パーフェクトワールド

出っぱなし

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 名古屋駅に到着すると、まずはスコーピオンのアパートへと向かった。

 スコーピオン所有の、地元の代表自動車メーカーの大型バンにスコーピオンの必要な荷物を詰め込んだ。
 それから、ジローの家に車で向かった。

 こういう時に限って、いつも以上に道が混んでいた。
 彼は貧乏ゆすりが止まらず、スコーピオンは絶えずタバコを吹かしている。

 その内に夜になり、辺りはもう暗くなり始めていた。
 空は今にも雨が降り出しそうなほど分厚い雲に覆われている。
 風も強くなり始めている。
 台風がもう目の前までやってきていた。

 ジローの家に到着すると、スコーピオンを車に残して中へと入った。
 彼はジローの荷物をまとめるのを手伝った。
 大麻の鉢をどうしようか話し合ったが、もう二度と戻ってくるつもりはないので、一緒に持っていくことにした。

 荷物を持って外に出ると、雨がすでに降り始めていた。

 ふと見ると、スコーピオンの様子がおかしかった。
 わざわざ雨の中突っ立って、ぎこちなく引きつった笑顔だ。

 彼は気持ち悪い奴だと眉をひそめた。
 その瞬間、背中に硬い物の当たる感触がした。

『フリーズ、ハンズアップ』

 彼は言われたとおり動きを止め、両手を挙げた。
 ジローも同じようにしている。

「悪い、捕まっちまった」

 スコーピオンの後ろから、スコーピオンに銃口を突きつけながら、もう一人の男が現れた。
 少佐だった。
 ということは、彼らの後ろにいるのがマルコムということになる。

 なぜ、こいつらがここにいるのか、彼には理解できないことだろう。
 こいつらは超能力者かとさえ思っているだろう。

『色々と言いたいことがあるだろうが、さっさと車に乗りな』

 彼らは無理矢理押し込まれるように車の中に入った。
 運転席にはスコーピオン、助手席にはジローが座った。
 彼は後ろの座席で、奴らに挟まれるように座った。

 奴らはどこかの山に行くように指示をした。
 スコーピオンは言われたとおり車を発進させた。

 終始無言だった。
 奴らは隙を見せることなく、外からは見えないように常に銃口を突きつけている。

 カーラジオからは、FM番組のDJがリスナーからのメールを読んでいた。
 内容は恋愛相談のようなことだったが、この状況で聞くと何ともシュールだ。

 車は地元で有名な心霊スポットの廃トンネルへと向かっていた。
 雨が窓を叩きつけるほど強くなり、車体が左右に揺さぶられるほど風も強くなっている。
 ゲームオーバーには、おあつらえ向きだ。

 廃トンネルに到着すると、彼らは車から降ろされた。
 そして、トンネルの中へと連れていかれた。

 ここはすでに使用されていないので、中は闇が濃く、異界の冷気のようなものを感じる。
 おそらく、異界の住人たちが、彼らが仲間になるのを手をこまねいて待っているせいだからかもしれない。

 静寂を破るように、車のエンジンのかかる音がした。
 そして、目がくらんだ。
 車のライトを点けたようだ。

 どうやら、正面から照らされているわけではないので、だんだん目が慣れてきた。
 彼らの正面に、少佐とマルコムが銃を手にして立っていた。

『何か言い残すことはあるか? もう分かってはいると思うが、お前たちはここで死ぬ』

 少佐は事務的に言った。
 今から市役所の受付をすることになっても、同じ口調かもしれない。

『ちょっと待ってくれ。どうして僕たちを殺すんだ? それに、どうやって僕たちの居場所が分かったんだ?』

 彼はこの状況でも口を開くことができた。

『殺される理由なんて、お前たちが一番分かっているだろ? あんな紛い物でごまかせると思ったのか?』

 少佐はあくまでも冷静だった。
 彼には何のことか分からず、落ち着かなかった。

『偽物だったってことか』

 ジローがポツリとつぶやいた。

『そういうことだ。1つは上等といっていい』

 少佐はその1つを手に持った。
 そして、大事そうに懐にしまい、他の袋を手に取った。

『だが、他のは色だけ似せた、ただのクエン酸だ!』

 少佐は怒鳴り、中身のクエン酸を彼らにぶちまけた。
 彼はクエン酸をまともに吸い込んでしまい、思わずむせた。
 他の二人も同じようになっている。

『つまりだ、これだけのことをしたら、十分万死に値する。念の為に札の中に発信機を仕込んどいて良かったぜ』

 そうか。
 だから、ケニーの居場所を突き止めることができたのだ。

 彼はただ身体を硬直させているだけだった。
 事態はもう最悪の終点へと到達しようとしていた。

『何だ? お前ら、自分たちの持ってきた物がどういうものかすら分かっていなかったのか? ふん、ただの素人かよ。どっちにしろ、ここまできたら手遅れだ。ついでに教えてやるよ。ケニーの奴が死ぬ間際にお前たちのことを全て語ってたぜ。カナリアでもあんなには歌わないぞ。ほとんど廃人のくせに、よっぽど死にたくなかったんだな。おかげで、オレたちはお前らの居場所を掴めたけどな』

 少佐は冗舌に語っていた。
 そして、どこかへと歩いていった。

 彼は身体を硬直させて、ひざまずかされていた。
 そして、沈黙の時間が続いた。
 5分経ったのか、5時間経ったのか分からないほど時間の感覚が滅茶苦茶になった。
 そして、彼の真っ白になった頭の中に1つの疑問が浮かんだ。

 なぜ、こんなことになってしまったのだろう?
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