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第5章 山奥の村
第19話 谷底の攻防
しおりを挟む「私はジュノ、弟はロヴニ」
「ボクはセル、よろしくね。」
ふたりはダルカス山をこえた村エイサに住んでいるそうで、少しでも先を急いでいる旅人を相手に道案内をしてお金を稼いでいるそうだ。
彼らは道だけではなく山道の魔物にも詳しく、身を隠しながら魔物をやり過すとこができた。
その日の夕方にはダルカス山を降り始めた。そこで日が沈み始めたので、山道から少し外れた高い場所にちょっとしたほら穴があり、ここなら魔物に襲われないから、と伝えられ、朝まで休憩することにした。
(ピリリリリッ)
夜中に頭のなかで笛のような音がして目が覚めた。すると見張りをしていたはずのロヴニは、ほら穴の入口に座ったまま寝ていて、姉のジュノがボクの寝床の真横に立っていた。
「起こしてしまいました? ゴメンなさい」
ニコっと笑って、ボクが寝ていた場所の岩壁からキノコを採取し始める。
──ビックリした。ところでさっきの笛みたいな音はなんだったんだろ?
<眠れない板金屋>
:あせった。起きたか?
<腰痛天使>
:あの娘、あきらかに動きがおかしかったろ?
<眠れない板金屋>
:キャラ、気をつけろ。普通じゃなかったぞ
夜中は〝常連〟と呼ばれるムフフ99さんをはじめとした神たちはいない。初めてお目にかかる神たちが文字を通して語りかけてきた。
先ほどの笛の音は、神たちがボクに干渉できる権能で〝アラーム〟というらしい。ボクになにかを知らせたいときなどに使えるそうだ。これもアップデートというもののおかげなのだろうか。
ボクはそのまま神さま達の忠告に従い、寝ることなく朝を迎えた。朝方、見張り役のロヴニが目を覚まし、慌てて立ち上がり、あたりをキョロキョロと見回す。そしてなにもなかったことに安堵したのか、もう一度同じ場所に座り直した。
やはりボクの思い違いではないようだ……弟のロヴニは常になにかに怯えている。馬宿で初めて会った時から違和感を感じていた。だからボクはこの姉弟を放っておくことができなかった。
荷物をまとめて出発の準備が整うと、山道を降り始めた。ほどなくして森のなかへと入った。少し進むと姉のジュノの方が、ここから道なりに進むと魔物が巣食っているところがあるので、迂回しますとボクに説明した。
森のなかに大きな奇岩がところどころにあり、その岩が目印になっているのか、ジュノとロヴニはどんどん森のなかを進んでいく。
森が開けたと思ったら、谷底が正面を横切っており、心細く感じる吊り橋がある。下は10メートルもなく、もし落ちても、死ぬことはないと思うが、落ちないにこしたことはない。ここを通るのが、近道だとジュノが話す。ただ、吊り橋は細くて頼りないためひとりずつ渡ろうという話になった。
「なあセル、ここで引きかえ……いや、なんでもない」
思いつめた顔で、ロヴニがボクになにか言いかけたが、ジュノと視線を合わせると、黙ってしまった。
まずロヴニが渡り、次にジュノが先にいく。最後にボクの番となり、吊り橋を渡っている途中、ぷつりと縄が切れて下へと落ちていった。
──あいたたたっ。
(おっなんかひさしぶりにイベントきた!)
<ムフフ99>
:なんかひさしぶりに主の声を聞いたw
<ヂョニー・デブ>
:どんなイベント来たん?
(ウインドウ開けるぞ?)
────────────────────
谷底から五体満足で脱出する
【報酬】Sランクスキル(ランダム)
────────────────────
<王!爺ザス>
:すげーシンプルw
<ムフフ99>
:これはヤバいな
<魔王ニート>
:どゆこと?
<ムフフ99>
:クエストが意味深すぎる
(たしかにこれは危険だな)
神プレイヤまで、ムフフ99さんに同調する。ボクはあたりをみると、空間の揺らぎがあるのがみえた。慌てて【月炯眼】を発動した。そして愕然とする。大量の大トカゲに包囲されていた。
─────────────────────
個体名なし 両性 1歳~37歳
シアー・モニター
筋力 平均2.112
瞬発力 平均0.377
耐久力 平均1.119
魔力 0.000
<固有スキル>
【擬態化】風景に同化して認識しづらい。
<スロットスキル>
【噛み付き(D)】
永続型(効果:筋力の1.5倍までの耐久力のものを破壊し嚙み砕く)
「空き」
「空き」
<能力スキル>
「空き」
────────────────────
(ひさしぶりにウデが鳴るぜ)
<王!爺ザス>
:ホントだよ。最近Auto機能使いすぎ
<ムフフ99>
:かなりキツそう
(ホントだよ。でもオレならいける)
マニュアルモード、ボクのカラダを神プレイヤが操作を始めた。
タイミングを見計らっていたかようのように一斉に襲い掛かってきた。その場でいちばん大トカゲの包囲網の薄いところを狙い、突破に成功すると、すかさず【指し手(U)】の兵士を2体出して、不意打ちをもらわないように配置する。
兵士が時間を稼いでいる間に、固まっていなかった大トカゲを一体ずつ、大剣の一振りで確実に倒しながら、少し登っている坂道の方へ走り続ける。
動きが遅くて、耐久値が思ったより低いのでなんとかなっているが、一撃で倒せない場合、たちまちのうちに囲まれてしまう恐れがある。そして噛み付きによる破壊力はボクの〝鋲金つき皮鎧〟をやすやすと噛みつぶし、骨や肉に届くだろう。
ジャンプしてきたオオトカゲに斜めへ斬り上げる際、一瞬、うしろがみえたが、すでに兵士2体は大トカゲの群れに呑み込まれて、跡形もなく姿を消していた。
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