54 / 59
第三章
絶叫させてやりました。
しおりを挟む
「貴女、正気なのッ! なんて事をしてくれたの! あぁ、もう、ああああああああもおおおおおお!」
一仕事終えた私を見て、ユリア様は半狂乱になりました。
マールマールを常用しているらしい『ドール』たちを更正させるべく、私は見目麗しいシスターたちを片っ端から縛り上げました。もちろん、それだけでは終わりません。信頼の置ける呪術院に教会の馬車を使って搬送し、マールマールの術式を解除してもらえるよう手配したのです。
彼女たちの部屋から没収したマールマールも全て焼却処分済み。『ドール』が使用していた部屋は、キレイさっぱり空っぽになりました。
「何をそんなに驚いていますの。これくらい朝飯前ですわ。私、理解させることも染め上げることも得意ですのよ」
私を吹きだまりのような、このように不健全な場所に押し込むなど言語道断です。そのような理不尽は一刀両断してやる他はありません。
「ほんっとに何を言ってるの貴女は! ドールはマザーの人形だって言ったでしょう! 彼女たちはマザーの手足なのよ、それを全て排除するなんて!」
「いいえ、彼女たちは人形ではありませんわ。一人一人、ちゃんと人格のある人間です」
「そういう話をしているんじゃないの! 彼女たちを何処へやったのか言いなさい。今すぐ連れ戻さない……と」
ユリア様が私の肩に掴み掛かってきた時、フッと肌に触れていた空気が急に下がったような気がいたしました。
目の前に迫っていたユリア様の顔色も真っ白です。パクパクと言葉なく口を動かすユリア様の間の抜けたお顔を眺めていますと「ユリア」と地の底から這い上がってくるような、恐ろしい声音が聞こえてきました。
力なくユリア様は私から離れると、まるで道を空けるように一歩身を引き、その場で恭しく跪きます。そのおかげで開けた私の視線の先には、降って湧いたように一人の老婆が立っていました。
「ほほ、これがお前の用意した餌かえ。なかなか威勢がいい」
紹介されずとも、この老婆が何者か分かってしまいます。諸悪の根源、女神の加護を有した聖女様、ユリア様の言う所のマザー様。
「…………!」
言ってやりたい事は山ほどあります。けれど、体が全く動きません。
「よく肥えた雌じゃ。ほほ、これを使えるなら凡百など無用。よい、此度の件は不問としよう、ユリア」
あぁ、それだけではなく、老婆の視線が私の体を撫で回している。グッとひとりでに胸が持ち上げられ、痛いくらいにナニカに握られている。
「もし、失敗したら……分かっているね」
透明な、視線としか感じられないモノに嬲られ、私は不快感でいっぱいでしたが、金縛りとでも言うのでしょうか、指先一つすら満足に動かせず、ただただ目の前の老婆を見つめます。
一仕事終えた私を見て、ユリア様は半狂乱になりました。
マールマールを常用しているらしい『ドール』たちを更正させるべく、私は見目麗しいシスターたちを片っ端から縛り上げました。もちろん、それだけでは終わりません。信頼の置ける呪術院に教会の馬車を使って搬送し、マールマールの術式を解除してもらえるよう手配したのです。
彼女たちの部屋から没収したマールマールも全て焼却処分済み。『ドール』が使用していた部屋は、キレイさっぱり空っぽになりました。
「何をそんなに驚いていますの。これくらい朝飯前ですわ。私、理解させることも染め上げることも得意ですのよ」
私を吹きだまりのような、このように不健全な場所に押し込むなど言語道断です。そのような理不尽は一刀両断してやる他はありません。
「ほんっとに何を言ってるの貴女は! ドールはマザーの人形だって言ったでしょう! 彼女たちはマザーの手足なのよ、それを全て排除するなんて!」
「いいえ、彼女たちは人形ではありませんわ。一人一人、ちゃんと人格のある人間です」
「そういう話をしているんじゃないの! 彼女たちを何処へやったのか言いなさい。今すぐ連れ戻さない……と」
ユリア様が私の肩に掴み掛かってきた時、フッと肌に触れていた空気が急に下がったような気がいたしました。
目の前に迫っていたユリア様の顔色も真っ白です。パクパクと言葉なく口を動かすユリア様の間の抜けたお顔を眺めていますと「ユリア」と地の底から這い上がってくるような、恐ろしい声音が聞こえてきました。
力なくユリア様は私から離れると、まるで道を空けるように一歩身を引き、その場で恭しく跪きます。そのおかげで開けた私の視線の先には、降って湧いたように一人の老婆が立っていました。
「ほほ、これがお前の用意した餌かえ。なかなか威勢がいい」
紹介されずとも、この老婆が何者か分かってしまいます。諸悪の根源、女神の加護を有した聖女様、ユリア様の言う所のマザー様。
「…………!」
言ってやりたい事は山ほどあります。けれど、体が全く動きません。
「よく肥えた雌じゃ。ほほ、これを使えるなら凡百など無用。よい、此度の件は不問としよう、ユリア」
あぁ、それだけではなく、老婆の視線が私の体を撫で回している。グッとひとりでに胸が持ち上げられ、痛いくらいにナニカに握られている。
「もし、失敗したら……分かっているね」
透明な、視線としか感じられないモノに嬲られ、私は不快感でいっぱいでしたが、金縛りとでも言うのでしょうか、指先一つすら満足に動かせず、ただただ目の前の老婆を見つめます。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前
地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。
あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。
私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。
アリシア・ブルームの復讐が始まる。
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる