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羽音 3

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2人は駅前で並んで止まっていたタクシーに乗り込んだ。犬飼が運転手に行先を告げた後、
「すいません。少し窓を開けていただけますか?」と伝え、後部座席の窓が音もなく開くと車内の籠っていた空気が少し軽くなったのを感じて海翔は目を閉じる。

車がゆっくりと動き出し、駅前のロータリーの大きなカーブを曲がって車は国道に出た。

犬飼がチラリと海翔の様子を伺うと、海翔は車が揺れる度に目を閉じたままで眉を潜め、その額には薄っすらと汗が浮かんでいるのが分かった。

不意に犬飼が海翔の後頭部に手を伸ばし、そっと海翔の頭を抱えるようにして自分の肩に乗せ、海翔が驚いたように目を開ける。

「この方が楽でしょう?」
「あぁ・・・そうかも」
「もっともたれても大丈夫ですから」
「ありがとう・・・」

犬飼が視線に気づいて前を向くと、運転手がバックミラー越しに興味津々な目で2人の様子をチラチラ見ている。
犬飼と目が合うと、運転手は慌てて前を向いた。

朝からずっと、何度も襲ってくる痛みに耐えてきた海翔は、隣に犬飼がいる事でその恐怖が和らいでいくのを感じた。

 疲れた・・・

そう思ったとたん、猛烈な眠気に襲われる。

すぐ着くんだけどな・・・と考えながらも海翔の意識は瞬く間に深い眠りの中へと落ちて行った。

肩の上から海翔の呼吸が聞こえる。
苦しそうな大きな呼吸の中に、徐々に静かな寝息が混じっていく。

「お客さん。国道、工事渋滞みたいで、この道でいくとちょっと時間かかりますよ?Uターンして違う道行きましょうか?」

恐らく、具合が悪そうな海翔を気遣って声をかけてくれたのだろう。

「いえ、渋滞でもいいので」

犬飼は静かな笑顔でそう答えた。

 このまま寝かせてあげたい

自分を信頼しきった子どものように頭を預けて寝息をたてている海翔を起こさないように、急ぎませんから、と犬飼は小さく微笑んだ。
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