『逆行。』

篠崎俊樹

文字の大きさ
上 下
28 / 64

第28話。

しおりを挟む
     28
 ホテルに戻ると、部屋で寛ぎ始めた。短期滞在した後、荷物をまとめて、部屋を出る。ここは、仮の宿だ。
 ホテル前に、不動産屋の車が到着した。そのまま、乗り込む。
「よろしく頼むよ」
「OK」
 ジミーと男性運転手が、そんな会話を交わす。ジミーと亜季は、車に乗り込むと、これから住む予定の家へと向かった。迷うことは、もうない。
     *
 新居に着いた二人は、早速、部屋の鍵を受け取り、室内へと入った。そのまま、室内を見学する。時間は掛かった。部屋全体を俯瞰する必要性があるからだ。
 綺麗な部屋だった。隠れて過ごすには、絶好の場所のようだ。隠れ家だった。
 二人は、持ってきていた手荷物を置くと、疲れが出て、その日は、ひとまずベッドに横たわり、ゆっくりと眠った。熟睡してしまい、気付かない。
    *
 追っ手が着々と迫っていた。二人を捜しにこの島へとやってきたのは、警視庁国際犯罪対策課二係長の但馬勇だった。空港に降り立った但馬は、現地人のメアリー・リンダとターミナルで会った。双方、待ちかねていたとばかりに喜色満面で、会話を交わし合い、互いの存在を受け入れ合う。それから但馬は、メアリーが日本語に堪能なのを知り、日本語で話し続けた。
「君島次郎という男に殺人容疑が掛かっている。一刻も早く検挙したい」
「そうですね。早く逮捕しないと」
 メアリーの口調も、どこか物々しい。この女性も凄腕だ。
「ついては、現地警察に全面的に協力を仰ぎたい。もちろんあなたにも」
「いつでもお受けいたします」
 現地で婦警をやっているメアリーは、普段、交通課勤務だ。毎日、駐禁取りばかりで、ろくな仕事をさせてもらってない。ここぞとばかりに、意欲満々のようだった。実際、やる気は十分ある。
 一方の但馬は、警視庁勤務丸二十年のベテラン刑事だ。八田と親しくしていて、今回彼に頼まれ、桧舞台を踏んでいた。八田の力のみでは、海の向こうの犯罪までは摘発できない。そこで、但馬の出番というわけだ。
 警察関係者から受け取った捜査資料を基に、但馬が自分なりに、君島次郎の事件への関与度を計ってみた。相当根深く、関わっている。そう判断した但馬は、君島の逃亡先を、ここセントアルバと踏んだ。
 但馬だって、馬鹿じゃない。自身の冷静な分析力、並外れた行動力を総動員し、何より警察の威信とメンツに賭けて、君島を挙げる気でいた。
 但馬とメアリーの二人を乗せた覆面パトカーが、南国の市街を、速度を上げて走る。ドライバーのボブ・モリオカは日系ハーフ人で、黄色い肌の青年だ。
「捜査に口を出すようで申し訳ないのですが、私も君島次郎は、かなり怪しいと思います。即逮捕すべきです」
 ボブの一言に、
「君も、やはりそう思うか?」
 と、但馬が訊き返すと、ボブが黙って頷く。捜査の外堀は、埋まったと思った。何とか、現地警察の協力も得られそうだ。但馬の確信は、そこまでに至った。
     *
 やがてパトカーが、街の中央にある現地警察本部へと到着した。これから、地元警察の重役たちと捜査会議がある。何としてでも、上役たちを納得させたいと思いながら、この会議に、但馬は全ての命運を賭けていた。率直にそう思って、臨席する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『新宿の刑事』

篠崎俊樹
ミステリー
短編のミステリー小説を、第6回ホラー・ミステリー大賞にエントリーします。新宿歌舞伎町がメイン舞台です。大賞を狙いたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

戦憶の中の殺意

ブラックウォーター
ミステリー
 かつて戦争があった。モスカレル連邦と、キーロア共和国の国家間戦争。多くの人間が死に、生き残った者たちにも傷を残した  そして6年後。新たな流血が起きようとしている。私立芦川学園ミステリー研究会は、長野にあるロッジで合宿を行う。高森誠と幼なじみの北条七美を含む総勢6人。そこは倉木信宏という、元軍人が経営している。  倉木の戦友であるラバンスキーと山瀬は、6年前の戦争に絡んで訳ありの様子。  二日目の早朝。ラバンスキーと山瀬は射殺体で発見される。一見して撃ち合って死亡したようだが……。  その場にある理由から居合わせた警察官、沖田と速水とともに、誠は真実にたどり着くべく推理を開始する。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

孤島の洋館と死者の証言

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽は、学年トップの成績を誇る天才だが、恋愛には奥手な少年。彼の平穏な日常は、幼馴染の望月彩由美と過ごす時間によって色付けされていた。しかし、ある日、彼が大好きな推理小説のイベントに参加するため、二人は不気味な孤島にある古びた洋館に向かうことになる。 その洋館で、参加者の一人が不審死を遂げ、事件は急速に混沌と化す。葉羽は推理の腕を振るい、彩由美と共に事件の真相を追い求めるが、彼らは次第に精神的な恐怖に巻き込まれていく。死者の霊が語る過去の真実、参加者たちの隠された秘密、そして自らの心の中に潜む恐怖。果たして彼らは、事件の謎を解き明かし、無事にこの恐ろしい洋館から脱出できるのか?

【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ

ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。 【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】 なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。 【登場人物】 エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。 ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。 マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。 アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。 アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。 クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。

時雨荘

葉羽
ミステリー
時雨荘という静かな山間の別荘で、著名な作家・鳴海陽介が刺殺される事件が発生する。高校生の天才探偵、葉羽は幼馴染の彩由美と共に事件の謎を解明するために動き出す。警察の捜査官である白石涼と協力し、葉羽は容疑者として、鳴海の部下桐生蓮、元恋人水無月花音、ビジネスパートナー九条蒼士の三人に注目する。 調査を進める中で、葉羽はそれぞれの容疑者が抱える嫉妬や未練、過去の関係が事件にどのように影響しているのかを探る。特に、鳴海が残した暗号が事件の鍵になる可能性があることに気づいた葉羽は、容疑者たちの言動や行動を鋭く観察し、彼らの心の奥に隠された感情を読み解く。 やがて、葉羽は九条が鳴海を守るつもりで殺害したことを突き止める。嫉妬心と恐怖が交錯し、事件を引き起こしたのだった。九条は告白し、鳴海の死の背後にある複雑な人間関係と感情の絡まりを明らかにする。 事件が解決した後、葉羽はそれぞれの登場人物が抱える痛みや後悔を受け止めながら、自らの探偵としての成長を誓う。鳴海の思いを胸に、彼は新たな旅立ちを迎えるのだった。

処理中です...