パーフェクトワールド

出っぱなし

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 彼は結局、旧友たちとは軽く話をするだけで別れた。

 もう旧友たちとは相容れることは出来なかった。
 彼は旧友たちに背を向けて歩き始めた。

「へえ? あいつらがアニキの昔のダチってやつか」

 ジローが後ろを振り向いてそう言った。
 ここからでは表情が見えないので、どういう意味を込めていったのか分からなかった。
 きっと深く考えずに言っただけなのだろう。

 彼らは屋台の裏側にある焼肉屋に入った。
 こじんまりとした店ではあるが、運良くテーブル席が一つ空いていた。

 すぐに生ビールを大ジョッキで三つ注文してから肉を選んだ。
 選ぶとはいっても、ほぼ全種類の肉だから選んだ内には入らないだろう。

 店員がすぐに生ビールを持ってきたので、何についてかは分からないがとりあえず乾杯をした。
 スコーピオンだけチンチンと言って、何がおかしいのかガハガハと笑っている。

 そして、のどをごくごくと鳴らして飲んだ。
 すっきりと食道を突き抜けるように下り、胃袋に自己主張強く着地した。
 それから血管という血管へと伝わり、ついに脳へとたどり着くと、全身の細胞が踊り出すように気持ちいい。
 すきっ腹で全身が水分を求めている時に飲むビールに勝る飲み物はない、といっても過言ではない。

 肉が次々と運ばれてきた。
 焼いては食べ、焼いては食べ、いつの間にか皿の山が出来ていた。

 何でビールと焼肉ってこんなに相性が良いのだろう?
 スコーピオンなんて、さっきからうまいしか言ってない。
 こいつはいつも何を食っているんだ?

 彼がふと見ると、ジローが彼の方を見てにやついていた。
 何を言いたいのか分かりすぎるぐらい分かる。
 彼は何も言うなと言おうと口を開いたが先手を取られた。

「あのコとはヤったのか?」

 あまりにも予想通りすぎて、彼は開いた口がふさがらなかった。
 それにしても、どうして男と女のことになると、それしか思い浮かばない奴が多いのだろう?
 発想が貧困すぎる。

「そう、それそれ。俺も聞きたかったぜ。何であんなにいい女がお前を選ぶんだよ。何かおかしくねえか?」

 スコーピオンよ、お前だけには言われたくない。

「全く、お前らはどうしてこう低レベルなことしか話題に出来ないんだよ。もっとこう高次元な話でもしようぜ」

 彼は話題を変えようとした。
 しかし、このニヤケ面の前には無駄な足掻きだった。

「何言ってやがる。政治だとか社会問題について話そうっていうのか? そんなモン誰も聞きたくねえよ。つうか、話そらすなよ。まさか、まだなのか?」

 彼は図星をつかれてしまったのか、一瞬目が泳いだ。
 そして、苦し紛れに口を開いた。

「やるもやらないも、付き合ってもいないよ。ただの友達関係だ」

 しかし、逆に何も言わないほうがよかった。
 二人は天然記念物を見るような目で彼を見た。

「ウソだろ。アニキのことをつくづく変わった奴だと思っていたが、これほどのレベルとは」

 スコーピオンについては絶句している。
 彼はもううんざりだというようにため息をついた。

「別に僕がこのままで満足してるんだからそれでいいだろ」
「良くない!」

 スコーピオンは断言した。

「男と女の関係にセックスがないなんてありえねえ! そんなのは自分をごまかしてるだけだ!」
「お前の価値観で決めるな!」

 僕は一瞬、自分の考えが口に出るようになってしまったのかと思った。
 しかし、実際は彼が同じ考えを口に出しただけだった。

 さすがのスコーピオンも、はっきりとそう言われてうろたえてしまった。
 ようやく黙ってくれた。

「いいや、スコーピオンの言うとおりだね」

 ジローは含み笑いをしていた。

「まだ、この話題を引きずろうってのか?」

 彼の眉間に力が集まっている。

「おいおい、まだどこにも行き着いちゃいないぜ。何でそんなにこの話題を避けたがる? もしかして、びびってんのか? お、その目は図星だな。ポーカーフェイスを装っても無駄だぜ。オレには分かっちまうよ」

 ジローは不気味に彼のことを見透かしてきた。
 彼の背中に冷たい汗が伝わるのを感じた。

「だから、何だよ。僕に一体何をさせようとしてるんだ?」

 彼はジローにいいように操られていた。

「本当はアニキだってわかってるんだろ? 誰にだって性欲はあるんだ。素直に本能に従え。そんなこともできねえのか?」

 ジローは明らかに彼のことを挑発していた。

「上等。それぐらい楽勝だ。誰にものを言ってやがる?」

 そして、あっさりと成功した。
 彼は見かけによらず単純な男なのだ。

 彼はポケットからスマホを取り出し、彼女に連絡した。
 そして、明日花火を見に行こうと誘った。
 彼女はあっさりと了解してくれ、明日会う約束をした。

「どうだ、これで満足か? 明日ばっちり決めてやるよ」

 彼は勝手に熱くなっていた。

 ジローが目の前で小ずるく、にやりとしているのにも気付かない程に。
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