上 下
8 / 50
孤城落日

第8話

しおりを挟む
「この中で戦えるものはいるか?」

この大陸で一番カラダの大きい獣人族テラノイド獣種巨象人トゥスカーの男。
身長はざっと見て2Mメトル半ほどある。

キサ王国王都テジンケリが陥落して1か月が経った。
今いるのはジューヴォ共和国の首都クレイビアにほど近い場所。
ここにキサ王国から流れてきた難民をまとめて受け入れている。
首都には入れてもらえない。
だが、定期的に食料や水、粗末だが大量のボロ切れを提供してくれた。
治安はそれほど悪くない。
と言うのも正直、キサ王国よりしっかりと食事が取れているから。
多少の言い争いとかは、たまに起きる。
しかし、窃盗や傷害事件は今のところ起きていない。

そんな中でのジューヴォ共和国からの任意による志願型徴兵。
誰も進んで手を挙げるものはいなかった。
すると巨象人の戦士が、付け加えて言った。

「報酬はひとり白金貨1枚だ」

白金貨を!?
それだけあれば、節約すれば数年くらいは仕事をせずに暮らせる。

「よし、そこのふたり、こっちへ来い」

手を挙げたのは、ふたりの女性。
ひとりは魔導ローブ、もうひとりは聖職者の衣を纏っている。
他にも戦士風の男と盗賊っぽい男が前に進み出た。

「他にはいないか?」

どうしよう? 
何をするのか知らされていない。
誰も徴兵されて何をするのか質問さえしようとしない。

でも正直、金は欲しい。
今は避難所に隔離されている
だが、いずれ国民として受け入れてくれるかもしれない。
その時に金は持っていた方がいいに決まっている。
たとえ、共和国が受け入れてくれなくてもどこかで使える。

「よし、おまえで最後だ。ついて来い」

手を挙げたら、指を差された。
すぐに身支度をする。
支度といっても、配給された服や布だけ。
腰帯袋オモニエルに詰めて、すぐに避難所を出た。

「サオン、この国に居たの?」
「これはカルテア様」

天幕に通される。
中にはキサ王国王女カルテアと護衛騎士ダンヴィルがいた。

「その者は?」

赤毛の獣人族獅子人レオネフの老人が問う。
奥に座っていて、チラリと自分に視線をやった。
その鋭い眼光に射竦められ、身体がぎこちなくなる。

「命の恩人です。シンバ将軍」

シンバ将軍という名は聞いたことがある。
ジューヴォ共和国の守護神、常勝将軍などと複数の異名をもつ。
大陸中にその名が知れ渡っている有名人であり、重要人物。
ひとたび彼が戦場へ現れると敵国の兵士は悪夢にうなされるという。

「すこしは心得があるようだな……その者でよいか?」
「ええ、彼は信用できます」
「そうか、では他の者は外で待っていろ」

自分以外の志願者は全員、外で待機を命じられた。
他の皆が出ていくと、巨象人トゥスカーの大男が説明を始めた。

「西にあるゲイドル火山を活性化してきてもらいたい」

ゲイドル火山というのは、レッドテラ帝国南東にある独峰の山。
でも、約50年前を最後に噴火は収まっていると聞いているが。

「制御者を倒すのが、おまえ達の任務となる」

巨象人が説明を続ける。
火山を祈祷術のようなもので制御している人間がいるそうだ。
その者を倒せば火山は数日もしないうちに活動が始まるという。

「それはつまり同盟を結ぶということですか?」

ゲイドル火山の活性化は、ジューヴォ共和国にとっては福音の鐘。
まず帝国が自国領からこの国へ手出しができなくなる。
するとジューヴォ・キサ両国がキサ王国奪還がしやすくなる。

「なかなか聡い若者よ、だがすこし違う」

巨象人に代わりシンバ将軍が口をひらく。

現在、キサ王国は王女カルテアのみが自由の身となっている。
国王や王妃、2人の王子の身柄は既にレッドテラ帝国にあるという。
カルテア王女以外の王族はキューロビア連邦へ亡命したそうだ。
だが、連邦は帝国と取引を終えていた。
そのため彼らは捕まり、すぐ帝国へ移送されたとのこと。

まもなく処刑される予定で、王族を根絶やしにして初めて終戦となる。

「ここにいるカルテア王女はおそらく唯一の生き残りとなろう」

それはすなわち、次期国王の最有力候補であることを意味する。
もちろんキサ王国自体が息を吹き返せば、の話。

「だが、その存在は国民に隠されていた」

カルテア王女は、現国王の娘ではない。
先代国王の庶子……寵妾の子であるそうだ。

母親はすでにこの世になく、母親の縁戚を転々としていたそうだ。
そんな中で先代国王が見つけ、王宮へ拾われた。
だが、先代国王はその翌年に崩御してしまった。
そして現国王に疎まれたカルテアは城の尖塔へと幽閉された。

「だから、血筋の正統性を自らの手で証明しなければならない」

シンバ将軍が、周囲が慄くほどの岩壁を打ち砕く視線で王女を正視する。
それに対して王女は、常人では気を失ってしまいそうな視線を正面から受け止める。

「これだ。王女は現国王の器の比ではない!」

シンバ将軍は先ほどまでの威迫めいた気配を消して、微笑で唇を歪ませた。

まずキサ王国として暫定臨時国家を立ち上げないといけない。
そのためにはそれに見合う十分な実績が必要となる。
そしてもっとも重要なのは共和国側へのお土産。
無償で、他国へ力を貸すわけにいかないから国民を説得する材料が欲しい。
つまり火山を活性化させて、帝国からの侵攻という脅威を取り払うこと。
この要件を満たして初めてジューヴォ共和国は手を組むそうだ。

「だが、カルテア王女は行かせられん!」

本人は参加を強く希望しているが、危険すぎると周りが引き止めている。

「そこでキサ国の勇士に行ってもらうことにした」

それが自分たち志願部隊の任務。
だが、任務の内容、目的地は他の者に話さないよう命令された。
任務が失敗した場合、情報が漏洩しないようにという保険。
他の者が捕まり、拷問を受けても自分が自害してしまえば漏れない。
小瓶を渡された。
これを口に含めば、たちまちの内に命を落とすという。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...