圏ガク!!

はなッぱち

文字の大きさ
上 下
327 / 386
蜜月

冬休みのはじまり

しおりを挟む
 呼吸が落ち着くまで、立ち止まって先輩の姿を目で追う。

「…………」

 さっきまでは自分と比べて、その差に絶望感しかなかった。けれど、今は自然とその姿に見入っていた。

 先輩の姿を真似て走る。そんな事をしてもオレの体力のなさは埋まらないが、愚痴るのは止めて、ただ走った。

 先輩が何度か横を走り抜けていく。最初は「大丈夫か?」とか「無理するなよ」とか、心配そうに速度を落として声をかけてくれていたが、オレの走るペースが安定すると、先輩は自分のペースで走り続けた。

 走った距離を換算すると、とてつもない差が出来てしまっているだろうが、最後まで一緒に走り続けてからオレはぶっ倒れた。

 朝飯前にマラソンは出来ないと痛感。本気で立ち上がれなくなったオレは、部屋まで自力で帰れなくなり、心配そうな先輩の背中の上で全力の反省をした。

 この件で身の程を知り、今後のトレーニングはオレに合わせてメニューを組んで貰えるよう頼んだ。先輩もどこかホッとした顔で承諾してくれた。

 先輩との差を見せつけられた早朝マラソン後は、自分の中にあった妙な焦りも消え、心と体に余裕を持てるようになった。別に先輩を格闘や競技で倒す事が目的じゃあない。要は体力や気力を鍛え、セックスにかけられる時間を増やせばいいのだ。毎朝フルマラソンを敢行する必要は断じてない。

 無理せず体を動かし、徐々にでも先輩の性欲を受け止められる量を増やす。目標設定としては小さいが、毎日続ければ、いつの日か一晩に四回くらいヤレるはずなのだ。

 冬休みに入る頃には、絶頂時に絶望だけでなく、そんな希望も感じられるようになった。二回戦に挑戦する事は出来なくとも、先輩が射精するのを見届けてから睡魔に身を任せる……くらいの成長は出来たからな。

「冬休みの目標は一回で二回ヤル事だな」

 冬休み初日。身内を見送り食堂で一人冬休みの野望を胸に刻んでいると、帰り支度を済ませたじいちゃんに呼び止められた。

「清ボン、ちょっと来ぃ。ええもんやろ」

 飴でもくれるのかと思い、下山の挨拶がてら付いて行くと、じいちゃんが自室として使っている医務室の隣の部屋へと招かれる。

「毎日寒いやろ。せやから、これ貸したろな。先生に見つからんよう部屋に持って行き」

 そして、実に魅力的な餞別を置いて行ってくれた。



「おぉー、これは……」

 人気がなくなった旧館にやってきた先輩をじいちゃんの部屋に連れて行き、事情を話すとオレと同じく嬉しそうな顔をしてくれた。

 じいちゃんがオレらに残してくれたのはコタツだった。

「オレ、コタツって初めてなんだ」

 テレビのドラマか何かで見た事はあったが、実物を見るのは初めてだ。

「ん、これはありがたいな。今日は天気も良いから、布団を干して今夜から使わせてもらおう」

 部屋に持ち帰る事に先輩も快諾してくれたので、早速コタツと大量のみかんが入った段ボール(これも餞別)を抱え、いそいそと先輩の部屋へと運び込む。

 しばらく干されていなかったろう、くったりした布団を屋上のフェンスで天日干しして復活させ、狭い部屋のど真ん中へとセッティングする。布団を干している間に選別したみかんを新聞紙で作った箱に積み上げ、コタツの中央に置くと、先輩の部屋は冬休みを過ごす上で最強と呼ぶに相応しい部屋へと変貌した。

 そろりとコタツに下半身を突っ込む。外を走り回っていた足がじんわりと温まり、オレは堪らず頭からコタツに潜り込んだ。

「ヤバイ。オレここから出たくない」

 顔だけをコタツから出すと、先輩もオレの隣に腰を下ろして「おぉ、こうゆう感じか」と嬉しそうな声を上げる。先輩に合わせる為、オレも改めて座り直すと、狭いコタツの中で自然と足が当たった。先輩は足が触れる度、オレに場所を譲るよう避けるのだが、それを追いかけ爪先で先輩の足をくすぐる遊びをしていると「こっち来るか?」と先輩が困ったように笑う。

「さすがに一つの場所に二人で入るのは狭いって。コタツ浮いちゃうじゃん」

「そうだな、じゃあ手でも繋ぐか」

 暗に足癖の悪さを注意されているのだろうが、くれると言うなら遠慮なく手も貰う。もちろん、足もガッチリと絡めてやると、先輩も諦めてオレの方を向いて寝転がってくれる。外の作業で冷え切った先輩の手を握ると、ふにゃっと先輩の表情が緩む。

「冬休みは夏休みと違って、朝はそんなに早くないんだって」

 先輩と合流する前、残留連中を集めた場で、冬休みのスケジュールが発表された訳だが、早朝四時起床……なんて事はなく、割と常識的なタイムスケジュールだった。と言うか、夏休みの部活組と同じなんじゃあないか? そんな生ぬるくていいのかと思わないでもないが、コタツの魔力か、心地良い眠気が幅を効かせる附抜けた思考回路は、何の疑問もなく好待遇を受け入れていた。

「奉仕作業自体が少ないらしいな。公民館を借りて、冬休みの課題をやったりするって聞いたぞ」

「え、それって先輩も?」

 先輩の言葉で一気に目が覚める。あっさり頷かれてしまい、オレはがっくりと肩を落とした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女装男子は学校一のイケメンからの溺愛を拒めない

紀本明
BL
高校2年生の地味男子・片瀬尊(みこと)は姉の影響で女装が趣味。リンスタグラマーとして姉の服飾ブランドのモデルを担当している。クラスメイトである国宝級イケメンの中条佑太朗(ゆうたろう)と、ある出来事をきっかけに急接近。尊が好きすぎる佑太朗と平和に暮らしたい尊の攻防戦が始まる――――。(エロ要素はキスまで)途中、他キャラの視点がちょいちょい混ざります。 ※表紙イラストはミカスケさまより。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

騎士団長の溺愛計画。

どらやき
BL
「やっと、手に入れることができた。」 涙ぐんだ目で、俺を見てくる。誰も居なくて、白黒だった俺の世界に、あなたは色を、光を灯してくれた。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

をち。
BL
公爵家の3男として生まれた俺は、家族からうとまれていた。 母が俺を産んだせいで命を落としたからだそうだ。 生を受けた俺を待っていたのは、精神的な虐待。 最低限の食事や世話のみで、物置のような部屋に放置されていた。 だれでもいいから、 暖かな目で、優しい声で俺に話しかけて欲しい。 ただそれだけを願って毎日を過ごした。 そして言葉が分かるようになって、遂に自分の状況を理解してしまった。 (ぼくはかあさまをころしてうまれた。 だから、みんなぼくのことがきらい。 ぼくがあいされることはないんだ) わずかに縋っていた希望が打ち砕かれ、絶望した。 そしてそんな俺を救うため、前世の俺「須藤卓也」の記憶が蘇ったんだ。 「いやいや、サフィが悪いんじゃなくね?」 公爵や兄たちが後悔した時にはもう遅い。 俺には新たな家族ができた。俺の叔父ゲイルだ。優しくてかっこいい最高のお父様! 俺は血のつながった家族を捨て、新たな家族と幸せになる! ★注意★ ご都合主義。基本的にチート溺愛です。ざまぁは軽め。 ひたすら主人公かわいいです。苦手な方はそっ閉じを! 感想などコメント頂ければ作者モチベが上がりますw

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

処理中です...