パーフェクトワールド

出っぱなし

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 夜はすでに更けていた。
 日付けはとっくに変わっているはずなのに、東京の街は眠る気配などなかった。

 彼ら4人は、例のウイルス騒ぎの影響のせいなのだろうか、建設途中で放置されたビルに来ている。
 躯体だけは6階まででき、建材がところどころにほこりをかぶって放り出してある。

 場所は良く分からない。

 東京タワーが遠くの方に見える。
 ビル内には電気が通っていないが、街灯に照らされて他のメンバーの様子が見える。

 スコーピオンは、落ち着きのない熊のように、うろうろと室内を歩き回っている。
 ケニーは百円ライターの火を見つめながらニヤニヤしている。
 ジローは壁に背をもたらせながら、目を閉じてじっとしている。
 彼はというと、床に腰を下ろし、他のメンバーをぼんやりと観察しているだけだった。

 これから行なわれることに対して、不思議と落ち着いているようだった。
 スコーピオンのコカインをこれから処分するのだ。
 どうするのかは、ケニーのプランによるとこういうことだった。

 ケニーの知り合いの元米兵のジャンキーコンビに連絡を取る。
 そして、そいつらに全て売り渡す。
 その金はみんなで仲良く山分けにする。
 まとめ上げれば、単純明快で簡単な話だ。

 とりあえずは、そのコンビとは連絡を取ることができた。
 しかも、すでに金ができているので、その日のうちに取引をすることになった。
 そして、このビルを指定してきたというわけだ。

 なぜ、元米兵がいまだに日本に居残っているのか?
 なぜ、こんなにも都合よく金が用意できているのか?

 疑問となることは次々とわいてくるが、そんなこと知る必要はないし、知るべきではない。
 汚い金であるということぐらいは、誰にでも想像がつくだろう。

 約束の時間ちょうどになると、1分早くも遅くもなく奴らはやってきた。
 白人と黒人のコンビだった。
 元軍人とは思えないほど、二人ともやせ衰えていた。
 だが、動作はまだきっちりとしている。

 白人の方の髪型を見ると、一昔前に流行った格闘ゲームのキャラクターのようだった。
 便宜上、奴のことは少佐としておこう。
 実際の階級ははるかに下だったろうが。

 黒人の方はメガネを掛けて、細長い顔をしている。
 まるで、マルコムXの時のデンゼル・ワシントンのような気がする。
 こいつは、マルコムとしておこう。

『よう、お前ら。久しぶりだな。調子はどうだ?』

 ケニーは日本語訛りの強い英語で話しかけた。

『ああ、最高だ。それで、ブツは持ってきたのか?』

 少佐は挨拶など必要ない、というようにいきなり本題に入った。
 どうやら、日本語がまとも喋れないらしい。
 いや、喋る気がないのだろうか。

『そう焦るなよ。とりあえず、中を見てみろよ』

 ケニーはデイパックから紙袋を出し、紙袋からは白い粉の詰まったビニール袋を取り出して並べた。
 マルコムは口笛を軽く鳴らした。

 少佐はその袋を1つおもむろに手に取り、中身の粉を少し指につけてなめてみた。
 そして、ハードボイルド小説を読みすぎているかのような顔でにやりとした。

 持ってきた手提げバッグから小型の秤を取り出し、一個一個丁寧に量った。
 ケニーも一緒になって目盛りを見ていた。
 そして、量り終わると少佐が口火を切った。

『いいだろう、2000だ』
『おいおい、いくらなんでも安すぎだろ。3000だろ?』

 ケニーは値段交渉を始めた。
 彼には相場のことなど分からない。

 欲張らずにさっさと売っちまえと言いたいのか、足がそわそわと落ち着かなかった。
 スコーピオンは実際に口に出して、彼の後ろではらはらと口に出してつぶやいていた。
 しかし、交渉はまだ続いていた。

『欲張りすぎない方が身の為だぜ? 2000だ』

 少佐は頑固に同じ数字を提示した。

『分かったよ。2500だ』

 ケニーの方が先に折れたようだ。

『いいだろう。2200だ。おい』

 少佐はマルコムに呼びかけた。
 マルコムは手提げバッグから札束を取り出し、少佐に手渡した。
 少佐はそれをケニーに手渡した。
 ケニーは受け取ると、確認してからデイパックに詰め込んだ。
 そして、紙袋を少佐に手渡した。
 二人は持っていた手提げバッグに紙袋を詰め込むとビルから立ち去った。

 これで、取引成立だった。

 彼らはその場にじっと立ち、黙り込んでいた。
 彼は思わず吹き出してしまった。

 それをきっかけにみんなで大爆笑だった。

 笑いが止まらなかった。
 こんなにもあっさりとうまくいくなんて誰も思っていなかったのだろう。
 彼は腹筋がつっても笑い続けていた。
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