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蜜月
冬休みのはじまり
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呼吸が落ち着くまで、立ち止まって先輩の姿を目で追う。
「…………」
さっきまでは自分と比べて、その差に絶望感しかなかった。けれど、今は自然とその姿に見入っていた。
先輩の姿を真似て走る。そんな事をしてもオレの体力のなさは埋まらないが、愚痴るのは止めて、ただ走った。
先輩が何度か横を走り抜けていく。最初は「大丈夫か?」とか「無理するなよ」とか、心配そうに速度を落として声をかけてくれていたが、オレの走るペースが安定すると、先輩は自分のペースで走り続けた。
走った距離を換算すると、とてつもない差が出来てしまっているだろうが、最後まで一緒に走り続けてからオレはぶっ倒れた。
朝飯前にマラソンは出来ないと痛感。本気で立ち上がれなくなったオレは、部屋まで自力で帰れなくなり、心配そうな先輩の背中の上で全力の反省をした。
この件で身の程を知り、今後のトレーニングはオレに合わせてメニューを組んで貰えるよう頼んだ。先輩もどこかホッとした顔で承諾してくれた。
先輩との差を見せつけられた早朝マラソン後は、自分の中にあった妙な焦りも消え、心と体に余裕を持てるようになった。別に先輩を格闘や競技で倒す事が目的じゃあない。要は体力や気力を鍛え、セックスにかけられる時間を増やせばいいのだ。毎朝フルマラソンを敢行する必要は断じてない。
無理せず体を動かし、徐々にでも先輩の性欲を受け止められる量を増やす。目標設定としては小さいが、毎日続ければ、いつの日か一晩に四回くらいヤレるはずなのだ。
冬休みに入る頃には、絶頂時に絶望だけでなく、そんな希望も感じられるようになった。二回戦に挑戦する事は出来なくとも、先輩が射精するのを見届けてから睡魔に身を任せる……くらいの成長は出来たからな。
「冬休みの目標は一回で二回ヤル事だな」
冬休み初日。身内を見送り食堂で一人冬休みの野望を胸に刻んでいると、帰り支度を済ませたじいちゃんに呼び止められた。
「清ボン、ちょっと来ぃ。ええもんやろ」
飴でもくれるのかと思い、下山の挨拶がてら付いて行くと、じいちゃんが自室として使っている医務室の隣の部屋へと招かれる。
「毎日寒いやろ。せやから、これ貸したろな。先生に見つからんよう部屋に持って行き」
そして、実に魅力的な餞別を置いて行ってくれた。
「おぉー、これは……」
人気がなくなった旧館にやってきた先輩をじいちゃんの部屋に連れて行き、事情を話すとオレと同じく嬉しそうな顔をしてくれた。
じいちゃんがオレらに残してくれたのはコタツだった。
「オレ、コタツって初めてなんだ」
テレビのドラマか何かで見た事はあったが、実物を見るのは初めてだ。
「ん、これはありがたいな。今日は天気も良いから、布団を干して今夜から使わせてもらおう」
部屋に持ち帰る事に先輩も快諾してくれたので、早速コタツと大量のみかんが入った段ボール(これも餞別)を抱え、いそいそと先輩の部屋へと運び込む。
しばらく干されていなかったろう、くったりした布団を屋上のフェンスで天日干しして復活させ、狭い部屋のど真ん中へとセッティングする。布団を干している間に選別したみかんを新聞紙で作った箱に積み上げ、コタツの中央に置くと、先輩の部屋は冬休みを過ごす上で最強と呼ぶに相応しい部屋へと変貌した。
そろりとコタツに下半身を突っ込む。外を走り回っていた足がじんわりと温まり、オレは堪らず頭からコタツに潜り込んだ。
「ヤバイ。オレここから出たくない」
顔だけをコタツから出すと、先輩もオレの隣に腰を下ろして「おぉ、こうゆう感じか」と嬉しそうな声を上げる。先輩に合わせる為、オレも改めて座り直すと、狭いコタツの中で自然と足が当たった。先輩は足が触れる度、オレに場所を譲るよう避けるのだが、それを追いかけ爪先で先輩の足をくすぐる遊びをしていると「こっち来るか?」と先輩が困ったように笑う。
「さすがに一つの場所に二人で入るのは狭いって。コタツ浮いちゃうじゃん」
「そうだな、じゃあ手でも繋ぐか」
暗に足癖の悪さを注意されているのだろうが、くれると言うなら遠慮なく手も貰う。もちろん、足もガッチリと絡めてやると、先輩も諦めてオレの方を向いて寝転がってくれる。外の作業で冷え切った先輩の手を握ると、ふにゃっと先輩の表情が緩む。
「冬休みは夏休みと違って、朝はそんなに早くないんだって」
先輩と合流する前、残留連中を集めた場で、冬休みのスケジュールが発表された訳だが、早朝四時起床……なんて事はなく、割と常識的なタイムスケジュールだった。と言うか、夏休みの部活組と同じなんじゃあないか? そんな生ぬるくていいのかと思わないでもないが、コタツの魔力か、心地良い眠気が幅を効かせる附抜けた思考回路は、何の疑問もなく好待遇を受け入れていた。
「奉仕作業自体が少ないらしいな。公民館を借りて、冬休みの課題をやったりするって聞いたぞ」
「え、それって先輩も?」
先輩の言葉で一気に目が覚める。あっさり頷かれてしまい、オレはがっくりと肩を落とした。
「…………」
さっきまでは自分と比べて、その差に絶望感しかなかった。けれど、今は自然とその姿に見入っていた。
先輩の姿を真似て走る。そんな事をしてもオレの体力のなさは埋まらないが、愚痴るのは止めて、ただ走った。
先輩が何度か横を走り抜けていく。最初は「大丈夫か?」とか「無理するなよ」とか、心配そうに速度を落として声をかけてくれていたが、オレの走るペースが安定すると、先輩は自分のペースで走り続けた。
走った距離を換算すると、とてつもない差が出来てしまっているだろうが、最後まで一緒に走り続けてからオレはぶっ倒れた。
朝飯前にマラソンは出来ないと痛感。本気で立ち上がれなくなったオレは、部屋まで自力で帰れなくなり、心配そうな先輩の背中の上で全力の反省をした。
この件で身の程を知り、今後のトレーニングはオレに合わせてメニューを組んで貰えるよう頼んだ。先輩もどこかホッとした顔で承諾してくれた。
先輩との差を見せつけられた早朝マラソン後は、自分の中にあった妙な焦りも消え、心と体に余裕を持てるようになった。別に先輩を格闘や競技で倒す事が目的じゃあない。要は体力や気力を鍛え、セックスにかけられる時間を増やせばいいのだ。毎朝フルマラソンを敢行する必要は断じてない。
無理せず体を動かし、徐々にでも先輩の性欲を受け止められる量を増やす。目標設定としては小さいが、毎日続ければ、いつの日か一晩に四回くらいヤレるはずなのだ。
冬休みに入る頃には、絶頂時に絶望だけでなく、そんな希望も感じられるようになった。二回戦に挑戦する事は出来なくとも、先輩が射精するのを見届けてから睡魔に身を任せる……くらいの成長は出来たからな。
「冬休みの目標は一回で二回ヤル事だな」
冬休み初日。身内を見送り食堂で一人冬休みの野望を胸に刻んでいると、帰り支度を済ませたじいちゃんに呼び止められた。
「清ボン、ちょっと来ぃ。ええもんやろ」
飴でもくれるのかと思い、下山の挨拶がてら付いて行くと、じいちゃんが自室として使っている医務室の隣の部屋へと招かれる。
「毎日寒いやろ。せやから、これ貸したろな。先生に見つからんよう部屋に持って行き」
そして、実に魅力的な餞別を置いて行ってくれた。
「おぉー、これは……」
人気がなくなった旧館にやってきた先輩をじいちゃんの部屋に連れて行き、事情を話すとオレと同じく嬉しそうな顔をしてくれた。
じいちゃんがオレらに残してくれたのはコタツだった。
「オレ、コタツって初めてなんだ」
テレビのドラマか何かで見た事はあったが、実物を見るのは初めてだ。
「ん、これはありがたいな。今日は天気も良いから、布団を干して今夜から使わせてもらおう」
部屋に持ち帰る事に先輩も快諾してくれたので、早速コタツと大量のみかんが入った段ボール(これも餞別)を抱え、いそいそと先輩の部屋へと運び込む。
しばらく干されていなかったろう、くったりした布団を屋上のフェンスで天日干しして復活させ、狭い部屋のど真ん中へとセッティングする。布団を干している間に選別したみかんを新聞紙で作った箱に積み上げ、コタツの中央に置くと、先輩の部屋は冬休みを過ごす上で最強と呼ぶに相応しい部屋へと変貌した。
そろりとコタツに下半身を突っ込む。外を走り回っていた足がじんわりと温まり、オレは堪らず頭からコタツに潜り込んだ。
「ヤバイ。オレここから出たくない」
顔だけをコタツから出すと、先輩もオレの隣に腰を下ろして「おぉ、こうゆう感じか」と嬉しそうな声を上げる。先輩に合わせる為、オレも改めて座り直すと、狭いコタツの中で自然と足が当たった。先輩は足が触れる度、オレに場所を譲るよう避けるのだが、それを追いかけ爪先で先輩の足をくすぐる遊びをしていると「こっち来るか?」と先輩が困ったように笑う。
「さすがに一つの場所に二人で入るのは狭いって。コタツ浮いちゃうじゃん」
「そうだな、じゃあ手でも繋ぐか」
暗に足癖の悪さを注意されているのだろうが、くれると言うなら遠慮なく手も貰う。もちろん、足もガッチリと絡めてやると、先輩も諦めてオレの方を向いて寝転がってくれる。外の作業で冷え切った先輩の手を握ると、ふにゃっと先輩の表情が緩む。
「冬休みは夏休みと違って、朝はそんなに早くないんだって」
先輩と合流する前、残留連中を集めた場で、冬休みのスケジュールが発表された訳だが、早朝四時起床……なんて事はなく、割と常識的なタイムスケジュールだった。と言うか、夏休みの部活組と同じなんじゃあないか? そんな生ぬるくていいのかと思わないでもないが、コタツの魔力か、心地良い眠気が幅を効かせる附抜けた思考回路は、何の疑問もなく好待遇を受け入れていた。
「奉仕作業自体が少ないらしいな。公民館を借りて、冬休みの課題をやったりするって聞いたぞ」
「え、それって先輩も?」
先輩の言葉で一気に目が覚める。あっさり頷かれてしまい、オレはがっくりと肩を落とした。
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