾行しているのは、攫うためだろう……。
勘付かれない程度に距離を保ち、後を尾けた。
女性は海上部側へと歩いているので、貴族か金持ちのどちらかだろう。
海上部側は外出禁止令が出されているので、人気ひとけがまったくない。

「トネルダが動いた!」

左目を単眼蝙蝠アーリマンと共有しているポメラが叫ぶ。
5軒先の通路にいると聞いて、真っ先に動いた。
この中で自分がいちばん足が速いので、なんとかしなければ。

「た、助けてぇぇぇ!」

あれは……。
どこかで見覚えが?

トネルダが男性を追いかけている場面に出くわした。
女性はその横でへたり込んでいる。
男性はトネルダから背を向けて、こちらに走ってくるところだった。

「動くな!」
「どけ、邪魔だ!?」

制止するよう呼びかけたが、聞く耳を持たない。
逆に脅されたが、これしきで怯えることはない。
男性を庇い、前に出る。
怒り狂ったトネルダが吠えながら拳を振るった。

──まったく問題ない。
トネルダの拳を受け止め、下顎に掌底を入れて気絶させる。
中隊長級の相手でも、まったく負ける気がしなかった。
もしかして、今なら帝国の大将カぺルマンとも渡り合えるんじゃ?

「サオン君!」

メイメイたちが、ようやく建物の角を曲がって、姿を見せた。

「もう終わったよ」
「違うアル、後ろのソイツ・・・・・・が犯人ネ!」

え……。

右腕にチクリと痛みが走る。
腕を捻って見たら、小さな羽のついた針が刺さっていた。
意識が急に薄れていく……。







「サ……さま……サオン様!」
「──んっ!?」

再演ループじゃない。
頭がすごく重い。

右腕に小さな針が刺さって、それからの記憶がない。
目を開けると、セレの顔がある。
近いな……。
自分を見下ろしている。
なんでだっけ?

「──わぁぁぁぁっ!」

飛び跳ねるように起きた。
セレに膝枕されていたのか……。
魔法で癒してくれたに違いないが、膝枕をする必要なんてあるのか?
頭のうしろにまだ柔らかい感触が残っている。
今、顔が真っ赤になっているかもしれない。
顔が火で炙られたように熱い。

「うわっ……圏外に出ちゃった」
「しょうがないアルね、サオン君が油断しちゃうから」

うっ、痛いところを……。

先ほどの男をポメラが単眼蝙蝠アーリマンで追跡したそうだ。
だが、距離が離れすぎたため、使い魔の制御を失ってしまったらしい。

「うっ……メイ様、その男が!」
「起きたアルか?」

トネルダ中隊長が目を覚ました。
ヒドイことをしてしまったので事情を説明し、とにかく謝る。

「そういうことか……気にしないでくれ」
「それで、なんであんな紛らわしいことをしてたアルか?」

許してもらえた。
続けてメイメイがトネルダ中隊長を問い質す。

トネルダ隊長は、失踪事件が起きてすぐにあの酒場に行きついたそうだ。
酒場から出たところを狙われている。
客、もしくは店の関係者に犯人の仲間がいる可能性が高い。
だが、調査隊として正面から乗り込んでも、シラを切られるだけ。
そう考えて、非番の時に私服姿で貴族や金持ちを酒場から尾行していたそうだ。
1か月近く続けて、ようやく犯人が女性を攫おうとしているのを発見した。
取り押さえようとしたら、自分が邪魔をしたそうだ。

それにしてもメイメイはなぜあの一瞬で男が犯人だと分かったのか?
自分もたしかに見覚えがあった。
日中にトネルダ隊長が怪しいと証言した男。
だけど、思い出すまでに少し時間がかかった。
それだけ顔になんの特徴もない、どこにでもいる普通の一般人に見えた。

「この海上都市ポペイでメイの顔を知っている人間は少ないアル」

自分は覚えていなかったが、「メイ様」と呼んだ時点で怪しいと見ていたそうだ。
そう言われたら、自分も先ほど僅かに違和感を覚えた。
この海上部の通路はすべて浮橋。
歩く分にはなにも不自由はない。
だが、走ったりすると大きくたわんで体勢を崩しやすい。
それなのに、あの男は軽々と移動していた。
今、思えば常人の動きではない。

女性を送り届けた後、ヤオヤオの屋敷へ戻り、休むことにした。
犯人を捕まえられなかった。
もうこのポペイの街から逃げ出した可能性が高い。
最大の好機を逃した自分達は翌日、ヤオヤオ皇女へ謁見し、事の顛末を報告した。




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