陰陽絵巻お伽草子

松本きねか

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人の心の行き先

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雪明の結界内に戻ったあやめは、泣き続けていた。

『どうすればいいの? どうすれば私だと分かってもらえるの?』

そこへ、雪明が現れた。

「あやめ、どうでしたか?」

全てお見通しだと言わんばかりの顔で、声をかけられた。

『雪明、どうしたらいいのか分からないよ』

その場に泣き崩れる。

雪明はそっと抱きしめるようにあやめの背に手を回した。
実際に肉体があるわけではない、なのに、なんとなく温かさを感じた。

「情っていうのかな、人にある心」

静かな声で雪明は話し始めた。

『…』

「このまま、この結界の中で、人の情がなくなるまで閉じ込めておくつもりでした」

『…』

「式神に戻ったら、自然に人の心は薄らいでいくものだと、龍様も言っておりましたけどね」

『人の心が無くなる前に、また、行ってもいいだろうか? 忠保様の元へ…必ずここに帰ってくるから』

雪明は仕方ありませんねと、微笑んだ。

「気が済むまでどうぞ、ただし、あやめだと分かってもらえずに調伏されてしまう可能性もある、それでも行きたいですか?」

調伏…自分が消されてしまうかもしれない。
あやめはぶるっと身震いした。

『それでも、行きたい』

強い眼差しで雪明の瞳を見つめる。

「う~ん、あなたが調伏されてしまったら、私が困るのですけどね、大切な私の式神なので」

『この結界の中で透明とはいえ人の姿でいるのは、雪明の霊力のおかげなのだろうか?
ほんの少しだけでも、外で人型をとることはできないのだろうか?』

あやめは疑問に思う事を雪明に投げかけた。

「まず、その通りです、この結界内では私の霊力によってその姿を保てています」

『じゃあ、外で人型をとることはできないの?』

「あると言えば、あります、よ」

言葉切れ悪く雪明は言う。

『教えて!』

キラキラした目であやめに迫られて、雪明は戸惑った。

「忘れないでください、あなたは私の式神なんですからね、時間がたてば人の心が消えて本来の姿に戻るんですからね」

『大切な式神なら、協力してください』

「忠保様の元に行ったら、どうしたいのですか?」

『そりゃあ、私は元気ですよ、って』

「私の式神に戻りましたって、話すのですか?」

あやめはハッとした。

もし、忠保の前で人型をとって話した場合、忠保はどうするのだろうか?
もちろん、私が『あやめ』であると信じてもらえたらの話だが…

『忠保様は、多分…』

「ご自分の式神にしたいと思うでしょうね」

『もう一度人間にしたいと思ってしまうだろうか?』

「おそらくは」

あやめはしゅんとしてしまった。

「私はあなたという式神を手放す気はありませんから、どうなるのか、分かりますよね?」

一体の式神を巡って陰陽師同士が争う事になる。

しかも、雪明は契約者だから、悔恨が残る事になるだろう。

雪明は透明なあやめの額をそっと人差し指で触れた。

ふわ~っと雪明の印が浮かび上がる。

「分かってもらえましたか?」

『…』
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