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蜜月
「あいうえお」から学ぶ解読作業
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どれくらいで達成可能なのか、全く分からない状態は、余裕なんてかましてられる場合ではなく、翌日の早朝から寮長に直談判に行った。オレ一人で出向けば、手帳の事とは言え門前払いされるだろうと思ったので、ハウスキーパーとして働く身内に頼り、なんとか話しを聞いてもらい、当分(先輩の補習が終わるまでの間)の昼休みと放課後に約束を取り付けた。
先輩が補習を受けているのか確認したかったが、昨夜見た守峰を何度も無視するのは難しいだろう。物理的には出来ても、クソが付くほど真面目な奴なので、そう何度もサボるような真似はしないと思いたい。寮長とトラブルになっている訳ではないと先輩の心配を拭ってやりたいが、オレではなく逆に寮長の信頼度を考えれば、それほど問題ないと分かるはずだ。
日頃の行いを悔いる時間はない。昼休みと放課後に旧館へ走り、使用許可を貰った寮長の部屋で手帳の写しと格闘し、平仮名らしき文字を全てリストアップする事が出来た。手帳の内容を丸写ししたのではなく、文字のみをリスト化した物を自室に持ち帰り、毎日遅くまで様々な仕事をこなして帰宅する狭間を待つ。見よう見まねで布団を引っ張り出し、黙々と寝る準備を整えていると「ただいまー」と少し疲れの滲む声がした。
「扉の建て付け、やっぱり良くないね。またどこか使ってない部屋の扉と交換しようかな」
昨夜、教師によってぶち破られた扉は、狭間が応急処置を施してくれたが、開閉する度に扉ごと外れてしまう。元から鍵はないので、廊下から入ってくる冷気を少しでも遮断する為の板としての役割さえ果たせばいいような気もするが……まあ普通に不便だ。
「オレも手伝うから、やる時は声かけてくれ」
狭間は「ありがとう」と返事しながら、オレが引っ張り出した布団をナチュラルに整え出した。すると万年床にしか見えなかった布団が、真新しい寝床に生まれ変わった。邪魔になって部屋の隅に転がしたうたた寝する皆元も、慣れた調子で転がし布団にインする完璧さ。一応いつものように準備しようと頑張ったのだが、自分が不器用すぎるのか狭間が器用すぎるのか、多分どっちもだろうなと思うと少し切なくなった。
「狭間、頼みがあるんだけど今いいか?」
狭間の仕事を一つ減らし、その代わりに頼もうとしていたのだが、見事不発に終わったので潔くお願いする事にした。もちろん、そんな交換条件を出さなくても嫌な顔一つしないだろうが、少しだけ後ろめたい気持ちが湧く。狭間はオレの正面に正座しながら「うん、いいよ」と快諾してくれる。
「これの読み方を一緒に考えて欲しいんだ」
必死でノートに書き写した平仮名候補リスト、それを手渡す。いくつかはコレだ! と自信のある文字もあったのだが、あえてオレの出した答えは書き込んでいない。狭間の考察を聞いてから、オレの考えも聞いてもらおうと思っていたのだが、狭間は「ペン借りるね」とボールペンに手を伸ばし、ほぼ迷う事なくリストアップした文字に矢印(→)と平仮名を書き込んだ。
「多分、こんな感じだと思う。それから、こっちは参考までに……」
狭間はそう言うと更にボールペンを走らせ、平仮名の横に更に矢印を付け加え、不思議な形を書き込んでいく。
「僕の祖母が書くカタカナ。漢字に取り掛かる前にカタカナを探してみるのも分かりやすいかもしれない。カタカナで書かれた文字は基本的に何かの名前だと思うから」
事情をどこまで知っているのか、的確にアドバイスまでくれる。ペンを置いた狭間から手渡されたリストを見ると、いくつかはオレの予想も的中していた。
「間違ってたらごめんね」
申し訳なさそうな声に首を左右に振って返す。
「すげぇ助かる。オレ一人でやってたら、一週間以上はかかってた。ありがとう」
素直に感謝すると、狭間は何かを迷うような表情を一瞬見せた後、真っ直ぐこちらを見つめてきた。
「分からない所があったら相談してね」
そして何も聞かずにそんな言葉をくれる。いっそ全部話してしまおうかと思ってしまうほど、頼もしくてありがたかった。
先輩が補習を受けているのか確認したかったが、昨夜見た守峰を何度も無視するのは難しいだろう。物理的には出来ても、クソが付くほど真面目な奴なので、そう何度もサボるような真似はしないと思いたい。寮長とトラブルになっている訳ではないと先輩の心配を拭ってやりたいが、オレではなく逆に寮長の信頼度を考えれば、それほど問題ないと分かるはずだ。
日頃の行いを悔いる時間はない。昼休みと放課後に旧館へ走り、使用許可を貰った寮長の部屋で手帳の写しと格闘し、平仮名らしき文字を全てリストアップする事が出来た。手帳の内容を丸写ししたのではなく、文字のみをリスト化した物を自室に持ち帰り、毎日遅くまで様々な仕事をこなして帰宅する狭間を待つ。見よう見まねで布団を引っ張り出し、黙々と寝る準備を整えていると「ただいまー」と少し疲れの滲む声がした。
「扉の建て付け、やっぱり良くないね。またどこか使ってない部屋の扉と交換しようかな」
昨夜、教師によってぶち破られた扉は、狭間が応急処置を施してくれたが、開閉する度に扉ごと外れてしまう。元から鍵はないので、廊下から入ってくる冷気を少しでも遮断する為の板としての役割さえ果たせばいいような気もするが……まあ普通に不便だ。
「オレも手伝うから、やる時は声かけてくれ」
狭間は「ありがとう」と返事しながら、オレが引っ張り出した布団をナチュラルに整え出した。すると万年床にしか見えなかった布団が、真新しい寝床に生まれ変わった。邪魔になって部屋の隅に転がしたうたた寝する皆元も、慣れた調子で転がし布団にインする完璧さ。一応いつものように準備しようと頑張ったのだが、自分が不器用すぎるのか狭間が器用すぎるのか、多分どっちもだろうなと思うと少し切なくなった。
「狭間、頼みがあるんだけど今いいか?」
狭間の仕事を一つ減らし、その代わりに頼もうとしていたのだが、見事不発に終わったので潔くお願いする事にした。もちろん、そんな交換条件を出さなくても嫌な顔一つしないだろうが、少しだけ後ろめたい気持ちが湧く。狭間はオレの正面に正座しながら「うん、いいよ」と快諾してくれる。
「これの読み方を一緒に考えて欲しいんだ」
必死でノートに書き写した平仮名候補リスト、それを手渡す。いくつかはコレだ! と自信のある文字もあったのだが、あえてオレの出した答えは書き込んでいない。狭間の考察を聞いてから、オレの考えも聞いてもらおうと思っていたのだが、狭間は「ペン借りるね」とボールペンに手を伸ばし、ほぼ迷う事なくリストアップした文字に矢印(→)と平仮名を書き込んだ。
「多分、こんな感じだと思う。それから、こっちは参考までに……」
狭間はそう言うと更にボールペンを走らせ、平仮名の横に更に矢印を付け加え、不思議な形を書き込んでいく。
「僕の祖母が書くカタカナ。漢字に取り掛かる前にカタカナを探してみるのも分かりやすいかもしれない。カタカナで書かれた文字は基本的に何かの名前だと思うから」
事情をどこまで知っているのか、的確にアドバイスまでくれる。ペンを置いた狭間から手渡されたリストを見ると、いくつかはオレの予想も的中していた。
「間違ってたらごめんね」
申し訳なさそうな声に首を左右に振って返す。
「すげぇ助かる。オレ一人でやってたら、一週間以上はかかってた。ありがとう」
素直に感謝すると、狭間は何かを迷うような表情を一瞬見せた後、真っ直ぐこちらを見つめてきた。
「分からない所があったら相談してね」
そして何も聞かずにそんな言葉をくれる。いっそ全部話してしまおうかと思ってしまうほど、頼もしくてありがたかった。
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