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第2章 シリカ大峡谷
第67話 強く生きる……
しおりを挟む「よお~し。オマエらぁ~木杯の準備はいいかぁ~?」
ひと族の青年は、円卓を囲ったもの達と、さらにその周りにいる冒険者たちを見回した。
シリカ大峡谷の上にある町のとある酒場で祝勝会がこれから開催されようとしていた。
「それじゃあ、このペッチさま率いる英雄パーティーの偉業を祝してぇ~かんぱぁぁぁぁいぃ‼」
あれ? いつペッチさんが率い始めたんだっけ? まあボクの名前を語らないだけマシ、なのかな?
岩人族ゴンゾと女子兎人のルナは「また悪い癖が……」と顔をしかめ、水人族マーファは無視して食事を始めている。ムンク司祭だけワナワナ震えて、「セル殿の偉業をアナタってひとはぁぁぁ、ムフゥゥーーーーッ」と変な興奮をして抗議しているが、誰も耳を貸してくれていない。
そしてボクの隣には、最後に女皇蟻のいる魔蟻の巣に一緒に入ったカノが座ってチビチビと葡萄水の入った木杯に口をつけていた。
この7人が行った偉業とは、魔蟻の巣の完全制覇で、すべての魔蟻の巣を回って生きて帰ってきた初めての冒険者と案内人ということになる。
「よろしいのですかセル殿? 好き勝手なことを吹いて回っておりますぞ?」
「うーん、別にいいかな。ここにいる人たちが生きて帰ってこれただけでも」
鋼蟻……これまで一度も討伐記録のない〝瞟眇なる存在〟──その等級は、幻獣級を除く最上位ランクの【SSS】。
「よお、蟻ン子、運が良すぎだろぉぉぉ」
「ちょっと、放してください」
祝勝会が始まって1時間くらい経ったころ、満杯になった酒場は従業員の数が足りないせいか、一脚型円卓に残っている食べ終わったお皿や空いた木杯をカノが気を遣って、カウンターへ運んでいると、酒場の端っこで飲んでいた男たちに囲まれていた。
そのなかで、見覚えのある男が、カノさんの肩に腕を回している。
「なにを……」
ボクが気が付いてすぐに声をかけようとしたが、マーファさんがボクの腕を引いて止めた。
「たしかあの男に紹介してやったのはオレ様だよなぁぁ~~ッ?」
「……」
「紹介料をちゃんと払わねーと、ダメだろう?」
案内所で、夜中に魔蟻の巣を探索したいと言い出したボクたち厄介者をカノさんに無理やり投げた男……酒に酔っていて、男が数人で寄ってたかって女の子にお金をよこせだなんて見過ごすわけにはいかないのだが……。
「イヤです。あと私を蟻ン子と言うのをやめてください!」
カノは、男の腕を振り払い毅然とした態度で相手を睨みつける。
「おいおいおい~~。オマエ今、なにやってるのか、わかってんのか?」
男のことばに怒気がはらむ。しかしカノさんは一歩も引かずに男を見上げる。
「わたしは……もうアナタ達の言いなりにはなりませんッ!」
「ちょっと運が良かったからってこのガキゃぁ⁉」
まだ12歳くらいのカノさんの頬を、男が拳を作って殴る、が空ぶった挙句、宙を舞って、酒場の壁に激突した。
「──ッ⁉ おいオマエら、ボーっとしてないでソイツをぶっ●せ」
男は自分がなにをされたのか、わからないまま、痛む腰を押さえながら仲間に指示を出した。だが──他の3人も同じように投げ飛ばされ、酒場の床を舐めるハメになった。
すごい効果だね。金蟻の卵って……。
1個、10,000ゴルド前後で市場で取引されるものをボクは10個くらい手に入れた。
そしてその卵を売らずに全部、皆で分けて食べた。それというのも、スキル【具眼(SS)】で鑑定したところ、ある調理法を用いて金蟻の卵を1個食べるだけで、すべてのステータスが1.000上昇することがわかったから。
ボクを含め、1個ずつ食べて、カノさんだけは特別に2個食べてもらったので、彼女のステータスをポチョがカード測定したところ強さが、「9.1」──この数値は、大体の面倒ごとを自分で片づけることが十分可能なレベルで、彼女を下手に傷つけようとなんて輩は今後、二度と発生しないだろう。
「──許さねえ」
男が、腰に提げていた小剣を抜いた。そしてうしろで起き上がってきた男たちもそれぞれ得物を手に取った。
「私はもう逃げない……」
カノさんは、刃物を持った男へ臆することなく一歩踏み出す。
「英雄セル・モティックさまとその一行の案内人である私は」
「て、テメェ」
男が近づいてくるカノに小剣で突き刺そうとしたが、『キンッ』と高い音を立てて、小剣が弾かれた。
「ひ、ヒィィ、ソイツは……」
カノさんの前には、カノさんを育ててくれた女王蟻の魂を持った鋼蟻が、男の前に立ちふさがっていた。
「私の母であるこの魔蟻と一緒に強く生きていきます」
そっか、マーファさんがボクを止めたのは、ボクの出る幕なんてなかったから。そして彼女がこれから強く生きていくために自分で乗り越えないといけない障害を自分で今、克服したんだ……。
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