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呪楔再誕
第31話
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巨大な猿の魔物。
筋肉の塊で腕が人間の胴よりも太い。
音もなく真上から降ってきた。
だからこれまでまったく意識すらできなかったのか……。
「待て!」
柱をよじ登って逃げようとしたので追いつくと柱から飛んで離れた。
逃がさない。
巨猿の魔物とにらみ合う。
今の内にニウが燥霊術で、支援してくれたら勝機が見えてくる。
ニウが後方で、笛を吹いているのが聞こえる。
彼女のところへ回り込ませないよう、巨猿と距離を取って時間を稼ぐ。
「視られてるな……」
やられたっ!?
いつの間にか再演していた。
もう1匹いたのか……。
ジェイドを呼び止めて、白い部屋まで一旦下がることにした。
「上から落ちてこられたら、か……そいつは厄介だな」
「あの場所で何か呼び出せる精霊はいる?」
正直、お手上げだ。
ジェイドに相談しても解決策はなさそう。
ニウがなにか有効な操霊術を使えればいいのだが。
「冥精、岩精、風精……」
それぞれどんな力を借りられるか、教えてもらう。
その中で1個使えそうなものが見つかった。
作戦が決まったので、薄暗い大空間へと足を踏み入れた。
足を止めずに手前から2本目の石柱の間で歩みを止める。
それと同時に上空から巨猿の魔物が音もなく襲ってきた。
だが、極太の巨腕が自分達を捕らえることはなかった。
巨猿自体が、真っ二つになる。
やったのは、ニウの風精から借り受けた黒銀糸。
設置型の魔法で、真上に張ってもらった。
強度は本数に比例するそう。
今回は強度重視で、1本だけ張ってもらった。
それを見て、もう1匹の巨猿が音もなく別の石柱から降りてきた。
少し距離があるな。
白い部屋側から数えて5本目の柱の側から動かない。
「なっ、コイツ……動きが速いぞ!」
ジェイドが矢を放った。
だが、軽くかわしている。
動きが速いのはもちろんだが、目もかなり良さそう。
「おおおおぉ!」
腹の底から声を絞り出し、気持ちを奮い立たせる。
全力疾走で距離を埋める。
どんなに太い腕だろうが、直剣なら切り裂けるはず。
一瞬、巨猿が柱と影が重なった。
逃げるつもりかと思ったが違っていた。
人間の頭大の岩を、体をぐるりと回転させた勢いで放ってきた。
咄嗟の判断を誤り、剣ではなく左腕で受けてしまった。
左腕が折れて、後方へ吹き飛んで床に転がってしまう。
一瞬、気を失ったかもしれない。
剣を杖代わりにして起き上がる。
遅かった……同じように岩でジェイドとニウがやられた後だった。
その後、満足に動けず、高速で飛来する岩を避けることができなかった。
次の再演で、事前に岩対策の打ち合わせを行った。
ジェイドから、勘にしては鋭すぎるな、と指摘されたが知らないフリをする。
まず、1匹目をニウの風精の魔法で切断した。
直後、ニウには次の準備をしてもらう。
予定どおり、ゆっくりと降りてくる2匹目。
5本目の柱の陰のそば。
考えていることは、もうこちらは知っている。
だから投岩対策はそう難しくない。
ニウが岩精の力を借りて、岩塊同士を繋げた。
片手で持ち上げられない程の重さになった岩に巨猿は驚いている。
岩に注意が逸れた巨猿の太腿にジェイドが矢を当てた。
即効性の麻痺薬を塗っていたので巨猿がふらつき、動きが怪しくなる。
すかさず接近戦に持ち込む。
丸太並みの太い腕をパンをちぎるように易々と切り刻んでいく。
巨猿の魔物を倒せた。
その場で周囲を警戒したが、襲われることはなく時間が過ぎた。
2匹だけか、よかった……。
もしかしたら3匹目が出てくるかと心配したが、杞憂に終わった。
密集陣形に戻し、再び進みはじめる。
5本目の石柱を過ぎてもなにも起きない。
どれだけ広いんだろう?
石柱の間隔は7Mくらいはある。
50本目に差し掛かったところで、先頭を歩くジェイドが止まった。
「なにか来やがる!」
本当だ。
ジェイドより少し遅れて、音に気が付いた。
揺れてる?
床が縦に揺れ始めたのに気が付いたのはその数秒後のことだった。
「柱の裏に飛べ!?」
ジェイドが、叫びながら回避行動に移ったが、動かなかった。
いや、動けなかった。
ニウはそんなに身軽に動けない。
彼女を庇って、その場に残り続けたら、黒く大きな波に飲み込まれた。
再演した後、巨猿2匹を倒すところまでは前回と一緒だった。
黒くて巨大な波。
あれは受けきれる類のものではない。
前回のジェイドの忠告どおり、石柱を防波堤代わりに使おうと思う。
柱から柱へと、かくれんぼをするように進んでいく。
50本目のところで、やはり黒い波が押し寄せた。
ニウにお願いして岩精の力を借りてもらっていた。
石柱の裏に身を潜めて、やや左寄りに石壁を造って濁流に耐える。
「なん……コイ……は?」
ジェイドの驚いた声が、轟く足音にだいぶかき消されている。
アルヴニカ大陸には闘牛という文化がある。
とりわけキューロビア連邦で盛んに行われている競技。
だが、キサ王国にも小規模ながら闘牛を行う風習があった。
闘牛といっても、牛ではなく牛の魔物、牛魔を用いる。
体長が2Mを超え、正面から突進されたひとたまりもない。
たった1頭でも、その突進は恐ろしい。それなのに……。
目の前に広がるのは、数百頭にも上る牛魔の大群。
こんなのが地上で起きたら、災害級だと言っても過言ではない。
筋肉の塊で腕が人間の胴よりも太い。
音もなく真上から降ってきた。
だからこれまでまったく意識すらできなかったのか……。
「待て!」
柱をよじ登って逃げようとしたので追いつくと柱から飛んで離れた。
逃がさない。
巨猿の魔物とにらみ合う。
今の内にニウが燥霊術で、支援してくれたら勝機が見えてくる。
ニウが後方で、笛を吹いているのが聞こえる。
彼女のところへ回り込ませないよう、巨猿と距離を取って時間を稼ぐ。
「視られてるな……」
やられたっ!?
いつの間にか再演していた。
もう1匹いたのか……。
ジェイドを呼び止めて、白い部屋まで一旦下がることにした。
「上から落ちてこられたら、か……そいつは厄介だな」
「あの場所で何か呼び出せる精霊はいる?」
正直、お手上げだ。
ジェイドに相談しても解決策はなさそう。
ニウがなにか有効な操霊術を使えればいいのだが。
「冥精、岩精、風精……」
それぞれどんな力を借りられるか、教えてもらう。
その中で1個使えそうなものが見つかった。
作戦が決まったので、薄暗い大空間へと足を踏み入れた。
足を止めずに手前から2本目の石柱の間で歩みを止める。
それと同時に上空から巨猿の魔物が音もなく襲ってきた。
だが、極太の巨腕が自分達を捕らえることはなかった。
巨猿自体が、真っ二つになる。
やったのは、ニウの風精から借り受けた黒銀糸。
設置型の魔法で、真上に張ってもらった。
強度は本数に比例するそう。
今回は強度重視で、1本だけ張ってもらった。
それを見て、もう1匹の巨猿が音もなく別の石柱から降りてきた。
少し距離があるな。
白い部屋側から数えて5本目の柱の側から動かない。
「なっ、コイツ……動きが速いぞ!」
ジェイドが矢を放った。
だが、軽くかわしている。
動きが速いのはもちろんだが、目もかなり良さそう。
「おおおおぉ!」
腹の底から声を絞り出し、気持ちを奮い立たせる。
全力疾走で距離を埋める。
どんなに太い腕だろうが、直剣なら切り裂けるはず。
一瞬、巨猿が柱と影が重なった。
逃げるつもりかと思ったが違っていた。
人間の頭大の岩を、体をぐるりと回転させた勢いで放ってきた。
咄嗟の判断を誤り、剣ではなく左腕で受けてしまった。
左腕が折れて、後方へ吹き飛んで床に転がってしまう。
一瞬、気を失ったかもしれない。
剣を杖代わりにして起き上がる。
遅かった……同じように岩でジェイドとニウがやられた後だった。
その後、満足に動けず、高速で飛来する岩を避けることができなかった。
次の再演で、事前に岩対策の打ち合わせを行った。
ジェイドから、勘にしては鋭すぎるな、と指摘されたが知らないフリをする。
まず、1匹目をニウの風精の魔法で切断した。
直後、ニウには次の準備をしてもらう。
予定どおり、ゆっくりと降りてくる2匹目。
5本目の柱の陰のそば。
考えていることは、もうこちらは知っている。
だから投岩対策はそう難しくない。
ニウが岩精の力を借りて、岩塊同士を繋げた。
片手で持ち上げられない程の重さになった岩に巨猿は驚いている。
岩に注意が逸れた巨猿の太腿にジェイドが矢を当てた。
即効性の麻痺薬を塗っていたので巨猿がふらつき、動きが怪しくなる。
すかさず接近戦に持ち込む。
丸太並みの太い腕をパンをちぎるように易々と切り刻んでいく。
巨猿の魔物を倒せた。
その場で周囲を警戒したが、襲われることはなく時間が過ぎた。
2匹だけか、よかった……。
もしかしたら3匹目が出てくるかと心配したが、杞憂に終わった。
密集陣形に戻し、再び進みはじめる。
5本目の石柱を過ぎてもなにも起きない。
どれだけ広いんだろう?
石柱の間隔は7Mくらいはある。
50本目に差し掛かったところで、先頭を歩くジェイドが止まった。
「なにか来やがる!」
本当だ。
ジェイドより少し遅れて、音に気が付いた。
揺れてる?
床が縦に揺れ始めたのに気が付いたのはその数秒後のことだった。
「柱の裏に飛べ!?」
ジェイドが、叫びながら回避行動に移ったが、動かなかった。
いや、動けなかった。
ニウはそんなに身軽に動けない。
彼女を庇って、その場に残り続けたら、黒く大きな波に飲み込まれた。
再演した後、巨猿2匹を倒すところまでは前回と一緒だった。
黒くて巨大な波。
あれは受けきれる類のものではない。
前回のジェイドの忠告どおり、石柱を防波堤代わりに使おうと思う。
柱から柱へと、かくれんぼをするように進んでいく。
50本目のところで、やはり黒い波が押し寄せた。
ニウにお願いして岩精の力を借りてもらっていた。
石柱の裏に身を潜めて、やや左寄りに石壁を造って濁流に耐える。
「なん……コイ……は?」
ジェイドの驚いた声が、轟く足音にだいぶかき消されている。
アルヴニカ大陸には闘牛という文化がある。
とりわけキューロビア連邦で盛んに行われている競技。
だが、キサ王国にも小規模ながら闘牛を行う風習があった。
闘牛といっても、牛ではなく牛の魔物、牛魔を用いる。
体長が2Mを超え、正面から突進されたひとたまりもない。
たった1頭でも、その突進は恐ろしい。それなのに……。
目の前に広がるのは、数百頭にも上る牛魔の大群。
こんなのが地上で起きたら、災害級だと言っても過言ではない。
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