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✜44 糸使い
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めんどい。
実に疲れる。
いつもならシュリとヤコが、自分が何かを頼む前に動いて済ませてくれるので、すごく楽だった。ふたりの存在がとても有難く、常に気を配られていたんだと今現在、つくづく実感している。
なぜならば……。
「ぐぅ~~むにゃむにゃ、甘い物ならまだ食べられるにゅ……」
「ふむ、退屈じゃのぉ……アラタ、なにか面白いことをやってくれなのじゃ」
前方で戦闘中の真後ろで、寝言をつぶやきながら熟睡してくれているタコ娘と、退屈しのぎに扇子をくるくる回したり、お手玉したりした後、自分に芸を求めてくるサキュバス。そしてこの場にいないウサギっ子。先ほどからソロで戦うより数倍の疲労を感じている。
それからどれくらい時間が経ったろうか……。正面から蟻の大軍がやってくるので、大型ナイフが何度も刃こぼれして、かれこれ10本はクリエイティブで新調した。おかげで蟻の倒し方にもだいぶ慣れた。甲殻部は硬くて刃が通らないので関節の部分にうまく滑り込ませて斬れば、すんなりと切断できる、だが当然、蟻の魔物とて自分の弱点は承知している。甲殻部分でナイフを受けようとしてくるので、コンマ数秒先を予測してナイフを振るわなければならない。
蟻の魔物はその数がまったく減る様子がない。だけど強引に無理やり少しずつ前進していく。背後で寝ているプルポは、サクラが座布団代わりにしているのか、自分が前に進むと、ふたりともフワフワと浮いたまま後ろからついてきた。
それにしても……。
後ろの通路からまったく襲われない。もし挟み撃ちになってしまったら、さすがに自分でも前後を同時には防ぎきれない。もちろん自分は生命力がバグっているので問題ないが、サクラとプルポを守れる自信がない。リルネにいたっては、もうすでに蟻の魔物にやられているかもしれない。
──急に兵隊蟻の密度が減った。これぐらいの数なら全然余裕なので、一気に奥へと突撃していく。
巨大な空洞へ出た。ここが蟻の巣の本拠地かも……壁一面に蟻のコロニーがびっしりと埋め尽くされている。周囲の状況を確認している最中、先ほど急に兵隊蟻が減った理由が判明した。
リルネと思しき人物が目にもとまらぬ速さで地面と天井を交互にバウンドしている。兵隊蟻の他、たまに紛れている隊長蟻を1匹ずつ確実に潰している。こんなに速く動かれたら蟻の魔物たちに、なす術はないだろう。リルネが暴れまわってくれていたから、ここに蟻たちが集まっていたのか。
「ギギィ!」
おっと、見つかった。隊長蟻の一匹がこちらに気が付き、警戒音を発した。
「よく寝たにゅ」
よく寝たにゅ、じゃないでしょ。寝てたら危ないんだけど?
「充電が完了したので、行くにゅ。【千本乱舞】」
魔法で構成された半透明な触手、それが本当に千本あるんじゃないかというくらい無数に伸びていく。
そして、この大空洞内の壁を、床を、天井を嵐のように叩きつけ暴れまわる。
約30秒間の打撃の嵐が終わると、動いている兵隊蟻や隊長蟻はごくわずかで、そのほとんどが硬貨に変わって地面に転がっていた。
「充電が切れたにゅ、モグモグ」
また、能力テンペラリンクで繋げた亜空間から食べ物を取り出し、頬張りだした。
「こやつは燃費が悪いのじゃ」
なるほど、食べ物と睡眠はアホみたいな威力の広域攻撃のためだったのか……。サクラがフワフワと宙に浮いたまま読んでいた本を閉じた。
「リルネも疲れた。サクラ、あとはよろしくラピ!」
いつの間にかリルネも後ろへ戻ってきて、疲れたのか水を飲んでいる。
あれは何?
大空洞のちょうど中央に不自然な場所をみつけた。何もないところ。なのにそこだけメッキが剥がれたように違う光景が浮かんでみえる。これって目隠し?
「女皇蟻の目撃事例が極端に少ない理由を知っておるか?」
「いや」
サクラが地面に足をつけ、ゆっくりと前へ進み出て、扇子を広げ自分の口元を隠す。
「おるのじゃよ、蟻の魔物にも皇を守る最強の騎士が」
蟻の巣……コロニーを覆っていた擬態用の膜がすべて剥がれ、露わになったその下にはこれまで見たこともない銀色に光る蟻の魔物が、コロニーの中からゆっくりと姿を現した。
ステータスを確認した。種族名は真銀蟻──ミスリルアント。
生命力は3,000を超えてて、筋力と敏捷性が1,000を軽く超えている。こんな化け物がまだこのダンジョン島にいたんだ……。
「こやつを倒せば女皇蟻は簡単に捕らえられる」
いや、大丈夫なの? サクラのステータスって、ほとんど100前後なのに? ラミアにダンジョンを占拠されるぐらいだから、戦闘は苦手なはずじゃ。
「アラタ兄ぃ、大丈夫ラピ」
「え、でも……」
「サクラは無敵だにゅ」
リルネに続き、プルポも太鼓判を押した。
ミスリルアントが、少しずつ距離を詰めてくるが、構える様子も見せずにのんびり扇子で遊んでいる。なんか見ているこっちがドキドキしてしまう。
──はやっ!?
スピードはリルネと同じくらいの超高速。見るからに重そうなのにこの速さ。これってまともに正面からぶつかったら、高速を走るダンプトラックに轢かれるぐらいの威力になるんじゃ……。
2、4、8……これはいったい?
ミスリルアントの体が真っ二つになったと思ったら、どんどん細かく刻まれて5、6回くらい細断された時点で黒い煙に変わって、白金貨数枚がサクラの足元へゆっくり転がってきた。
「サクラは糸使いだにゅ」
彼女が扱う糸はあまりにも細すぎて肉眼では視えないレベル、岩だろうが鉄だろうが何でも斬ってしまう切断力を有しているという。
「だから先ほど通路で背後から襲われなかったにゅ」
そうなの……てっきり運が良いのだと思っていた。
「一度、ここを拠点化して、明日きたら下僕にできるじゃろう」
その背後にいた女皇蟻もいつの間に斬られたのか、たった今、黒い煙となって消えた。
サクラに言われた通り、拠点化して、空間干渉で一度、クリエの街へと引き返す。
ヴァ―ルギュント、か、正直舐めてたな……。
実に疲れる。
いつもならシュリとヤコが、自分が何かを頼む前に動いて済ませてくれるので、すごく楽だった。ふたりの存在がとても有難く、常に気を配られていたんだと今現在、つくづく実感している。
なぜならば……。
「ぐぅ~~むにゃむにゃ、甘い物ならまだ食べられるにゅ……」
「ふむ、退屈じゃのぉ……アラタ、なにか面白いことをやってくれなのじゃ」
前方で戦闘中の真後ろで、寝言をつぶやきながら熟睡してくれているタコ娘と、退屈しのぎに扇子をくるくる回したり、お手玉したりした後、自分に芸を求めてくるサキュバス。そしてこの場にいないウサギっ子。先ほどからソロで戦うより数倍の疲労を感じている。
それからどれくらい時間が経ったろうか……。正面から蟻の大軍がやってくるので、大型ナイフが何度も刃こぼれして、かれこれ10本はクリエイティブで新調した。おかげで蟻の倒し方にもだいぶ慣れた。甲殻部は硬くて刃が通らないので関節の部分にうまく滑り込ませて斬れば、すんなりと切断できる、だが当然、蟻の魔物とて自分の弱点は承知している。甲殻部分でナイフを受けようとしてくるので、コンマ数秒先を予測してナイフを振るわなければならない。
蟻の魔物はその数がまったく減る様子がない。だけど強引に無理やり少しずつ前進していく。背後で寝ているプルポは、サクラが座布団代わりにしているのか、自分が前に進むと、ふたりともフワフワと浮いたまま後ろからついてきた。
それにしても……。
後ろの通路からまったく襲われない。もし挟み撃ちになってしまったら、さすがに自分でも前後を同時には防ぎきれない。もちろん自分は生命力がバグっているので問題ないが、サクラとプルポを守れる自信がない。リルネにいたっては、もうすでに蟻の魔物にやられているかもしれない。
──急に兵隊蟻の密度が減った。これぐらいの数なら全然余裕なので、一気に奥へと突撃していく。
巨大な空洞へ出た。ここが蟻の巣の本拠地かも……壁一面に蟻のコロニーがびっしりと埋め尽くされている。周囲の状況を確認している最中、先ほど急に兵隊蟻が減った理由が判明した。
リルネと思しき人物が目にもとまらぬ速さで地面と天井を交互にバウンドしている。兵隊蟻の他、たまに紛れている隊長蟻を1匹ずつ確実に潰している。こんなに速く動かれたら蟻の魔物たちに、なす術はないだろう。リルネが暴れまわってくれていたから、ここに蟻たちが集まっていたのか。
「ギギィ!」
おっと、見つかった。隊長蟻の一匹がこちらに気が付き、警戒音を発した。
「よく寝たにゅ」
よく寝たにゅ、じゃないでしょ。寝てたら危ないんだけど?
「充電が完了したので、行くにゅ。【千本乱舞】」
魔法で構成された半透明な触手、それが本当に千本あるんじゃないかというくらい無数に伸びていく。
そして、この大空洞内の壁を、床を、天井を嵐のように叩きつけ暴れまわる。
約30秒間の打撃の嵐が終わると、動いている兵隊蟻や隊長蟻はごくわずかで、そのほとんどが硬貨に変わって地面に転がっていた。
「充電が切れたにゅ、モグモグ」
また、能力テンペラリンクで繋げた亜空間から食べ物を取り出し、頬張りだした。
「こやつは燃費が悪いのじゃ」
なるほど、食べ物と睡眠はアホみたいな威力の広域攻撃のためだったのか……。サクラがフワフワと宙に浮いたまま読んでいた本を閉じた。
「リルネも疲れた。サクラ、あとはよろしくラピ!」
いつの間にかリルネも後ろへ戻ってきて、疲れたのか水を飲んでいる。
あれは何?
大空洞のちょうど中央に不自然な場所をみつけた。何もないところ。なのにそこだけメッキが剥がれたように違う光景が浮かんでみえる。これって目隠し?
「女皇蟻の目撃事例が極端に少ない理由を知っておるか?」
「いや」
サクラが地面に足をつけ、ゆっくりと前へ進み出て、扇子を広げ自分の口元を隠す。
「おるのじゃよ、蟻の魔物にも皇を守る最強の騎士が」
蟻の巣……コロニーを覆っていた擬態用の膜がすべて剥がれ、露わになったその下にはこれまで見たこともない銀色に光る蟻の魔物が、コロニーの中からゆっくりと姿を現した。
ステータスを確認した。種族名は真銀蟻──ミスリルアント。
生命力は3,000を超えてて、筋力と敏捷性が1,000を軽く超えている。こんな化け物がまだこのダンジョン島にいたんだ……。
「こやつを倒せば女皇蟻は簡単に捕らえられる」
いや、大丈夫なの? サクラのステータスって、ほとんど100前後なのに? ラミアにダンジョンを占拠されるぐらいだから、戦闘は苦手なはずじゃ。
「アラタ兄ぃ、大丈夫ラピ」
「え、でも……」
「サクラは無敵だにゅ」
リルネに続き、プルポも太鼓判を押した。
ミスリルアントが、少しずつ距離を詰めてくるが、構える様子も見せずにのんびり扇子で遊んでいる。なんか見ているこっちがドキドキしてしまう。
──はやっ!?
スピードはリルネと同じくらいの超高速。見るからに重そうなのにこの速さ。これってまともに正面からぶつかったら、高速を走るダンプトラックに轢かれるぐらいの威力になるんじゃ……。
2、4、8……これはいったい?
ミスリルアントの体が真っ二つになったと思ったら、どんどん細かく刻まれて5、6回くらい細断された時点で黒い煙に変わって、白金貨数枚がサクラの足元へゆっくり転がってきた。
「サクラは糸使いだにゅ」
彼女が扱う糸はあまりにも細すぎて肉眼では視えないレベル、岩だろうが鉄だろうが何でも斬ってしまう切断力を有しているという。
「だから先ほど通路で背後から襲われなかったにゅ」
そうなの……てっきり運が良いのだと思っていた。
「一度、ここを拠点化して、明日きたら下僕にできるじゃろう」
その背後にいた女皇蟻もいつの間に斬られたのか、たった今、黒い煙となって消えた。
サクラに言われた通り、拠点化して、空間干渉で一度、クリエの街へと引き返す。
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