圏ガク!!

はなッぱち

文字の大きさ
上 下
367 / 386
蜜月

ネオおせち爆誕

しおりを挟む
 料理の心得を持たない三人が、寄って集って詰めたおせちが、見本の写真通りに完成するはずもなく、前衛的なネオおせちが出来上がってしまった。

 他の二人と比べれば自信を持ってマシだと言えるが、オレの不器用さもなかなかに酷かったのだ。

「うむ、やはりお前たちに手を貸してもらったのは正解だったな。これなら、先生もさぞお喜びになるだろう」

「いや、セイシュンのおかげです。こんな立派な弁当は初めて見た」

 こいつらの感覚はどうなっているんだと思わざるを得ない。屈託のない顔どころか、誇らしげにぐちゃっとなっている重箱を見つめながら、こんな事を言えるのは何故だ。それとも、絶望感や疲労感しか覚えないオレがおかしいのか。

「さっそく先生の元へ運んでくれないか。私は先生お手製の雑煮を準備するのでな」

「せっかくのおせちを落としたら大変なので、一緒に運んで下さい」

 女神が新たな被害を生み出そうとするので阻止する。霧夜氏も悲惨なおせちの状況を目の当たりにすれば、今後教え子を厨房に入れるという愚行は見逃さないだろう。

 ちょうど三段あった重箱を一つずつ手に持ち、オレらは食堂へと向かった。

「お待たせしました。見て下さい、先生。見事な物でしょう」

 両手で大事そうに重箱を抱えたオレらの先頭で、女神は厨房の扉を華麗に足で開けた。稲継先輩は知っているのだろうか……この女、なかなかに行儀が悪い。

「明けましておめでとうございます。二人とも、ご苦労様でしたね」

 女神に続き食堂へ入ると、珍しく本を手に持っていない状態の霧夜氏が出迎えてくれた。どうやら、おせちと格闘する厨房の音が漏れ聞こえていたらしい。霧夜氏の初笑いを無意識に奪ってしまっていた。

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 机におせちを並べた後、先輩と一緒に霧夜氏に挨拶をする。すると、女神が再び厨房へと戻ろうとしやがった。

「では、私は雑煮を準備してきます」

「はい。ケガだけはしないよう、気を付けて下さい」

 このおせちを見て雑煮を任せられる霧夜氏の胆力がえげつない。食べる奴が気にしないなら問題ないかと一瞬考えてしまったが、女神が足で蹴破ったのかと思うような勢いで元来た扉を開けやがったので、見ていられずオレも軽く会釈だけして厨房へと戻る決心をした。

「金城君はもうすぐ卒業ですね」

 先輩もオレに付いて来ようとしたが、霧夜氏が声をかけたので、大人しくその場で「はい」と返事する声が聞こえた。

 何を話すのかなと、少し気になったが「何故だ! 火がつかない!」と大女が騒ぎ出したので、後ろ髪を引かれながらも厨房に走った。

 開けっ放しの扉から入ると、そこは既にガスの異臭が漂っており、その中でコンロを着火させようとしている馬鹿を発見。もう敬語とか使う意味が分からず「止めろ!」と叫びながら、女神を取り押さえた。

 ガスに引火したらどうするんだという、オレの真っ当な説教に大袈裟なと文句言いたげな女神。山火事になるぞと脅しながら雑煮の準備を手伝う。

「手伝うだけというのも味気ないだろう」

 オレらは挨拶も済んだので、校舎へ帰ろうと思っていたのだが、一緒に食べていけと問答無用でオレらの分も用意させられた。

 霧夜氏のお手製らしい雑煮は、ジャンクフードに慣れたオレの舌には優しすぎる味で、腹は膨れても物足りなさを感じてしまった。目の前に嫌がらせのように鎮座するネオおせちも勧められたが、教師陣の食料を生徒が食い荒らす訳にはいかないので(先輩が)丁重に断った。

 そして雑煮の礼を言い、部屋へ戻ろうとしたのだが、何故か女神が玄関先まで見送りに出て来た。

「帰る前に……台所を軽く片付けておいてくれないか? ゴミをまとめておいてくれるだけでいい。捨てるのは私が責任を持ってやっておくから」

 霧夜氏の目がない所で、しっかり生徒をこき使おうとする女神。稲っちなら大喜びでやるんだろうが、まともな感覚を持っているオレとしては、あの悲惨な現場の当事者であるお前も一緒に片付けろと言いたくなる。

「余分に入っていた料理はどうしたらいいですか?」

「そうだな……先生方の箱には十分な量を詰め込んだから、残っている分は君らの好きにするといい」

 まるで自分が用意した物のように誇らしげな顔で女神は言いやがった。

 そんな訳で、ネオおせちが爆誕した現場の残骸を片付ける役目を引き受ける事になった。そんな気はしてたんだよ。あの女神、圏ガクの空気によく馴染んでたからな。

「どうしたんだ?」

 厨房の惨状を目の当たりにして、思わず盛大に溜め息を吐いていると、ゴミ箱を抱えた先輩が声をかけてくる。

「家畜に休日なんて上等なものはないんだなって実感してた」

 正月早々、掃除するとは本気で思わなかった。午前中は丸ごと厨房の掃除で潰れそうだ。

「……ん、そうだ。一度帰って戻って来るのも面倒だ。他の先生たちが揃うまで待つか」

 先輩はそう言うと、ゴミ箱を少し離れた位置に置き、蛇口で手を洗った。「実は箱詰めしてる時から気になってたんだ」と嬉しそうな顔で、海老の皮を剥き始める。

「セイシュン、口開けろ」

 言われるまま阿呆みたいに口を開けると、大ぶりの海老が飛び込んで来た。遠慮無く咀嚼してやると、プリプリとした食感が実に生意気で、目の前の光景がそう悲惨なものではないと知る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

怖いお兄さん達に誘拐されたお話

安達
BL
普通に暮らしていた高校生の誠也(せいや)が突如怖いヤグザ達に誘拐されて監禁された後体を好き放題されるお話。親にも愛されず愛を知らずに育った誠也。だがそんな誠也にも夢があった。だから監禁されても何度も逃げようと試みる。そんな中で起こりゆく恋や愛の物語…。ハッピーエンドになる予定です。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

純粋な男子高校生はヤクザの組長に無理矢理恋人にされてから淫乱に変貌する

麟里(すずひ改め)
BL
《あらすじ》 ヤクザの喧嘩を運悪く目撃し目を付けられてしまった普通の高校生、葉村奏はそのまま連行されてしまう。 そこで待っていたのは組長の斧虎寿人。 奏が見た喧嘩は 、彼の恋人(男)が敵対する組の情報屋だったことが分かり本人を痛めつけてやっていたとの話だった。 恋人を失って心が傷付いていた寿人は奏を試してみるなどと言い出す。 女も未体験の奏は、寿人に抱かれて初めて自分の恋愛対象が男だと自覚する。 とはいっても、初めての相手はヤクザ。 あまり関わりたくないのだが、体の相性がとても良く、嫌だとも思わない…… 微妙な関係の中で奏は寿人との繋がりを保ち続ける。 ヤクザ×高校生の、歳の差BL 。 エロ多め。

ワンコとわんわん

葉津緒
BL
あのう……俺が雑種のノラ犬って、何なんスか。 ちょっ、とりあえず書記さまは落ち着いてくださいぃぃ! 美形ワンコ書記×平凡わんわん ほのぼの全寮制学園物語、多分BL。

親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!

BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥ 『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。 人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。 そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥ 権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥ 彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。 ――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、 『耳鳴りすれば来た道引き返せ』

エロ垢バレた俺が幼馴染に性処理してもらってるって、マ?

じゅん
BL
「紘汰の性処理は俺がする。」 SNSの裏アカウント“エロアカ”が幼馴染の壮馬に見つかってしまった紘汰。絶交を覚悟した紘汰に、壮馬の提案は斜め上過ぎて――?【R18】 【登場人物】 □榎本紘汰 えのもと こうた 高2  茶髪童顔。小学生の頃に悪戯されて男に興味がわいた。 ■應本壮馬 おうもと そうま 高2  紘汰の幼馴染。黒髪。紘汰のことが好き。 □赤間悠翔 あかま ゆうと 高2  紘汰のクラスメイト。赤髪。同年代に対してコミュ障(紘汰は除く) ■内匠楓馬 たくみ ふうま 高1  紘汰の後輩。黒髪。 ※2024年9月より大幅に加筆修正して、最初から投稿し直しています。 ※ストーリーはエロ多めと、多少のギャグで進んでいきます。重めな描写はあまり無い予定で、基本的に主人公たちはハッピーエンドを目指します。 ※作者未経験のため、お手柔らかに読んでいただけると幸いです。 ※その他お知らせは「近況ボード」に掲載していく予定です。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

処理中です...