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海翔と朋 4
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「やっと終った」
朋は学校を出ると腕時計を見て足を速める
土曜日の午後を楽しむ人々を掻きわけるように改札を通る、とホームに停車したばかりの電車に飛び乗った
閉まる扉にもたれ掛かると乱れた呼吸を整えるように大きく息を吸い込みながら、制服のポケットからスマホを取り出した
海翔起きたかな
ほんの少し期待してSNSを開いてみたが、当たり前のように海翔からのメッセージは届いてなかった
つまんないの
朋はスマホをまたポケットに突っ込むと、つり革にぶら下がるようにつかまり、流れる風景を眺めた
早く元気になってくれないと、陸たちが帰ってきちゃうのになぁ
小さくため息をつきながら電車を降りると改札出口から真っすぐに伸びた緩い坂道を歩いていく
あの日・・・
朋が初めて寮にあるピアノに触れた日
ピアノを弾いていた朋の耳元で海翔が囁いた言葉を思い出す
「俺、お前が好きだ」
海翔の声を思い出しただけで、トクンと朋の心臓が高鳴る
その言葉の後に、朋の頬に触れた海翔の唇の冷たい感触
海翔
黒くて艶やかな海翔の髪
朋に優しく触れる大きな手
耳元で名前を呼ぶ低くて柔らかな声
朋よりほんの少し背の高い海翔を見上げた時に照れたように伏せられる長い睫毛
早く帰りたい
気が付くと朋は走り出していた
早く海翔に会いたい衝動が、もう止まらなかった
あ・・・
長い坂道の途中にあるコンビニの前で朋は走るのを止めて立ち止まった
少しの間息を整えると、コンビニの入り口に立つ
自動ドアが開き明るい音が耳に飛び込んできた瞬間、朋は自分の背後に気配を感じて何気なく振り向いた
あいつ・・・
振り返った朋の視線を避けるように、1人の男子高校生が朋を追い越してコンビニに入っていく
それは、朋とは何の面識もない他校の生徒だった
テニス部に関する騒ぎが沈静化して学校や寮に押しかけていた大人たちが姿を消した頃から、朋はこの男子生徒を目にするようになった
登校する時の駅で
下校する時のこの帰り道で
ふらりと立ち寄った書店でも
休みの日に出かけた近所のスーパーでも
そして・・・今も
朋はコンビニに入りスイーツコーナーに向かうと、大きなシュークリームを2つ手に取ってレジに向った
海翔ほど甘いものは好きではないけれど、朋がシュークリームの皮を少し齧って、そこから中のクリームをちゅうちゅうと吸っている間に、海翔は大口を開けてあっという間にシュークリームを平らげてしまう
その時の、嬉しそうな海翔の顔を見るのが大好きだった
レジで支払いを済ませ店を出るタイミングで、朋はチラリを店内に視線を走らせる
あの男子生徒は雑誌コーナーの前に立って明らかに朋の方を見ていた
朋と視線が合うと慌てて顔を背けたのがはっきり分かった
朋は小さく舌打ちをすると店を出てすぐに、建物の影に身を潜めた
すると予想通り、あの男子生徒が何も買わずに慌てたように店を出てキョロキョロと周りを見回している
そして茫然と立ち尽くした後、諦めたようにため息をついて、朋が隠れている方へと歩いてきた
「お前、誰だよ」
男子生徒が隠れていた朋に気付かずにその前を通り過ぎようとした瞬間、朋は声をかけた
「えっ!!!」
驚いて立ち止まった彼の前に、朋が立ちはだかる
「何なの?僕に何か用?」
「あ・・・いえ・・あの」
朋はまじまじと彼を見た
少し茶色く染めた髪
ノーフレームの眼鏡の下で切れ長の瞳が足元を見つめている
着ている制服の胸元に『ⅡーA』と書かれた学年章が付けられていた
「答えろよ」
朋が冷たい声で言うと、彼はグッと両手を握りしめて朋に言った
「俺、深見沢高校2年の八代です」
「別に、名前聞いてないけど?」
「え・・・」
「僕に用があんの?って聞いてるんだけど」
「あ・・・ありますっ」
「だから何?」
朋がイラついた声を出しながらチラリと腕時計を見た瞬間、八代が思いもよらない事を口にした
「好きです」
「はぁー???」
思わず間の抜けた声を出してしまった
八代はさらに一歩朋に近づくと、今度はゆっくりと自分の気持ちを確認するように言った
「俺、あなたが好きです」
一瞬、2人の間に沈黙が流れた
「あのさ・・・」
すぅーっと息を吐き出すようにして、朋が真っすぐに八代を見つめて口を開いた
「僕、恋人いるから」
「・・・え・・・」
八代の目に動揺の色が浮かぶ
「悪いけど、そういう事だから。あきらめて」
朋は薄ら笑いを浮かべて首を傾げてから、歩き出した
八代とすれ違う瞬間、「ごめんね」と小さい声で言うと、振り向きもしないで去って行った
1人取り残された八代は、強く両手を握りしめたまま俯くと
「あきらめて、なんて、簡単に言うなよ」と小さく呟いた
朋は学校を出ると腕時計を見て足を速める
土曜日の午後を楽しむ人々を掻きわけるように改札を通る、とホームに停車したばかりの電車に飛び乗った
閉まる扉にもたれ掛かると乱れた呼吸を整えるように大きく息を吸い込みながら、制服のポケットからスマホを取り出した
海翔起きたかな
ほんの少し期待してSNSを開いてみたが、当たり前のように海翔からのメッセージは届いてなかった
つまんないの
朋はスマホをまたポケットに突っ込むと、つり革にぶら下がるようにつかまり、流れる風景を眺めた
早く元気になってくれないと、陸たちが帰ってきちゃうのになぁ
小さくため息をつきながら電車を降りると改札出口から真っすぐに伸びた緩い坂道を歩いていく
あの日・・・
朋が初めて寮にあるピアノに触れた日
ピアノを弾いていた朋の耳元で海翔が囁いた言葉を思い出す
「俺、お前が好きだ」
海翔の声を思い出しただけで、トクンと朋の心臓が高鳴る
その言葉の後に、朋の頬に触れた海翔の唇の冷たい感触
海翔
黒くて艶やかな海翔の髪
朋に優しく触れる大きな手
耳元で名前を呼ぶ低くて柔らかな声
朋よりほんの少し背の高い海翔を見上げた時に照れたように伏せられる長い睫毛
早く帰りたい
気が付くと朋は走り出していた
早く海翔に会いたい衝動が、もう止まらなかった
あ・・・
長い坂道の途中にあるコンビニの前で朋は走るのを止めて立ち止まった
少しの間息を整えると、コンビニの入り口に立つ
自動ドアが開き明るい音が耳に飛び込んできた瞬間、朋は自分の背後に気配を感じて何気なく振り向いた
あいつ・・・
振り返った朋の視線を避けるように、1人の男子高校生が朋を追い越してコンビニに入っていく
それは、朋とは何の面識もない他校の生徒だった
テニス部に関する騒ぎが沈静化して学校や寮に押しかけていた大人たちが姿を消した頃から、朋はこの男子生徒を目にするようになった
登校する時の駅で
下校する時のこの帰り道で
ふらりと立ち寄った書店でも
休みの日に出かけた近所のスーパーでも
そして・・・今も
朋はコンビニに入りスイーツコーナーに向かうと、大きなシュークリームを2つ手に取ってレジに向った
海翔ほど甘いものは好きではないけれど、朋がシュークリームの皮を少し齧って、そこから中のクリームをちゅうちゅうと吸っている間に、海翔は大口を開けてあっという間にシュークリームを平らげてしまう
その時の、嬉しそうな海翔の顔を見るのが大好きだった
レジで支払いを済ませ店を出るタイミングで、朋はチラリを店内に視線を走らせる
あの男子生徒は雑誌コーナーの前に立って明らかに朋の方を見ていた
朋と視線が合うと慌てて顔を背けたのがはっきり分かった
朋は小さく舌打ちをすると店を出てすぐに、建物の影に身を潜めた
すると予想通り、あの男子生徒が何も買わずに慌てたように店を出てキョロキョロと周りを見回している
そして茫然と立ち尽くした後、諦めたようにため息をついて、朋が隠れている方へと歩いてきた
「お前、誰だよ」
男子生徒が隠れていた朋に気付かずにその前を通り過ぎようとした瞬間、朋は声をかけた
「えっ!!!」
驚いて立ち止まった彼の前に、朋が立ちはだかる
「何なの?僕に何か用?」
「あ・・・いえ・・あの」
朋はまじまじと彼を見た
少し茶色く染めた髪
ノーフレームの眼鏡の下で切れ長の瞳が足元を見つめている
着ている制服の胸元に『ⅡーA』と書かれた学年章が付けられていた
「答えろよ」
朋が冷たい声で言うと、彼はグッと両手を握りしめて朋に言った
「俺、深見沢高校2年の八代です」
「別に、名前聞いてないけど?」
「え・・・」
「僕に用があんの?って聞いてるんだけど」
「あ・・・ありますっ」
「だから何?」
朋がイラついた声を出しながらチラリと腕時計を見た瞬間、八代が思いもよらない事を口にした
「好きです」
「はぁー???」
思わず間の抜けた声を出してしまった
八代はさらに一歩朋に近づくと、今度はゆっくりと自分の気持ちを確認するように言った
「俺、あなたが好きです」
一瞬、2人の間に沈黙が流れた
「あのさ・・・」
すぅーっと息を吐き出すようにして、朋が真っすぐに八代を見つめて口を開いた
「僕、恋人いるから」
「・・・え・・・」
八代の目に動揺の色が浮かぶ
「悪いけど、そういう事だから。あきらめて」
朋は薄ら笑いを浮かべて首を傾げてから、歩き出した
八代とすれ違う瞬間、「ごめんね」と小さい声で言うと、振り向きもしないで去って行った
1人取り残された八代は、強く両手を握りしめたまま俯くと
「あきらめて、なんて、簡単に言うなよ」と小さく呟いた
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