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蜜月
冬の労働事情
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夏休みとほぼ変わらない残留連中と、一緒にお勉強させられる時間がメインになるなんて予想外だ。無事に卒業が確定した先輩と一日中、例えタダ働きの雑用だろうと共同作業が出来ると思って楽しみにしていたのに……現実の無慈悲さを前にコタツの中へ逃避しようとした時、廊下から賑やかな足音が聞こえてきた。
「お邪魔します! 金城先輩、夷川! ちょっといいか! いいですか!」
ノックもなしに、物凄い勢いで扉が開かれる。オレは慌ててコタツの中で絡まっていた部分をほどき、何食わぬ顔で礼儀のなっていない珍客を出迎える。
「ここにもコタツがあるのかぁ~いいですね!」
当然のようにオレの隣に座る小吉さん。先輩は顔色一つ変えず、小吉さんを受け入れ、みかんなんぞを手渡していたりする。オレはと言うと、さっきまで先輩と絡んでいた手や足が気になり、ちょっと挙動不審になっていた。これは心臓に悪い。今後は部屋に戻ったら一番に鍵を閉めよう。
「どうしたの、小吉さん……あ、まさか」
先輩に勧められたみかんを嬉しそうに頬張りだした小吉さんは、部屋へ来て数秒で場に溶け込んだ。
「先輩の備蓄を奪って来いとか山センが言い出したんじゃあねぇだろうな!」
あまりに自然な小吉さんを見ていると、不吉な予感が山センのにやけ面と一緒に浮かび、ちょっと声を荒げてしまう。
小吉さんは驚いたのか、みかんをボトリと手から落として、条件反射のような涙が目から湧きだしドバッと溢れる。
「こら、セイシュン。先輩を泣かせるな。あと小吉も。ほら、もう一個みかんやるから泣くな」
山センの日頃の行いが悪いせいで、オレが怒られる羽目に……納得いかないが、小吉さんは悪くない。
「ごめん……あー、そうだ! みかんの皮、オレが剥いてやるよ。だから、こっち先に食べてろよ小吉さん」
新しいみかんを素早く奪い、落としたみかんを手渡す。山センのせいとは言え、恐がらせたお詫びに、最上級のみかんを食わせてやろうと、オレは白い所を丁寧に取り除く作業を開始する。
「ん、それでどうかしたのか、小吉?」
みかんに夢中になり出した後輩へ先輩が優しく声をかけた。落ちたみかんを丸ごと口に入れた小吉さんは、オレらの視線を一身に受け、何故か小さく何度も頷きながら両手で大袈裟に『待ってくれ』のポーズを見せる。
まさか本当に食料を調達に来たのか? もし、そうならオレが直々に届けてやる……食堂で配られる圏ガクの非常食であるクソ不味い缶詰をな!
そう思ったのだが、小吉さんは丸ごとのみかんを腹におさめた後、オレらの冬休みを充実させるような朗報を口にした。
「夷川に仕事の『おふぁー』を持って来ました」
「仕事って奉仕作業の事か?」
先輩が聞き返すと、小吉さんは元気の良い「はい!」で答える。
「夷川は夏休みにすごく頑張ってたから、冬休みも是非お手伝いして欲しいって、村主さんが言ってくれてるんだぞ」
誇らしげな顔を向けられ「いや、単なるタダ働きのご指名じゃん」と出そうになった皮肉を飲み込む。
「夏休みと同じくらい仕事はあるらしいんだけど、年末年始は忙しいらしくて、圏ガク全員を監督する余裕がないみたいなんだ。だから、ゆう、優秀な生徒を選んだって言ってたぞ」
嬉しそうな顔を見せる小吉さんに、水を差すような発言ばかりしてしまいそうで、相槌も先輩任せでみかんに集中する。
「あ、でも、宿題とか勉強も大事だから、都合がつく時だけでも大丈夫だからな。強制じゃなくて、あくまで『おふぁー』だからな」
「休み中の課題なら大丈夫だ。この時間にやればいい。な、セイシュン」
先輩も嬉しそうな顔を見せる。そうだなと相槌を打ちつつも、オレは納得いかない部分を突く。
「夏と同じくらい仕事あるなら、他の奴らにも働かせるべきだろ? 監視が必要なら先生たちがやればいいじゃん」
別に奉仕作業に文句はないが、他の奴らがのうのうと、自習という名の自由時間を満喫していると思えば腹は立つ。夏休みの草刈りでは教師が監督(というか監視)していたし、冬も同じ方法でやればいい。働かざる者食うべからず、だ。
オレの真っ当な意見に小吉さんは表情を曇らせる。
「それが……谷垣先生が話してるのちょっと聞いただけなんだけどな、夏休みと同じ先生たちが残るはずだったんだけど、その、急に野村先生が残留せずに帰ったらしいんだ」
仕事放棄して下山したのか、無責任な奴だな。つい本音が出てしまったが、小吉さんは真面目な顔で「それは違うぞ」と言った。
「休み中に残ってくれてる先生は、誰かが残らなきゃいけないのを買って出てくれてるんだ。絶対にしなきゃいけない訳じゃないんだぞ」
まあ普通に考えて、長期休暇も学校……つか山奥で生活しなきゃいけないのは、貧乏くじ以外の何物でもない。
「…………」
だからと言って、残る予定を急に変更するのは迷惑だろうと、野村の無責任ぶりを罵るつもりだったオレは、なんとなく浮かんだ考えに思わず沈黙する。
「お邪魔します! 金城先輩、夷川! ちょっといいか! いいですか!」
ノックもなしに、物凄い勢いで扉が開かれる。オレは慌ててコタツの中で絡まっていた部分をほどき、何食わぬ顔で礼儀のなっていない珍客を出迎える。
「ここにもコタツがあるのかぁ~いいですね!」
当然のようにオレの隣に座る小吉さん。先輩は顔色一つ変えず、小吉さんを受け入れ、みかんなんぞを手渡していたりする。オレはと言うと、さっきまで先輩と絡んでいた手や足が気になり、ちょっと挙動不審になっていた。これは心臓に悪い。今後は部屋に戻ったら一番に鍵を閉めよう。
「どうしたの、小吉さん……あ、まさか」
先輩に勧められたみかんを嬉しそうに頬張りだした小吉さんは、部屋へ来て数秒で場に溶け込んだ。
「先輩の備蓄を奪って来いとか山センが言い出したんじゃあねぇだろうな!」
あまりに自然な小吉さんを見ていると、不吉な予感が山センのにやけ面と一緒に浮かび、ちょっと声を荒げてしまう。
小吉さんは驚いたのか、みかんをボトリと手から落として、条件反射のような涙が目から湧きだしドバッと溢れる。
「こら、セイシュン。先輩を泣かせるな。あと小吉も。ほら、もう一個みかんやるから泣くな」
山センの日頃の行いが悪いせいで、オレが怒られる羽目に……納得いかないが、小吉さんは悪くない。
「ごめん……あー、そうだ! みかんの皮、オレが剥いてやるよ。だから、こっち先に食べてろよ小吉さん」
新しいみかんを素早く奪い、落としたみかんを手渡す。山センのせいとは言え、恐がらせたお詫びに、最上級のみかんを食わせてやろうと、オレは白い所を丁寧に取り除く作業を開始する。
「ん、それでどうかしたのか、小吉?」
みかんに夢中になり出した後輩へ先輩が優しく声をかけた。落ちたみかんを丸ごと口に入れた小吉さんは、オレらの視線を一身に受け、何故か小さく何度も頷きながら両手で大袈裟に『待ってくれ』のポーズを見せる。
まさか本当に食料を調達に来たのか? もし、そうならオレが直々に届けてやる……食堂で配られる圏ガクの非常食であるクソ不味い缶詰をな!
そう思ったのだが、小吉さんは丸ごとのみかんを腹におさめた後、オレらの冬休みを充実させるような朗報を口にした。
「夷川に仕事の『おふぁー』を持って来ました」
「仕事って奉仕作業の事か?」
先輩が聞き返すと、小吉さんは元気の良い「はい!」で答える。
「夷川は夏休みにすごく頑張ってたから、冬休みも是非お手伝いして欲しいって、村主さんが言ってくれてるんだぞ」
誇らしげな顔を向けられ「いや、単なるタダ働きのご指名じゃん」と出そうになった皮肉を飲み込む。
「夏休みと同じくらい仕事はあるらしいんだけど、年末年始は忙しいらしくて、圏ガク全員を監督する余裕がないみたいなんだ。だから、ゆう、優秀な生徒を選んだって言ってたぞ」
嬉しそうな顔を見せる小吉さんに、水を差すような発言ばかりしてしまいそうで、相槌も先輩任せでみかんに集中する。
「あ、でも、宿題とか勉強も大事だから、都合がつく時だけでも大丈夫だからな。強制じゃなくて、あくまで『おふぁー』だからな」
「休み中の課題なら大丈夫だ。この時間にやればいい。な、セイシュン」
先輩も嬉しそうな顔を見せる。そうだなと相槌を打ちつつも、オレは納得いかない部分を突く。
「夏と同じくらい仕事あるなら、他の奴らにも働かせるべきだろ? 監視が必要なら先生たちがやればいいじゃん」
別に奉仕作業に文句はないが、他の奴らがのうのうと、自習という名の自由時間を満喫していると思えば腹は立つ。夏休みの草刈りでは教師が監督(というか監視)していたし、冬も同じ方法でやればいい。働かざる者食うべからず、だ。
オレの真っ当な意見に小吉さんは表情を曇らせる。
「それが……谷垣先生が話してるのちょっと聞いただけなんだけどな、夏休みと同じ先生たちが残るはずだったんだけど、その、急に野村先生が残留せずに帰ったらしいんだ」
仕事放棄して下山したのか、無責任な奴だな。つい本音が出てしまったが、小吉さんは真面目な顔で「それは違うぞ」と言った。
「休み中に残ってくれてる先生は、誰かが残らなきゃいけないのを買って出てくれてるんだ。絶対にしなきゃいけない訳じゃないんだぞ」
まあ普通に考えて、長期休暇も学校……つか山奥で生活しなきゃいけないのは、貧乏くじ以外の何物でもない。
「…………」
だからと言って、残る予定を急に変更するのは迷惑だろうと、野村の無責任ぶりを罵るつもりだったオレは、なんとなく浮かんだ考えに思わず沈黙する。
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