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第1話。
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「な、何すんだ?お、おい……おい!」
暗闇で、交錯した二つのシルエットが不気味に蠢く。
丸々と太り、幾分、顔の赤らんだ初老の男の首を絞めて、今にもその命の絶とうとしているのは、まだ二十代中頃ぐらいの青年だろうか?
青年はいい顔をしていた。大胆な殺人を犯している最中も、その目は全く淀んでいない。
“募るのは、ただただ、憎しみだけ”
そう思い、縊り殺す掌に一層の力を込めた彼は、目の前でその初老の男を一気に絞め殺した。動かなくなるまで、何度も何度も首筋を絞めて、息が無くなるまで、繰り返す。力が強いからか、青年が男を殺すのは容易だった。
やがて十五分も経つと、絞められた男がぐったりとなった。全く動かなくなる。死んだ。デスマスクには、首筋の血液が一気に環流し、青白くなっている。これは、れっきとした死体だ。
“もう、息してない”
完全に呼吸が停止したことを確認し、死体の首の付け根を見ると、その部分に、絞められた跡がくっきりと青痣になって、鮮明に残っている。殺人は完了だ。
それでも、募る憎悪の感情は絶えない。青年は、死体を思いっきり、右足と左足を交互に使って、何度も繰り返し蹴飛ばし、死体の右わき腹が、蹴ったショックで破裂して、陥没したのが、容易に視認できた。もう、惨殺体だ。息どころか、無残なものと化した。
長年、強く憎み切っていた人間を殺したことで、気分だけは妙によくなった。俄然、テンションが上がる。まるで、クスリでも飲んだ時のような、フワフワと浮いた気持ちになる。仕上げに、男のデスマスクを、靴のかかとで思いっきり蹴飛ばして、鼻の骨をへし折ってやり、完全に殺害が完了した。
「今終わった。これから逃げる。すぐ行くぞ」
スマホで相方に連絡を取って、いったん、電話を切った青年は、部屋中の指紋という指紋を、持っていた布で拭き取った後、部屋を出るために、ドアに施錠した。自分の指紋がノブに付着するのを防ぐため、手には、白い手袋を嵌めている。
そして、鍵を右にクルッと回し、施錠も完了させ、そのまま、部屋を後にし、ゆっくりと、廊下を歩き始めた。あとは、凶器のロープと指紋を拭った布、それに白手袋を焼却すれば、証拠隠滅完了だ。
人を殺した後の高揚感と、ヤク中のようなフワフワした浮遊感を初めて味わう。殺した相手は、長年、憎悪しきった相手だった。紛れもなく、自分にとっては、仇敵そのものだ。憎い。憎たらしい。そう思えて、しょうがない。
相方との待ち合わせ場所は、新宿アルタ前だった。ここは、都内某所だ。今は、某所としか言えない。
路上で右手を挙げて、タクシーを拾い、慌ただしく乗り込む。すぐに行き先を告げて、タクシーが一気に走り出した。
首都高渋谷線を駆け抜けた車は、新宿の街へと出た。辺りは高層ビルが林立し、大都会そのものだった。また、同時に、眠らぬ街でもあるのだ。
青年は、黙り込んでいた。元々、精神病か何かで、精神に異常を来たしているのだと思われるほど、むっつりと黙り込んで、不敵な笑みを浮かべながら、さっきの密室で使った殺しの道具が入ったカバンを抱えていた。車内は、シーンと静まり返っている。
「な、何すんだ?お、おい……おい!」
暗闇で、交錯した二つのシルエットが不気味に蠢く。
丸々と太り、幾分、顔の赤らんだ初老の男の首を絞めて、今にもその命の絶とうとしているのは、まだ二十代中頃ぐらいの青年だろうか?
青年はいい顔をしていた。大胆な殺人を犯している最中も、その目は全く淀んでいない。
“募るのは、ただただ、憎しみだけ”
そう思い、縊り殺す掌に一層の力を込めた彼は、目の前でその初老の男を一気に絞め殺した。動かなくなるまで、何度も何度も首筋を絞めて、息が無くなるまで、繰り返す。力が強いからか、青年が男を殺すのは容易だった。
やがて十五分も経つと、絞められた男がぐったりとなった。全く動かなくなる。死んだ。デスマスクには、首筋の血液が一気に環流し、青白くなっている。これは、れっきとした死体だ。
“もう、息してない”
完全に呼吸が停止したことを確認し、死体の首の付け根を見ると、その部分に、絞められた跡がくっきりと青痣になって、鮮明に残っている。殺人は完了だ。
それでも、募る憎悪の感情は絶えない。青年は、死体を思いっきり、右足と左足を交互に使って、何度も繰り返し蹴飛ばし、死体の右わき腹が、蹴ったショックで破裂して、陥没したのが、容易に視認できた。もう、惨殺体だ。息どころか、無残なものと化した。
長年、強く憎み切っていた人間を殺したことで、気分だけは妙によくなった。俄然、テンションが上がる。まるで、クスリでも飲んだ時のような、フワフワと浮いた気持ちになる。仕上げに、男のデスマスクを、靴のかかとで思いっきり蹴飛ばして、鼻の骨をへし折ってやり、完全に殺害が完了した。
「今終わった。これから逃げる。すぐ行くぞ」
スマホで相方に連絡を取って、いったん、電話を切った青年は、部屋中の指紋という指紋を、持っていた布で拭き取った後、部屋を出るために、ドアに施錠した。自分の指紋がノブに付着するのを防ぐため、手には、白い手袋を嵌めている。
そして、鍵を右にクルッと回し、施錠も完了させ、そのまま、部屋を後にし、ゆっくりと、廊下を歩き始めた。あとは、凶器のロープと指紋を拭った布、それに白手袋を焼却すれば、証拠隠滅完了だ。
人を殺した後の高揚感と、ヤク中のようなフワフワした浮遊感を初めて味わう。殺した相手は、長年、憎悪しきった相手だった。紛れもなく、自分にとっては、仇敵そのものだ。憎い。憎たらしい。そう思えて、しょうがない。
相方との待ち合わせ場所は、新宿アルタ前だった。ここは、都内某所だ。今は、某所としか言えない。
路上で右手を挙げて、タクシーを拾い、慌ただしく乗り込む。すぐに行き先を告げて、タクシーが一気に走り出した。
首都高渋谷線を駆け抜けた車は、新宿の街へと出た。辺りは高層ビルが林立し、大都会そのものだった。また、同時に、眠らぬ街でもあるのだ。
青年は、黙り込んでいた。元々、精神病か何かで、精神に異常を来たしているのだと思われるほど、むっつりと黙り込んで、不敵な笑みを浮かべながら、さっきの密室で使った殺しの道具が入ったカバンを抱えていた。車内は、シーンと静まり返っている。
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