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蜜月
キャンプらしさは大事
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「部屋、だいぶ暖まってきたな」
そう言うと、先輩が上着を脱ごうとしたので、オレは待ったをかける。
「暖かいのはいいけど、暖かすぎるのはキャンプっぽくない」
オレの主張に先輩は『えぇ~』という困った顔をした。「少しの間ストーブ消すか」と言い出したので、これまた待ったをかける。
「焚き火ないとキャンプっぽくないじゃん。ストーブは消したら駄目だって」
「じゃあどうしたらいいんだ?」
先輩が本格的に困惑し始めたので、オレは素早く行動で正解を教えてやる為、開けられる窓という窓を全開にした。
「換気も必要だって、ストーブにも注意書きしてあったし、一石二鳥だろ」
冷たい空気が入り込み、部屋の温度は一気に下がった。うむ、外っぽさが増して部屋の中って感じが減った。今だけだろうが、冷たい空気も気持ちがいい。
「どうせ換気するなら、廊下の窓も開けて風通そう」
一度、凍えるくらいの方が、ストーブの有り難みが分かっていい。そう思い教室を飛び出し、廊下の窓も全開にした。さすがに寒くて、ストーブ前にとんぼ返りしたが、ぬるくなった空気が澄んで全力でキャンプっぽくなったように思う。
「湯冷めしないか?」
心配そうに先輩が頭を撫でてくる。風呂で温もった体温はとっくに冷めているだろうが、心配には及ばない。先輩の胸に思い切り抱きついてやった。すると、先輩はコートの中にオレを入れてくれた。招かれるまま背中に手を回すと、一瞬で冷えた指先が先輩の熱を吸う。
「先輩こそ、寒くない?」
返事の代わりか、ギュッと強く抱きしめられる。ちょっとした悪戯心で、先輩の腰を撫でるように、服の中に手を入れてみた。背中を逆撫でして、指先で傷痕をなぞる。
「なぁ、セイシュン……窓、閉めていいか?」
「開けたばっかじゃん……なんで?」
同じ気持ちなので、理由なんて聞かなくても分かるのだが、もったいぶって聞いてやる。
外は暗くなったとは言え、ちょっと時間的には早い気もしたが、こっちも一瞬でスイッチが入ってしまった。
「新年早々、お前が体調崩したら大変だろ」
そう言って先輩が遠慮のない手付きで、オレのケツを撫でだしたのだが、遠くの方、正確には冷蔵庫の扉が開く気配を感じて、オレらは慌てて正常な距離に戻った。
「うおッ! 寒っ!」
「誰だ、窓開けやがったのは!」
冷蔵庫付近の窓には手を出していないのだが、廊下を吹き抜ける風は、冷蔵庫前の空気もしっかり冷やしたらしい。矢野君と稲っちの怒声が聞こえたので、対応するべくオレは気持ちを切り替える。
邪魔された感が強くて、文句の一つも言ってやろうと廊下に顔を出すと、獲物を見つけた二匹の二年が駆け寄って来た。
「このクソ寒い中、阿呆みたいに窓開けやがったのはてめぇか、夷川ッ」
怒鳴る矢野君に気を取られていたら、もう一人に襟ぐりを掴まれてしまった。稲継先輩は容赦なくオレを廊下の窓際までズルズルと引きずる。
「ちょ、稲継先輩、待ってよ。てか、短気すぎんだろ。分かった、窓閉めるから、って人の話し聞けよ!」
開いている窓に追い詰められ、上半身を窓の外に押し出されてしまった。何度もやられているので、慣れたと言いたいが、こんな状況に慣れる奴はいない。窓枠を掴んでとりあえず謝罪を試みようとしたが、その前に先輩が教室から顔を出した。
「俺が換気したいから窓を開けろって言ったんだ。稲継、セイシュンを下ろしてやってくれ」
先輩の声を聞くや、窓の外に出ていた体が物凄い早さで引き戻される。そして襟ぐりを掴んでいた手も秒で離され、大真面目な顔の稲っちに襟を正された。
「多少寒いが、部屋の空気を入れ換えたいと思ってな。もうすぐ閉めると思うから、少しだけ見逃してくれないか?」
上級生にしおらしく頼み事をされた二人は血相を変え「金城先輩がお望みなら、窓の一つや二つ自分たちに任せて下さい」そう言うと、全力で廊下の窓を全開にし始めた。
一箇所だけでなく、廊下全ての窓が開くと、気温が完全に外と変わらなくなる。急に冷えたせいでくしゃみが出てしまう。それを見て、先輩は忠誠心の塊みたいな後輩に再度声をかけた。
「寒いから五分以内に全部閉めてくれ」
開けると言ったり閉めろと言ったり、なかなかに圏ガクの上級生らしい物言いだ。先輩は大声で呼びかけた訳じゃあないが、律儀に「はい!」と返事する二人がいじらしい。
「ん、じゃあ俺らは晩飯の準備でもするか」
キャンプ場に戻ると、先輩は窓を閉めてお湯の準備を始めだした。少しの間だったが、寒さが身に染みてストーブが恋しくなる。
本日の晩飯、インスタントの蕎麦を二つ抱え、元の位置に椅子へと戻った。稲っちたちのおかげで、さっきまであったエロい雰囲気はキレイさっぱり入れ換えられてしまったが……まあ、いいだろう。せっかくのキャンプ、裸で過ごすのも情緒が無い。
とは言え、ストーブで湯を沸かすのは時間がかかりそうだったので、いつもの湯沸かし器を持って来て情緒なく蕎麦を作った。餅を焼くのは楽しいが、湯が沸くのを眺めて待つのは、つまらなかったのだ。
そう言うと、先輩が上着を脱ごうとしたので、オレは待ったをかける。
「暖かいのはいいけど、暖かすぎるのはキャンプっぽくない」
オレの主張に先輩は『えぇ~』という困った顔をした。「少しの間ストーブ消すか」と言い出したので、これまた待ったをかける。
「焚き火ないとキャンプっぽくないじゃん。ストーブは消したら駄目だって」
「じゃあどうしたらいいんだ?」
先輩が本格的に困惑し始めたので、オレは素早く行動で正解を教えてやる為、開けられる窓という窓を全開にした。
「換気も必要だって、ストーブにも注意書きしてあったし、一石二鳥だろ」
冷たい空気が入り込み、部屋の温度は一気に下がった。うむ、外っぽさが増して部屋の中って感じが減った。今だけだろうが、冷たい空気も気持ちがいい。
「どうせ換気するなら、廊下の窓も開けて風通そう」
一度、凍えるくらいの方が、ストーブの有り難みが分かっていい。そう思い教室を飛び出し、廊下の窓も全開にした。さすがに寒くて、ストーブ前にとんぼ返りしたが、ぬるくなった空気が澄んで全力でキャンプっぽくなったように思う。
「湯冷めしないか?」
心配そうに先輩が頭を撫でてくる。風呂で温もった体温はとっくに冷めているだろうが、心配には及ばない。先輩の胸に思い切り抱きついてやった。すると、先輩はコートの中にオレを入れてくれた。招かれるまま背中に手を回すと、一瞬で冷えた指先が先輩の熱を吸う。
「先輩こそ、寒くない?」
返事の代わりか、ギュッと強く抱きしめられる。ちょっとした悪戯心で、先輩の腰を撫でるように、服の中に手を入れてみた。背中を逆撫でして、指先で傷痕をなぞる。
「なぁ、セイシュン……窓、閉めていいか?」
「開けたばっかじゃん……なんで?」
同じ気持ちなので、理由なんて聞かなくても分かるのだが、もったいぶって聞いてやる。
外は暗くなったとは言え、ちょっと時間的には早い気もしたが、こっちも一瞬でスイッチが入ってしまった。
「新年早々、お前が体調崩したら大変だろ」
そう言って先輩が遠慮のない手付きで、オレのケツを撫でだしたのだが、遠くの方、正確には冷蔵庫の扉が開く気配を感じて、オレらは慌てて正常な距離に戻った。
「うおッ! 寒っ!」
「誰だ、窓開けやがったのは!」
冷蔵庫付近の窓には手を出していないのだが、廊下を吹き抜ける風は、冷蔵庫前の空気もしっかり冷やしたらしい。矢野君と稲っちの怒声が聞こえたので、対応するべくオレは気持ちを切り替える。
邪魔された感が強くて、文句の一つも言ってやろうと廊下に顔を出すと、獲物を見つけた二匹の二年が駆け寄って来た。
「このクソ寒い中、阿呆みたいに窓開けやがったのはてめぇか、夷川ッ」
怒鳴る矢野君に気を取られていたら、もう一人に襟ぐりを掴まれてしまった。稲継先輩は容赦なくオレを廊下の窓際までズルズルと引きずる。
「ちょ、稲継先輩、待ってよ。てか、短気すぎんだろ。分かった、窓閉めるから、って人の話し聞けよ!」
開いている窓に追い詰められ、上半身を窓の外に押し出されてしまった。何度もやられているので、慣れたと言いたいが、こんな状況に慣れる奴はいない。窓枠を掴んでとりあえず謝罪を試みようとしたが、その前に先輩が教室から顔を出した。
「俺が換気したいから窓を開けろって言ったんだ。稲継、セイシュンを下ろしてやってくれ」
先輩の声を聞くや、窓の外に出ていた体が物凄い早さで引き戻される。そして襟ぐりを掴んでいた手も秒で離され、大真面目な顔の稲っちに襟を正された。
「多少寒いが、部屋の空気を入れ換えたいと思ってな。もうすぐ閉めると思うから、少しだけ見逃してくれないか?」
上級生にしおらしく頼み事をされた二人は血相を変え「金城先輩がお望みなら、窓の一つや二つ自分たちに任せて下さい」そう言うと、全力で廊下の窓を全開にし始めた。
一箇所だけでなく、廊下全ての窓が開くと、気温が完全に外と変わらなくなる。急に冷えたせいでくしゃみが出てしまう。それを見て、先輩は忠誠心の塊みたいな後輩に再度声をかけた。
「寒いから五分以内に全部閉めてくれ」
開けると言ったり閉めろと言ったり、なかなかに圏ガクの上級生らしい物言いだ。先輩は大声で呼びかけた訳じゃあないが、律儀に「はい!」と返事する二人がいじらしい。
「ん、じゃあ俺らは晩飯の準備でもするか」
キャンプ場に戻ると、先輩は窓を閉めてお湯の準備を始めだした。少しの間だったが、寒さが身に染みてストーブが恋しくなる。
本日の晩飯、インスタントの蕎麦を二つ抱え、元の位置に椅子へと戻った。稲っちたちのおかげで、さっきまであったエロい雰囲気はキレイさっぱり入れ換えられてしまったが……まあ、いいだろう。せっかくのキャンプ、裸で過ごすのも情緒が無い。
とは言え、ストーブで湯を沸かすのは時間がかかりそうだったので、いつもの湯沸かし器を持って来て情緒なく蕎麦を作った。餅を焼くのは楽しいが、湯が沸くのを眺めて待つのは、つまらなかったのだ。
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