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 自己紹介の後に各自能力が発現できたのか色々試し始めた。
 この世界にきたら何かしらの能力が使えると言われたからだが、コレはきっと生死を左右するくらいとても重要なことだと思う。

 真っ先に能力を確認できたので、オッちゃんやオバちゃんにコツを教えると二人とも少し時間が掛かったけど何とか使えるようになった。

 残る二人、紫礼司は癪に障ったのかオレからコツを聞くのを拒否し、緑川さんはビクついてばかりでロクに能力の確認をしようともしない。

 どうしよう? 
 この人達ここがヤバいところって分かってるのかな?

 オレは〝火〟、オッちゃんは〝工具生成〟。オバちゃんは〝調理器具生成〟だった。
 オッちゃんとオバちゃんの能力をみると、これまでの人生が能力として発現したような感じだがオレの〝火〟ってなんだろう? よくわからない。
 なんとなくだが、能力の出方がオッちゃん達は完成されたモノで自分のは根本的に何か違うもので不確かなものに見える……気がする。

 どれくらいの出力なのか使って確認してみると、指先から火がトーチライターのような柱状に火が吹き出ているが、飛ばすことはできず料理とかには使えそうだ。

 しばらくして、ようやく紫礼司が自力で能力の発動に成功した。
 能力は〝剣の生成〟。
 この化け物がいっぱいな筈の世界ではこの中で一番実戦向きな能力に目覚めたと思う。
 自分の能力を確認した紫礼司はさらに態度が大きくなる。

「シケた能力してんなお前ら? 本当にここで生き延びる気があんのか?」

 それはどうだろう?
 自分の能力はおいておくとしてもオッちゃんとオバちゃんの能力は生存活動サバイバルにおいて最適だと思うけど?
 二人はこのメンバーの中で重要な能力と考えて行動するべきだと思う。

 緑川さんには能力発動を頑張ってもらい、一切手伝おうとしない紫礼司を放っておいて、三人で手分けして食料調達に取り掛かる。
 近くの木の実をオッちゃんの工具生成でハシゴを作ってもらい効率よく摘んできてもらう。オバちゃんは片っ端からキノコを集めてもらい、オレはオッちゃんに差し替え式ドライバーの先端を作ってもらい、それを木の枝の先に固定して即席の銛を作り、魚捕りを行う。

「やった。一匹ゲット」

 魚が捕れた嬉しさのあまり川岸を振り返ると、いつの間にか見知らぬ人達が立っていた。
 五人とも手に武器──槍を持っていて、それを紫礼司に突き付けている。
 なんか剣呑な雰囲気。
 イヤな予感をしつつも岸に上がり近づくと、紫礼司が手に持っている片手剣を男の一人に渡していた。

 男達は笑いながら緑川さんを値踏みするような目で見ていると、ひとりこちらに気が付いた。

「なんだガキもいるじゃねえか」

 二人近づいてきて、能力をみせろと言われて〝火〟をみせると舌打ちされて頬を叩かれた。
 男達は緑川さんの腕を掴み無理やり連れていこうとしたので慌てて止めると、今度は拳で殴られた。
 コイツラに緑川さん連れて行かれたら絶対ロクでもないことをするに違いない……。
 もう一度、立ち上がり両手を広げて緑川との間に割って入る。

「ちっ、まあいいや……とっとと、くたばっちまいな」
 男の一人がそう言い、他の四人が下品な嗤い声をあげながら下流の方に歩いていった。
 
(クソが……)

 心の中で悪態をつくが表情には出さない。
 ここは異世界、殺人を犯しても罪には問われない。
 ヤツらがその気になればこの場にいる三人をロクな抵抗も受けずに殺すこともできるだろうが、殺人を犯しても裁く法がどこにもない。

 弱肉強食ってホントなんだ……。
 法治国家では自分が裁かれるから人は我慢するし、法を無闇に破ったりしない。

 人間の本質は〝善〟? そんなワケない。
 今、平気で人の頭を叩いたり殴ったりするヤツのどこに〝善〟を感じる?
 そして〝力〟が無ければ、やられても何も仕返しもできない……。
 アイツら全員を一方的にブチ殺せる力が欲しい。

 暗い感情に包まれたまま、もう一度魚捕りに戻る。



 ✂…………………………



 緑川さんは結局、能力が発現できないまま夕方を迎えた。
 
 夕飯の支度を始める。
 あのあと魚を三匹取れ、オッちゃんとオバちゃんは木の実とキノコをたくさん取って来た。

 オバちゃんの調理器具でカセットコンロを作り、味付けも何もない食事をとる。

 収納が不便だ。柔らかい木の枝で編みこんでカゴを作ると良さそうだが、オレにそんな器用さはない。

 無言でそんなことを考えながら食事していると、急に頭の中で閃いた。
 たぶんできる。〝空間収納〟ができる能力を獲得したと思う。
 
 能力って発現はひとつだけじゃないんだ……。
 食後に色々試してみたが、スーツケース一個分くらいの収納ができ、いつでも出し入れ可能。
 漫画やアニメでよく見るこういった魔法、スキルのように、状態をそのまま保存できるのかは不明だけど、余った魚や木の実をオバちゃんに〝調理器具生成〟で保存容器を出してもらい、容器に余った食材を詰めて空間収納の中に放り込んだ。

 続けて水の確保も大事だ。
 カセットコンロをもう一つ出してもらって、ヤカンに煮沸した水を同じような容器に移し替えてどんどん空間収納の中に収めていく。

「おい、火をつけろ」

 紫礼司が真っ暗になった空を見て自分に命令してくる。

「やめた方がいいよ」

 紫礼司にその理由を説明する。
 焚火などの大きな火はとにかく目立つ。
 今、この世界になにが潜んでいるのかわかりやしない。
 オッちゃんとオバちゃんは自分の意見に賛成するが緑川さんはどっちつかずな反応。

「向こうをみろよ」

 下流のずいぶんと離れたところで小さな赤い光が見える。
 たぶん、昼にあった連中。
 特に危険は無いだろう? と言いたいだろうが、まだまだここは未知の場所に依然変わりはない。

「明日、森に入って安全が確認されるまでは待ってよ」

 その説明で紫は「けっ」と言いながら少し離れたところで横になった。
 オッちゃんはコンクリートハンマー、オバちゃんは包丁を近くに置いて眠りについた。

「……・・・・天方くん
「──ッ!?」

 顔のそばでオジちゃんが耳打ちしたので飛び起きたが、「しぃーーっ」と声を出さないように人差し指を口に当てている。

「なんですか?」

 小さな声で聞くとオジちゃんは下流の方を指差す。
 みると、あの小さな赤い松明の光がみえなくなっていて、代わりに微かに悲鳴のようなものが聞こえる。

「天方くんの言った通りになったね」

 念のためにそうしただけだが、まさか本当に襲われるとは……。

 小さな声で話していたがオバちゃん達も起きたので、事情を説明した。
 なるべく窪んでいて周りから見えづらいところに移動して皆、隠れるようにして夜を過ごした。

 翌日の朝になって、昨夜悲鳴の聞こえた場所に行くと、周囲におびただしい血痕が残っていたが、誰一人そこにいなかった。
 イヤな想像が脳裏をよぎるが口にしない。

 剣や槍で武装した男性五名が忽然と姿を消した。
 やはりここは本当に危険な別世界。
 武装した人間を一方的に襲うことができる何かが・・・いる。
 
 自分達が持っているハンマーとか包丁は怪物に対して何の役にもたたない!?

 森の中に入ることを断念し、そのまま川に沿って下っていくことに決めた。
 お昼前に歩きながら練習していた緑川さんがようやく能力を発現できた。
 〝念動力〟、自分の腕力くらいのものなら持ち上げられる。
 射程は約十メートル、その気になれば自分の身体もなんとか浮き上がるくらい。
 これまで生きてきた世界ならこの力だけで一生飯を食っていけるだろう。
 だけど、この世界ではそこまで役に立つ能力とは思えない。
 
 暗くなる前に昨日と同じように食料を調達し夕食を済ませ、身を縮めて身体を休ませる。


 だが無事に朝はくることはなかった……。

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