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出会い

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「あの、もしかして坂木心さかきしんさんですか?」

大学からの帰り道、というか私が一人暮らしをしているアパートの入口で声をかけられた。

誰かいるのには気づいていたが、適当に会釈して通り過ぎようとしていた途端に声をかけられたので、普通にびびった。

改めて声の方を見ると、可愛らしい女の子がいた。

でも、彼女に見覚えはない。

アパートここに住んでいる誰かの彼女か?

少なくとも住人にこんな子はいなかった…はず。

現代の希薄な近所づきあいの風潮は我が家も同じなので、そんなに住んでいる人を一々覚えていたりはしないので、はっきりは言えないが。

壁のごついこの学生アパートに住人の誰かが恋人を連れ込んでいるなんて割とザラだ。

前に元バイト先のJKが部屋に来て言っていた。

『こんないい部屋、ウチなら彼氏引っ張り込みまくるよ!』

7帖のワンルームの我が家はJKのお気に召したらしい。

まぁこちとら連れ込む彼氏もいないわけなんですがね。

…話が逸れた。

まぁ、住人の彼女さん方には何度かアパートの玄関で会釈したことあるから、そう思ったわけだ。

でもそこまで考えて『ん?』となった。

何故にフルネーム知ってんの?

丁度横にあるポストには、住人の苗字と部屋番号のみ。

この場合、私の存在を知ってここに来たって方が正しくない?

てことは、彼待ちじゃなしに私待ちってことなんだろう。

「そうですけど…私に何か用ですか?」

2拍ぐらいしっかり貯めて恐る恐る言葉を返す。

過去の経験上、女の子の待ち伏せ?にいいイメージがない私は内心、また無意識に何かやらかしたんじゃないかと冷や汗ダラダラなわけだけど、絶対に表情には出さない様に気を張る。

そうしないと舐められて好きなだけボコられる。

女子怖い。

本人だと認めた途端睨まれるんじゃないか、と内心ガクブルで女の子を見つめていると、彼女は私の予想に反して普通に笑った。

めっちゃ普通に、悪意の無い親しみがこもった人懐っこい笑顔だ。

一瞬、その笑顔が誰かと被ったのだけど、思い出す前に彼女が口を開いた。

「合ってたんですね!よかった…。はじめまして、私、神崎志好かんざきしずといいます。志好って呼んで下さい!私も心さんって呼ばせてもらってもいいですか?」

「え、え?はぁ…」

ハイテンションに任せて私の両手を握ってブンブン上下に振る姿は、失礼だけど実家のワンコを思い出してしまう。

あまりにもフレンドリーな志好ちゃん?のテンションに流されて私の頭は混乱の真っ只中だ。

私の混乱が収まる前に志好ちゃんは話をどんどん進めていく。

「私、ずっと心さんに会いたかったんです!この町にいるって知ってここ3日間ずっと探してて、今日やっとこのアパートに住んでるって聞いて張ってたんです!」

……。

…ちょっと待て、落ち着け私。

今の会話だけでもツッコミどころあり過ぎて処理しきれないんですけども。

というか、私呑気にこの子と話してても大丈夫か?

この子のしてる事ってストーカーってやつでは…

そう考えると、目の前の可愛いらしい女の子が少し不気味に見えてきた、気がする。

そんな私の様子に気づいたのか、志好ちゃんは慌ててフォローを入れる。

「あ、待って、警戒しないで。すみません…つい浮かれちゃって。この状況じゃ私完全に不審者ですね。私無害です!身体検査でも持ち物検査でも受けるので、それだけは信じて下さい!」

無害ですって…

まぁ私害有りますって言って寄って来る不審者もなかなか居ないわけだけども、そんなことばっか考えてても話進まないなぁ。

まぁ、まだ警戒が溶けたわけじゃないけど、悪意の類は一切見えないのも事実なわけで……うーん。

「…とりあえず場所移しませんか?寒い中立ち話するのもなんですし。甘い物は大丈夫ですか?」

「え?はい、大好きです」

「なら、近くに美味しいケーキを出すカフェがあるのでそこに行きましょう。お話があるならそこでしましょ?」

得意の営業スマイルを貼り付けてそう言う。

こういう時は相手を自分の土俵に引きずり込んだ方の勝ちだ。

あと寒い。

私はさっさと志好ちゃんを連れてカフェに向かうことにした。

どんな用かは知らないが、こっちも聞きたいは山ほどある。

特に人の住所を簡単にゲロってくれたらしい誰かのことはしっかり聞いておかなくては。
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