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第2章 シリカ大峡谷

第63話 巣への突入

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 1,000匹……いや、もしかしたら2,000匹以上は倒したかもしれない。
 戦闘を続けること1時間。ようやく周囲に動く魔蟻がいなくなった。
 カノさんの話だと、これで7~8割の魔蟻は倒せたそうだ。今、外に出てきたのは兵隊蟻ソルジャーアントというもっとも数が多い最弱種だそうだ。巣のなかに入ると、兵隊蟻より大きな隊長蟻キャプテンアントや、女王蟻の側にいる屈強な近衛蟻ガードアントといった厄介な魔物がいることを教えてくれた。

 巣のなかは複雑に入り乱れていて、迷いやすく通路も人がふたり立つと窮屈なくらい幅が狭いため、隊列を組みにくいそうだ……。もしパーティーで入ったら危険かもしれない。なによりボクにはムンク司祭から祝福を受けているので、やり直しタイムリープという反則的な効果が発動するので、万が一のことを考えると、ボクひとりの方がリスクは少ない。

 道には迷うが、分岐しているところを片っ端から【指し手(U)】で、分散していけばどこかで女王蟻の元に辿りつけるはず。あとペッチさん達3人組が捕まっていたり、潜伏して逃げるタイミングを見計らっている可能性だってある。ボクと兵士たちが暴れ回れば、逃走できる可能性がぐっと上がる。

 魔蟻の巣のなかに突入する。
 魔蟻の巣はシリカ大峡谷の谷底において、地面から土と魔蟻が分泌する粘性度の高い液体を混ぜて造った空中に浮かぶ迷宮のようなカタチをしていて、巣に入る前に見上げた時は、無数の丸い球体を通路と思しき線を結んでできていて、ひとりで侵入したらとてもではないが、探索は難航を極めていただろうと想像できる。

 想定していたとおり、すぐに分岐路があったので、騎士1体と兵士3体をボクとは違う道へ進ませた。そしてさらに分岐路がみえた。そこで残る騎士1体と兵士1体を別行動を指示し、ボクだけ別の道を選んだ。

 しばらく進むと丸い部屋になっており、魔蟻の幼虫を育てている部屋に入った。子守り兼護衛担当の兵隊蟻が5匹ボクに飛び掛かるが、一瞬で切り伏せる。そして奥に神経を注ぐ。

 体格が今まで見てきた兵隊蟻より大きい。なので、おそらくこの魔物が隊長蟻キャプテンアントだと思われる。

 ボクの両手剣グレートソードが『ギンッ』と悲鳴を上げた。

 兵隊蟻なら甲殻ごと叩き斬れたけど、隊長蟻の甲殻部分は硬いため、思い切りへこんではいるが、斬り裂けなかった。

 チカラで押し切れなくても、今のボクには技術がある。相手を接近させないように敢えて空振りしたり、フェイントを入れて、魔蟻共通の弱点である関節部をさらけ出させて、狙った通りに大剣を走らせ、隊長蟻の胴を斬り飛ばした。

 ここにはいない。
 部屋の中を隈なく探したが、ペッチさん達は見当たらなく行き止まりになっていたので、先ほどの分岐路の所まで引き返して、先ほど別行動にした騎士と兵士の後を追った。

 しかし、さらに2回分岐していて、全て右側を選択して進むと、行き止まりなっていて、中には魔蟻が5体いたが、騎士や兵士は見当たらなかった。

 ボクが魔蟻を倒して移動している間にも目の端で「筋力が0.001Upしました」などと表示が流れているので全滅はしていないはずだが、騎士はともかく兵士が隊長蟻に遭遇したら勝てるか少し不安だった。

 そして予感は的中していた。
 行き止まりの部屋に入ると、隊長蟻が1体残っている状態で、魔石が散らばっていて、他には誰もおらず、隊長蟻の触覚が1本、左右の足が2本無くなっている。おそらくここにきた騎士か兵士が争って敗れたあとだと考えられる。

 動きの鈍った隊長蟻はボクの相手ではなかった。一撃で隊長蟻を倒し、少し大きめの魔石に変えた。

 それから数時間、散々、迷ったが、他の騎士や兵士も次々と各部屋にいる魔蟻たちを仕留めているみたいで、時間の経過とともに魔蟻の姿がない部屋が増えてきた。

 そしてようやく最深部──女王蟻クインアントのいる部屋へとたどり着く。
 巨大な女王蟻の側にはカナさんの情報どおり近衛蟻ガードアントが3体いる。

 ボクは部屋への侵入と同時にスキル【指し手(U)】の解除と再発動を行った。すると現時点でまだ消えてなかった騎士2体が喚び出せた。やはり兵士たちには隊長蟻は荷が重すぎたようだ。

 近衛蟻ガードアントの大きさは1.5メートルくらい。人間とほぼ変わらない大きさで、その重さは50キロくらいはあるので、隊長蟻よりも確実に強く速い。

 ボク以外の騎士が、そのパワーに圧倒されつつも何とか耐え凌いでくれている。その間に目の前にいる近衛蟻を倒そうと焦るが、そもそも女王蟻を守るためだけに存在する魔蟻なので、他の蟻たちのように不用意にこちらに踏み込んでこない分、手間取ってしまう。

 それならば、と砲士を喚び出し一気に決める。砲士の肩に背負った火矢が女王蟻に狙いを定めると、近衛蟻が3匹とも女王蟻の前に盾となった。他よりもかなり広い部屋だけど、爆発に伴う爆風が通路近くにいたボクや騎士をも襲う。

 かろうじて、騎士の一体がボクの盾替わりになって、重傷を負わなかったが、火矢を飛ばした砲士が吹き飛んで消えてしまった。

 燻る黒煙のなか、かろうじてまだ息のある女王蟻にトドメを刺す。この部屋に到達するまでにゴミ捨て部屋がいくつか見てきたが、動物の骨以外にも人骨とみられるものもたくさんあった。人間側からしたら、けっして容赦なんてしてはいけない魔物である。

────────────────── 
 【指し手(U)】の条件を満たしました。
 〝器〟の成長により、砲士が1体増えました。
──────────────────

 ひさびさの能力の成長だけど、砲士って、この魔蟻の巣のなかで無闇にぶっ放すと自滅してしまうため。喚び出さず切り札として温存しておくことにした。

 かなりダメージを負った騎士2体とボクで大量の魔石を大きな袋に背負って、外に向かう。残念ながら金蟻ゴルドアントの卵というものは見つからず、もう少しで外に出るというところで、不意を衝かれた騎士が一体やられてしまった。だけどボクともう一体の騎士はなんとか外に出ることができた。
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