転生令嬢の幸福論

はなッぱち

文字の大きさ
上 下
18 / 59
第二章

無礼な輩を一喝してやりました。

しおりを挟む
 ぞんざいな扱いで、全体的に埃を被り白っぽくはなっておりますが、贅沢は言えません。洗濯はしてあるのかしらと、一瞬、鼻を近づけそうになりましたが、自衛の為に自重します。

 埃を精一杯はたき落とし、可能な限り皺を伸ばして、意を決して袖を通しました。

「そ、そんな、どうしてっ!」

 スカートの丈も膝を十分に隠してくれますし、無駄にスリットが入っていたり、胸元が大きく開いていたりもしていません。

 それなのに……どうして、こんなに扇情的なってしまうのでしょうか!

 胸元が膨れているだけで、どうして人は真っ当な判断が出来なくなってしまうのか。私、今は自分自身だというのに、フィア嬢から溢れるフェロモンで心が麻痺しているようでした。

「このままでは、私はこのお部屋から出ることすら出来ないではないですか!」

 半ば崩れ落ちながら、残りの少ない衣装ケースを漁りました。しかし、出て来る物は、世の男性全てを精も根も絞り取ってやろうという心意気を感じる、破廉恥な物ばかりです。

 人目を避けてブティックに飛び込み、このフィア嬢という名のフェロモンの檻を破らねば、そのようにある種の覚悟を決めました頃、実に荒っぽい足音が廊下から近づいて来たかと思うと、扉を蹴破らん勢いで何者かが部屋に乱入してきました。

「おっ、なんだい、今回はシスター様でいくのかい」

 並の殿方よりも大柄な年輩の女性が、私の姿を見てガハハと豪快に笑います。

 そして、肩からかけたバックパックを床に放り出すと、こちらへ寄って来るなり、私を無遠慮に上へ下へと舐めるように眺め回しました。

「あ、あの、なんですの?」

 お知り合いのようですが、どのような関係なのか、私にはまるで分かりません。

「はっ、なんだそりゃ。芝居のつもりかい、笑わすねぇ」

 私の動揺など、鼻で笑い飛ばされます。そして、それだけに留まらず、胸元に手を伸ばされたかと思うと、さっき必死で止めた胸ボタンを指先で弾き飛ばし、強引に肌を露わにされてしまいました。

「何をなさいますの、無礼者!」

 勢いよく飛び出した谷間を押さえ、私は淑女などとは呼べるはずもない、山賊のような女性に向かって一喝しました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...