上 下
68 / 68
第2章 シリカ大峡谷

第67話 強く生きる……

しおりを挟む

「よお~し。オマエらぁ~木杯ジョッキの準備はいいかぁ~?」

 ひと族の青年は、円卓を囲ったもの達と、さらにその周りにいる冒険者たちを見回した。
 シリカ大峡谷の上にある町のとある酒場で祝勝会がこれから開催されようとしていた。

「それじゃあ、このペッチさま率いる・・・・・・・・英雄パーティーの偉業を祝してぇ~かんぱぁぁぁぁいぃ‼」

 あれ? いつペッチさんが率い始めたんだっけ? まあボクの名前を語らないだけマシ、なのかな?

 岩人族ゴンゾと女子兎人バビットのルナは「また悪い癖が……」と顔をしかめ、水人族マーファは無視して食事を始めている。ムンク司祭だけワナワナ震えて、「セル殿の偉業をアナタってひとはぁぁぁ、ムフゥゥーーーーッ」と変な興奮をして抗議しているが、誰も耳を貸してくれていない。

 そしてボクの隣には、最後に女皇蟻エンプレスアントのいる魔蟻の巣に一緒に入ったカノが座ってチビチビと葡萄水の入った木杯に口をつけていた。

 この7人が行った偉業とは、魔蟻の巣コロニー完全制覇コンプリートで、すべての魔蟻の巣を回って生きて帰ってきた初めての冒険者と案内人ということになる。

「よろしいのですかセル殿? 好き勝手なことを吹いて回っておりますぞ?」
「うーん、別にいいかな。ここにいる人たちが生きて帰ってこれただけでも」

 鋼蟻メタルアント……これまで一度も討伐記録のない〝瞟眇なる存在ヴェイグ・エンティティ〟──その等級は、幻獣級を除く最上位ランクの【SSS】。

「よお、蟻ン子、運が良すぎだろぉぉぉ」
「ちょっと、放してください」

 祝勝会が始まって1時間くらい経ったころ、満杯になった酒場は従業員の数が足りないせいか、一脚型円卓ラウンドテーブルに残っている食べ終わったお皿や空いた木杯ジョッキをカノが気を遣って、カウンターへ運んでいると、酒場の端っこで飲んでいた男たちに囲まれていた。

そのなかで、見覚えのある男が、カノさんの肩に腕を回している。

「なにを……」

 ボクが気が付いてすぐに声をかけようとしたが、マーファさんがボクの腕を引いて止めた。

「たしかあの男に紹介してやったのはオレ様だよなぁぁ~~ッ?」
「……」
「紹介料をちゃんと払わねーと、ダメだろう?」

 案内所で、夜中に魔蟻の巣を探索したいと言い出したボクたち厄介者をカノさんに無理やり投げた男……酒に酔っていて、男が数人で寄ってたかって女の子にお金をよこせだなんて見過ごすわけにはいかないのだが……。

「イヤです。あと私を蟻ン子と言うのをやめてください!」

 カノは、男の腕を振り払い毅然とした態度で相手を睨みつける。

「おいおいおい~~。オマエ今、なにやってるのか、わかってんのか?」

 男のことばに怒気がはらむ。しかしカノさんは一歩も引かずに男を見上げる。

「わたしは……もうアナタ達の言いなりにはなりませんッ!」
「ちょっと運が良かったからってこのガキゃぁ⁉」

 まだ12歳くらいのカノさんの頬を、男が拳を作って殴る、が空ぶった挙句、宙を舞って、酒場の壁に激突した。

「──ッ⁉ おいオマエら、ボーっとしてないでソイツをぶっ●せ」

 男は自分がなにをされたのか、わからないまま、痛む腰を押さえながら仲間に指示を出した。だが──他の3人も同じように投げ飛ばされ、酒場の床を舐めるハメになった。

 すごい効果だね。金蟻ゴルドアントの卵って……。
 1個、10,000ゴルド前後で市場で取引されるものをボクは10個くらい手に入れた。

 そしてその卵を売らずに全部、皆で分けて食べた。それというのも、スキル【具眼(SS)】で鑑定したところ、ある調理法を用いて金蟻の卵を1個食べるだけで、すべてのステータスが1.000上昇することがわかったから。

 ボクを含め、1個ずつ食べて、カノさんだけは特別に2個食べてもらったので、彼女のステータスをポチョがカード測定したところ強さが、「9.1」──この数値は、大体の面倒ごとを自分で片づけることが十分可能なレベルで、彼女を下手に傷つけようとなんて輩は今後、二度と発生しないだろう。

「──許さねえ」

 男が、腰に提げていた小剣を抜いた。そしてうしろで起き上がってきた男たちもそれぞれ得物を手に取った。

「私はもう逃げない……」

 カノさんは、刃物を持った男へ臆することなく一歩踏み出す。

「英雄セル・モティックさまとその一行の案内人である私は」
「て、テメェ」

 男が近づいてくるカノに小剣で突き刺そうとしたが、『キンッ』と高い音を立てて、小剣が弾かれた。

「ひ、ヒィィ、ソイツは……」

 カノさんの前には、カノさんを育ててくれた女王蟻の魂を持った鋼蟻メタルアントが、男の前に立ちふさがっていた。

「私のであるこの魔蟻ひとと一緒に強く生きていきます」

 そっか、マーファさんがボクを止めたのは、ボクの出る幕なんてなかったから。そして彼女がこれから強く生きていくために自分で乗り越えないといけない障害を自分で今、克服したんだ……。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラスメイトのなかで僕だけ異世界転移に耐えられずアンデッドになってしまったようです。

大前野 誠也
ファンタジー
ー  子供頃から体の弱かった主人公は、ある日突然クラスメイトたちと異世界に召喚されてしまう。  しかし主人公はその召喚の衝撃に耐えきれず絶命してしまった。  異世界人は世界を渡る時にスキルという力を授かるのだが、主人公のクラスメイトである灰田亜紀のスキルは死者をアンデッドに変えてしまうスキルだった。  そのスキルの力で主人公はアンデッドとして蘇ったのだが、灰田亜紀ともども追放されてしまう。  追放された森で2人がであったのは――

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...