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蜜月
予期せぬ助け?
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レジが混んでいるのか、必要量を購入する為に何往復かしているのか、『先生』が戻って来る気配はない。小吉さんが可哀想なくらいオロオロしているので、颯爽と担任には戻って来てもらいたいのだが、オッサンの言う通りに、事務所とやらに行くしかなさそうだった。
「放送か何かで先生を呼んで貰えるんですか?」
「いや、学校に直接電話をするつもりだよ。君たちが本当に先生と来ているのか、おじさんには分からないからね」
実際、オッサンにしか見えない奴も多い学校だからな。妥当な判断かもしれないな。まあ、オレらとしては面倒この上ないのだが。
「あ、ああ、あぁの! こういうの、お酒とか、買うのは、せせせ、せんせいが、先生が戻ってからにするので、い、今は、これ、元の場所に返すので! だ、だだだ、駄目ですか!」
小吉さんが涙ぐみながら訴える。その声が大きかったせいか、新たな店員を呼び寄せてしまった。
「店長、万引きっすか?」
最後の方の訴えだけを聞けば、確かに万引きが見つかり必死で謝っているようにも取れる。オッサンを店長と呼ぶ店員は、無遠慮にオレと小吉さんの腕を掴もうとした。
「万引きなんかしてねぇよ。こんな派手にやる馬鹿どこにいるんだよ」
オレが手を払いのけると、抵抗されたと思われたのだろう、素直に掴まれていた小吉さんを突き放し、店員はこちらを睨み付けてきた。
「山口君、暴力は駄目だよ。事務所に連れて行くだけでいいからね」
オッサンは引き攣った笑いを貼り付けた顔で、早く行けと店員に指示を出した。今にも殴りかかって来そうな血の気の多い店員は「手間かけさすな」とまた懲りずに腕を伸ばしてくる。
別に逃げも隠れもするつもりはない。一応、素直に事務所とやらへ行くつもりだったが、接客態度の悪い店員とお手々繋いで歩くのは御免被る。
そんな胸中が顔に出てしまったのだろう。店員の顔色が変わるのが分かった。
「すいませんッ! お、おぉぉ、おれが悪いんです!! あいてぇっうぅぅすいませんッ!」
掴む為とは思えない勢いで伸びてきた腕とオレの間に、床に転がっていたはずの小吉さんが飛び込んだ。オレを庇おうとしたのか、店員に向かって抱きつくような形に対峙したせいで、奴の肘が小吉さんの顔面に当たってしまった。
「小吉さん、大丈夫?」
店員の足に縋りつくように蹲った小吉さんに駆け寄ると、オレの声に反応したのかサッと立ち上がって「大丈夫!」といい返事をしてくれるのだが、赤く腫れた鼻からツーッと一筋の血が垂れていた。
「いや、大丈夫じゃあねぇから。血出てる。鼻血」
指摘すると、グイッと豪快に鼻の下を拭う小吉さん。鼻血は止まっているらしく、それ以上の血は出てこないみたいだが、鼻の下から頬にかけて、見事に血を塗りつけており、悲惨な形相になってしまった。
当然ながら、騒ぎは大きくなり、買い物の手を止めてまで、こちらを窺っている客が何人もいた。
「あら? あなたたち、もしかして」
野次馬の間を縫って、一人の女の人が無防備に近づいて来る。そして、小吉さんの顔を見るなり、さっと自分のカバンから小綺麗なハンカチを取り出し、躊躇なく血に染まった鼻をそっと押さえた。
「血は止まっているようだけど、念の為、少しだけ見ますね。歩けますか?」
小吉さんは素直に「歩けます!」と元気よく返事をして、女の人に付いて行ってしまった。
置いて行かれてしまったオレは、ぼんやりと二人が去って行った方を向きながら「あっ」と声を上げる。
「響総合病院の、じいちゃんの孫の、なんだっけ名前、忘れたけど、あの人だ」
このクソみたいな田舎では浮きまくっている、雑誌のモデルとか、そんな感じの美人だ。オレだけでなく、戸惑う店員二人も、彼女に声をかけられず静かに見送ってしまったようだ。
「セイシュン? 小吉はどうした?」
店員らと妙な沈黙を共有していると、ようやく戻って来た先輩の声が、オレを現実へと引き戻してくれる。
「女に拉致された」
先輩の疑問に簡潔に答えると、既に疲労が目に見えて分かる担任は、周囲の野次馬が一斉に散るようなどすの利いた声で「ふざけてんのか」とオレを責めた。
「ふざけてませんよ。響先生の娘さんが、鼻血出した小吉さんを連れてったんですって。あっちの方に」
答えを補足してやると、担任はやくざから急にただのオッサンになった。オレが指さした方へ溜め息交じりに方向転換した。
「金城、夷川を見てろ。すぐ戻る」
こうも何度も念を押されると、オレが何をすると思っているのか、真剣に問い質したくなる。それが顔に出たのか、先輩の手がオレの頭を盛大に揺すった。担任の背中に跳び蹴りでもかますと思ったのだろうか……甚だ不本意だ。
「放送か何かで先生を呼んで貰えるんですか?」
「いや、学校に直接電話をするつもりだよ。君たちが本当に先生と来ているのか、おじさんには分からないからね」
実際、オッサンにしか見えない奴も多い学校だからな。妥当な判断かもしれないな。まあ、オレらとしては面倒この上ないのだが。
「あ、ああ、あぁの! こういうの、お酒とか、買うのは、せせせ、せんせいが、先生が戻ってからにするので、い、今は、これ、元の場所に返すので! だ、だだだ、駄目ですか!」
小吉さんが涙ぐみながら訴える。その声が大きかったせいか、新たな店員を呼び寄せてしまった。
「店長、万引きっすか?」
最後の方の訴えだけを聞けば、確かに万引きが見つかり必死で謝っているようにも取れる。オッサンを店長と呼ぶ店員は、無遠慮にオレと小吉さんの腕を掴もうとした。
「万引きなんかしてねぇよ。こんな派手にやる馬鹿どこにいるんだよ」
オレが手を払いのけると、抵抗されたと思われたのだろう、素直に掴まれていた小吉さんを突き放し、店員はこちらを睨み付けてきた。
「山口君、暴力は駄目だよ。事務所に連れて行くだけでいいからね」
オッサンは引き攣った笑いを貼り付けた顔で、早く行けと店員に指示を出した。今にも殴りかかって来そうな血の気の多い店員は「手間かけさすな」とまた懲りずに腕を伸ばしてくる。
別に逃げも隠れもするつもりはない。一応、素直に事務所とやらへ行くつもりだったが、接客態度の悪い店員とお手々繋いで歩くのは御免被る。
そんな胸中が顔に出てしまったのだろう。店員の顔色が変わるのが分かった。
「すいませんッ! お、おぉぉ、おれが悪いんです!! あいてぇっうぅぅすいませんッ!」
掴む為とは思えない勢いで伸びてきた腕とオレの間に、床に転がっていたはずの小吉さんが飛び込んだ。オレを庇おうとしたのか、店員に向かって抱きつくような形に対峙したせいで、奴の肘が小吉さんの顔面に当たってしまった。
「小吉さん、大丈夫?」
店員の足に縋りつくように蹲った小吉さんに駆け寄ると、オレの声に反応したのかサッと立ち上がって「大丈夫!」といい返事をしてくれるのだが、赤く腫れた鼻からツーッと一筋の血が垂れていた。
「いや、大丈夫じゃあねぇから。血出てる。鼻血」
指摘すると、グイッと豪快に鼻の下を拭う小吉さん。鼻血は止まっているらしく、それ以上の血は出てこないみたいだが、鼻の下から頬にかけて、見事に血を塗りつけており、悲惨な形相になってしまった。
当然ながら、騒ぎは大きくなり、買い物の手を止めてまで、こちらを窺っている客が何人もいた。
「あら? あなたたち、もしかして」
野次馬の間を縫って、一人の女の人が無防備に近づいて来る。そして、小吉さんの顔を見るなり、さっと自分のカバンから小綺麗なハンカチを取り出し、躊躇なく血に染まった鼻をそっと押さえた。
「血は止まっているようだけど、念の為、少しだけ見ますね。歩けますか?」
小吉さんは素直に「歩けます!」と元気よく返事をして、女の人に付いて行ってしまった。
置いて行かれてしまったオレは、ぼんやりと二人が去って行った方を向きながら「あっ」と声を上げる。
「響総合病院の、じいちゃんの孫の、なんだっけ名前、忘れたけど、あの人だ」
このクソみたいな田舎では浮きまくっている、雑誌のモデルとか、そんな感じの美人だ。オレだけでなく、戸惑う店員二人も、彼女に声をかけられず静かに見送ってしまったようだ。
「セイシュン? 小吉はどうした?」
店員らと妙な沈黙を共有していると、ようやく戻って来た先輩の声が、オレを現実へと引き戻してくれる。
「女に拉致された」
先輩の疑問に簡潔に答えると、既に疲労が目に見えて分かる担任は、周囲の野次馬が一斉に散るようなどすの利いた声で「ふざけてんのか」とオレを責めた。
「ふざけてませんよ。響先生の娘さんが、鼻血出した小吉さんを連れてったんですって。あっちの方に」
答えを補足してやると、担任はやくざから急にただのオッサンになった。オレが指さした方へ溜め息交じりに方向転換した。
「金城、夷川を見てろ。すぐ戻る」
こうも何度も念を押されると、オレが何をすると思っているのか、真剣に問い質したくなる。それが顔に出たのか、先輩の手がオレの頭を盛大に揺すった。担任の背中に跳び蹴りでもかますと思ったのだろうか……甚だ不本意だ。
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