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第33話
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「あー、君ら中学生?」
「はい」
「うーん、中学生はなぁ、ちょっと……」
大きな敷地内に無数に並ぶ貨物用コンテナを改良したオフィス。
室内は白を基調として清潔感があり、怪しい場所には見えなかった。
20代前半の男性がふたりで店をやっていて、個人ダンジョンを使用した新しいゲームスタイルをベンチャー企業として設立したそうだ。
「誰から紹介してもらったの?」
「玉ノ箱中学3年の伊藤先輩です」
「伊藤……クン、あー、三島の後輩だね。でもね……」
紹介してもらった人物に心当たりがあったらしいが、中学生はゲームはできないと遠まわしに断る方向で話を進めていた。しかし……。
「あれ、ちょっと待って……君、例のレアダンジョンでバズった子じゃない?」
4人を順番に眺めていた男が亜理紗に気が付いた。以前、ダンジョン配信アプリで公開設定した時に相当数の視聴者がいて、その後も編集され、Pik PokやMy Tubeなどで拡散されたので一躍時の人となってしまった。
「どうしよっかなー? 特別待遇しちゃおっかなー」
「やった! 亜理紗連れてきて正解じゃん」
雷汰が喜び、亜理紗に親指を立てグッドサインを送る。亜理紗もまんざらではなく口元が緩んでしまう。
「まずは参加費用とゲームの内容を教えてください」
麗音はひとりだけ声のトーンが低い。彼らをまだ信用していないようだ。
「参加費は無料。ゲームの内容はダンジョン内での鬼ごっこ」
すぐに行うのではなく、今度の土曜日の夜に開かれるらしい。1チーム5人で対戦チームと鬼ごっこをして勝ったチームのメンバー全員がAコーデを一式もらえるとのこと。ただし、鬼ごっこの具体的な方法はゲーム開始直前に説明するとの返事があった。
「どうして無料なんです? それじゃ開催しても儲からないじゃないですか?」
鬨人も疑っているひとりだった。無料って言う響きは、たしかに怖い。
「ダンジョン配信アプリ【Stream Of Dungeon】は知ってるよね?」
それはもちろん知っている。
あの配信アプリを巡ってずいぶんと酷い目に遭ったので、いい思い出が無い。
「実は独自で開発した配信アプリがあるんだ」
アプリの名前は教えてくれなかった。そのアプリは生配信ではなく録画して後日、動画をあげるタイプで視聴者数が多ければ多いほどアプリを制作した人に儲けが出る仕組みだそうだ。
「だから参加料は無料。でも条件があるよ?」
勝ったチームは、負けたチームのひとりから個人ダンジョンを奪うことができる、という条件付きだそうだ。だからレアダンジョン持ちの亜理紗を見て、レアダンジョンを巡ってより熱狂することを狙っているのだと思う。
「それはマズいんじゃない?」
「割に合わないよな、亜理紗」
「えーっ、大丈夫だって、勝てばいいじゃん」
麗音に続き、鬨人も条件を聞いて亜理紗を心配してくれている。雷汰はいつも通り何も考えずにしゃべっているので無視するとしても……。
「5人目は私が連れてきていいですか?」
「……別にいいよ」
「亜理紗、本当にいいの?」
「うん、大丈夫」
5人目をこちらが選べるなら勝機はある。
むしろ、勝ちが確定してしまいそう。
鬨人も「亜理紗が良ければ別にいいけど」と納得してくれた。
それから数日後の土曜日の夜。
指定された場所は、雑居ビルの屋上にあるペントハウスと呼ばれる屋上家屋に集まった。部屋の中の真ん中をカーテンで仕切られていて、カーテンの向こうにいる対戦相手の顔が見えなかった。
「4人しかいないけどいいの?」
「はい」
例のベンチャー企業のひとりが亜理紗へ確認したので即答した。
「おい、5人目は?」
「大丈夫、一緒にいるから」
鬨人がもう一度亜理紗に確認したが、問題ないと説得する。誰よりも頼りになる助っ人は、亜理紗のスマホの中で待機している。彼がいるからどんなゲームだろうと問題ない。
「それじゃあ、ゲームの内容を詳しく説明するよ」
もうひとりの男が、各自のスマホに事前にダウンロードさせていたアプリを起動するよう伝えて、画面のチュートリアルを見ながら説明を始めた。
「まず、くじ引きで鬼チームを決める」
鬼役のチームを決めたら、次に転送される縦横ともに8マスのダンジョンの最初のマスを決めるように説明があった。
鬼チームは縦軸にG列、鬼チームではない方はA列の好きなマスをそれぞれ選べば配置されるそう。
ひとつのマスは5メートル角の正方形で、10メートルの高さの壁で隔ているそう。仲間と合流できないようにできていて、仲間がいるマスの扉は開かないそうだ。
ただし、壁の上は10メートルの高さはあるが、声をあげれば周囲のマスにも聞こえるため、戦略として使ってもらいたいとのこと。
次にマスの移動はターン制で、1ターンでひとり1マスずつ移動ができる。鬼チームがそうではないチームのマスに入ったら鬼チームがそのメンバーを捕らえることができ、鬼チームが全員を捕らえたら鬼チームの勝ち。鬼チームではない方は、転移直後にランダムで「ボール」が配布されるため、そのボールを敵陣であるH列のマスへ持ち込めば鬼チームじゃない方の勝利となる。
「じゃあ、丸がついた方を引いた方が鬼チームで……」
司会の男がカーテンの端に立って、手に持っているアルミ缶に刺さっているアイスの棒みたいなものを向こうとこちらへ順に差し出す。その差し出されたものをじゃんけんで勝った雷汰が引いたら丸印がついていない方の棒を引いた。
「では、鬼チームから先にゲートに入って」
鬼チームが先にダンジョンゲートに入ると、カーテンが開かれ、誰もいなくなった仕切りの向こうにあるゲートが見えた。
「それじゃ、楽しんでね」
司会の男の声がやけに気になりながら、亜理紗はダンジョンゲートをくぐり抜け自分で選択したA-3へと転移した。
【Dゲームの初期配置図】
「はい」
「うーん、中学生はなぁ、ちょっと……」
大きな敷地内に無数に並ぶ貨物用コンテナを改良したオフィス。
室内は白を基調として清潔感があり、怪しい場所には見えなかった。
20代前半の男性がふたりで店をやっていて、個人ダンジョンを使用した新しいゲームスタイルをベンチャー企業として設立したそうだ。
「誰から紹介してもらったの?」
「玉ノ箱中学3年の伊藤先輩です」
「伊藤……クン、あー、三島の後輩だね。でもね……」
紹介してもらった人物に心当たりがあったらしいが、中学生はゲームはできないと遠まわしに断る方向で話を進めていた。しかし……。
「あれ、ちょっと待って……君、例のレアダンジョンでバズった子じゃない?」
4人を順番に眺めていた男が亜理紗に気が付いた。以前、ダンジョン配信アプリで公開設定した時に相当数の視聴者がいて、その後も編集され、Pik PokやMy Tubeなどで拡散されたので一躍時の人となってしまった。
「どうしよっかなー? 特別待遇しちゃおっかなー」
「やった! 亜理紗連れてきて正解じゃん」
雷汰が喜び、亜理紗に親指を立てグッドサインを送る。亜理紗もまんざらではなく口元が緩んでしまう。
「まずは参加費用とゲームの内容を教えてください」
麗音はひとりだけ声のトーンが低い。彼らをまだ信用していないようだ。
「参加費は無料。ゲームの内容はダンジョン内での鬼ごっこ」
すぐに行うのではなく、今度の土曜日の夜に開かれるらしい。1チーム5人で対戦チームと鬼ごっこをして勝ったチームのメンバー全員がAコーデを一式もらえるとのこと。ただし、鬼ごっこの具体的な方法はゲーム開始直前に説明するとの返事があった。
「どうして無料なんです? それじゃ開催しても儲からないじゃないですか?」
鬨人も疑っているひとりだった。無料って言う響きは、たしかに怖い。
「ダンジョン配信アプリ【Stream Of Dungeon】は知ってるよね?」
それはもちろん知っている。
あの配信アプリを巡ってずいぶんと酷い目に遭ったので、いい思い出が無い。
「実は独自で開発した配信アプリがあるんだ」
アプリの名前は教えてくれなかった。そのアプリは生配信ではなく録画して後日、動画をあげるタイプで視聴者数が多ければ多いほどアプリを制作した人に儲けが出る仕組みだそうだ。
「だから参加料は無料。でも条件があるよ?」
勝ったチームは、負けたチームのひとりから個人ダンジョンを奪うことができる、という条件付きだそうだ。だからレアダンジョン持ちの亜理紗を見て、レアダンジョンを巡ってより熱狂することを狙っているのだと思う。
「それはマズいんじゃない?」
「割に合わないよな、亜理紗」
「えーっ、大丈夫だって、勝てばいいじゃん」
麗音に続き、鬨人も条件を聞いて亜理紗を心配してくれている。雷汰はいつも通り何も考えずにしゃべっているので無視するとしても……。
「5人目は私が連れてきていいですか?」
「……別にいいよ」
「亜理紗、本当にいいの?」
「うん、大丈夫」
5人目をこちらが選べるなら勝機はある。
むしろ、勝ちが確定してしまいそう。
鬨人も「亜理紗が良ければ別にいいけど」と納得してくれた。
それから数日後の土曜日の夜。
指定された場所は、雑居ビルの屋上にあるペントハウスと呼ばれる屋上家屋に集まった。部屋の中の真ん中をカーテンで仕切られていて、カーテンの向こうにいる対戦相手の顔が見えなかった。
「4人しかいないけどいいの?」
「はい」
例のベンチャー企業のひとりが亜理紗へ確認したので即答した。
「おい、5人目は?」
「大丈夫、一緒にいるから」
鬨人がもう一度亜理紗に確認したが、問題ないと説得する。誰よりも頼りになる助っ人は、亜理紗のスマホの中で待機している。彼がいるからどんなゲームだろうと問題ない。
「それじゃあ、ゲームの内容を詳しく説明するよ」
もうひとりの男が、各自のスマホに事前にダウンロードさせていたアプリを起動するよう伝えて、画面のチュートリアルを見ながら説明を始めた。
「まず、くじ引きで鬼チームを決める」
鬼役のチームを決めたら、次に転送される縦横ともに8マスのダンジョンの最初のマスを決めるように説明があった。
鬼チームは縦軸にG列、鬼チームではない方はA列の好きなマスをそれぞれ選べば配置されるそう。
ひとつのマスは5メートル角の正方形で、10メートルの高さの壁で隔ているそう。仲間と合流できないようにできていて、仲間がいるマスの扉は開かないそうだ。
ただし、壁の上は10メートルの高さはあるが、声をあげれば周囲のマスにも聞こえるため、戦略として使ってもらいたいとのこと。
次にマスの移動はターン制で、1ターンでひとり1マスずつ移動ができる。鬼チームがそうではないチームのマスに入ったら鬼チームがそのメンバーを捕らえることができ、鬼チームが全員を捕らえたら鬼チームの勝ち。鬼チームではない方は、転移直後にランダムで「ボール」が配布されるため、そのボールを敵陣であるH列のマスへ持ち込めば鬼チームじゃない方の勝利となる。
「じゃあ、丸がついた方を引いた方が鬼チームで……」
司会の男がカーテンの端に立って、手に持っているアルミ缶に刺さっているアイスの棒みたいなものを向こうとこちらへ順に差し出す。その差し出されたものをじゃんけんで勝った雷汰が引いたら丸印がついていない方の棒を引いた。
「では、鬼チームから先にゲートに入って」
鬼チームが先にダンジョンゲートに入ると、カーテンが開かれ、誰もいなくなった仕切りの向こうにあるゲートが見えた。
「それじゃ、楽しんでね」
司会の男の声がやけに気になりながら、亜理紗はダンジョンゲートをくぐり抜け自分で選択したA-3へと転移した。
【Dゲームの初期配置図】
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