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第28話。
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ホテルに戻ると、部屋で寛ぎ始めた。短期滞在した後、荷物をまとめて、部屋を出る。ここは、仮の宿だ。
ホテル前に、不動産屋の車が到着した。そのまま、乗り込む。
「よろしく頼むよ」
「OK」
ジミーと男性運転手が、そんな会話を交わす。ジミーと亜季は、車に乗り込むと、これから住む予定の家へと向かった。迷うことは、もうない。
*
新居に着いた二人は、早速、部屋の鍵を受け取り、室内へと入った。そのまま、室内を見学する。時間は掛かった。部屋全体を俯瞰する必要性があるからだ。
綺麗な部屋だった。隠れて過ごすには、絶好の場所のようだ。隠れ家だった。
二人は、持ってきていた手荷物を置くと、疲れが出て、その日は、ひとまずベッドに横たわり、ゆっくりと眠った。熟睡してしまい、気付かない。
*
追っ手が着々と迫っていた。二人を捜しにこの島へとやってきたのは、警視庁国際犯罪対策課二係長の但馬勇だった。空港に降り立った但馬は、現地人のメアリー・リンダとターミナルで会った。双方、待ちかねていたとばかりに喜色満面で、会話を交わし合い、互いの存在を受け入れ合う。それから但馬は、メアリーが日本語に堪能なのを知り、日本語で話し続けた。
「君島次郎という男に殺人容疑が掛かっている。一刻も早く検挙したい」
「そうですね。早く逮捕しないと」
メアリーの口調も、どこか物々しい。この女性も凄腕だ。
「ついては、現地警察に全面的に協力を仰ぎたい。もちろんあなたにも」
「いつでもお受けいたします」
現地で婦警をやっているメアリーは、普段、交通課勤務だ。毎日、駐禁取りばかりで、ろくな仕事をさせてもらってない。ここぞとばかりに、意欲満々のようだった。実際、やる気は十分ある。
一方の但馬は、警視庁勤務丸二十年のベテラン刑事だ。八田と親しくしていて、今回彼に頼まれ、桧舞台を踏んでいた。八田の力のみでは、海の向こうの犯罪までは摘発できない。そこで、但馬の出番というわけだ。
警察関係者から受け取った捜査資料を基に、但馬が自分なりに、君島次郎の事件への関与度を計ってみた。相当根深く、関わっている。そう判断した但馬は、君島の逃亡先を、ここセントアルバと踏んだ。
但馬だって、馬鹿じゃない。自身の冷静な分析力、並外れた行動力を総動員し、何より警察の威信とメンツに賭けて、君島を挙げる気でいた。
但馬とメアリーの二人を乗せた覆面パトカーが、南国の市街を、速度を上げて走る。ドライバーのボブ・モリオカは日系ハーフ人で、黄色い肌の青年だ。
「捜査に口を出すようで申し訳ないのですが、私も君島次郎は、かなり怪しいと思います。即逮捕すべきです」
ボブの一言に、
「君も、やはりそう思うか?」
と、但馬が訊き返すと、ボブが黙って頷く。捜査の外堀は、埋まったと思った。何とか、現地警察の協力も得られそうだ。但馬の確信は、そこまでに至った。
*
やがてパトカーが、街の中央にある現地警察本部へと到着した。これから、地元警察の重役たちと捜査会議がある。何としてでも、上役たちを納得させたいと思いながら、この会議に、但馬は全ての命運を賭けていた。率直にそう思って、臨席する。
ホテルに戻ると、部屋で寛ぎ始めた。短期滞在した後、荷物をまとめて、部屋を出る。ここは、仮の宿だ。
ホテル前に、不動産屋の車が到着した。そのまま、乗り込む。
「よろしく頼むよ」
「OK」
ジミーと男性運転手が、そんな会話を交わす。ジミーと亜季は、車に乗り込むと、これから住む予定の家へと向かった。迷うことは、もうない。
*
新居に着いた二人は、早速、部屋の鍵を受け取り、室内へと入った。そのまま、室内を見学する。時間は掛かった。部屋全体を俯瞰する必要性があるからだ。
綺麗な部屋だった。隠れて過ごすには、絶好の場所のようだ。隠れ家だった。
二人は、持ってきていた手荷物を置くと、疲れが出て、その日は、ひとまずベッドに横たわり、ゆっくりと眠った。熟睡してしまい、気付かない。
*
追っ手が着々と迫っていた。二人を捜しにこの島へとやってきたのは、警視庁国際犯罪対策課二係長の但馬勇だった。空港に降り立った但馬は、現地人のメアリー・リンダとターミナルで会った。双方、待ちかねていたとばかりに喜色満面で、会話を交わし合い、互いの存在を受け入れ合う。それから但馬は、メアリーが日本語に堪能なのを知り、日本語で話し続けた。
「君島次郎という男に殺人容疑が掛かっている。一刻も早く検挙したい」
「そうですね。早く逮捕しないと」
メアリーの口調も、どこか物々しい。この女性も凄腕だ。
「ついては、現地警察に全面的に協力を仰ぎたい。もちろんあなたにも」
「いつでもお受けいたします」
現地で婦警をやっているメアリーは、普段、交通課勤務だ。毎日、駐禁取りばかりで、ろくな仕事をさせてもらってない。ここぞとばかりに、意欲満々のようだった。実際、やる気は十分ある。
一方の但馬は、警視庁勤務丸二十年のベテラン刑事だ。八田と親しくしていて、今回彼に頼まれ、桧舞台を踏んでいた。八田の力のみでは、海の向こうの犯罪までは摘発できない。そこで、但馬の出番というわけだ。
警察関係者から受け取った捜査資料を基に、但馬が自分なりに、君島次郎の事件への関与度を計ってみた。相当根深く、関わっている。そう判断した但馬は、君島の逃亡先を、ここセントアルバと踏んだ。
但馬だって、馬鹿じゃない。自身の冷静な分析力、並外れた行動力を総動員し、何より警察の威信とメンツに賭けて、君島を挙げる気でいた。
但馬とメアリーの二人を乗せた覆面パトカーが、南国の市街を、速度を上げて走る。ドライバーのボブ・モリオカは日系ハーフ人で、黄色い肌の青年だ。
「捜査に口を出すようで申し訳ないのですが、私も君島次郎は、かなり怪しいと思います。即逮捕すべきです」
ボブの一言に、
「君も、やはりそう思うか?」
と、但馬が訊き返すと、ボブが黙って頷く。捜査の外堀は、埋まったと思った。何とか、現地警察の協力も得られそうだ。但馬の確信は、そこまでに至った。
*
やがてパトカーが、街の中央にある現地警察本部へと到着した。これから、地元警察の重役たちと捜査会議がある。何としてでも、上役たちを納得させたいと思いながら、この会議に、但馬は全ての命運を賭けていた。率直にそう思って、臨席する。
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