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日誌・111 いやだね(R18)
しおりを挟む言うなり、この体勢で? という戸惑いが大河から返った。
構わず、雪虎は動く。
「…ふぅ――――…っく」
横向きに寝転がった体勢で、じわじわと後ろから挿入。とたん、待ち詫びたように大河が腰を押し付けてくる。
ただし、これだと雪虎は腰を動かしにくい。
その分、激しい性交にはならず、ある意味寛げる、とも言える。
横になっているせいか、既に眠い。警戒が必要でない他人の体温が間近にあるのも、眠気を助長する。
大河もそうなのか、身体から完全に力が抜けていた。
その肩口を宥めるように撫で、雪虎は後ろから囁く。
「なぁ、こういうの」
言葉を、つい、途中で切ったのは。
―――――本当に今更だな、と思うからだ。それでも、言い切った。
「そろそろ、やめにしないか」
自然に行為を続けておきながら、している最中に言うことでもない。
それに、止める機会なら、ずっと前にあった。
大河とさやかが結婚した時だ。
もしくは、さやかが妊娠・出産した時。
最低だという自覚はある。
なぜ今になって、言い出したのか。
ただし、それには、きちんと理由がある。
大河の父、大吾から、あのような申し出を受けたからだ。
もし、大吾たちが、雪虎たちの関係を知って、昨夜のようなことを言い出したのなら。
受けるにしろ断るにしろ、関係はきれいにしておくべきだと思った。
だとしても。
…本当に、今更だ。
ずるずると関係を続けておきながら。
何を今になって、真っ当なことを言い始めているのか。
だが、身体の関係がなくなったからとて、大河と雪虎の関係がなくなるわけではない。
義理の兄弟であることに、かわりはなかった。
むしろ、堂々とそうだと言えるようになるわけだ。
大河は、何も言わない。
おとなしい。
眠ったかな、と雪虎が思ったその時。
ずるり、ぬくもりに埋もれていたはずの陰茎が、抜けた感触があった。
(…ぇ)
身体が仰向けになった。
いや、仰向けにさせられた。直後。
真上からのしかかった相手に、両肩を押さえられ、少し、身体がベッドに沈む。
どうやら、雪虎の上に、大河が馬乗りになっているようだ。
暗がりの中、大河の表情は見えにくい。
「―――――好きな人でもできましたか」
目を凝らすなり、霜の降りた声が、降ってきた。
雪虎の勝手な言い分に怒っているのだろう。
だが、大河にとっては望むところではないだろうか。
義兄と―――――それも、雪虎のような男との関係など、醜聞もいいところだ。
「女ですか、男ですか」
「いやそんなのいない…って、なんでそんな話になる?」
関係を清算しようという話が、なぜ、雪虎に好きな相手ができたということになるのだろうか。
「そうですね、そんな話はどうでもいい」
まるで、逃げないように、と縛めるように肩を押さえていた大河の手が、つ、と雪虎の肩から離れた。
身体を伝い、つう、と胸元まで降りてくる。
「肝心なのは…、トラさんは、義理の弟がかわいそうとは思わないんですか」
「あ?」
かわいそう?
思わぬ言葉に、雪虎は面食らった。
今、大河が何を言おうとしているのか分からない。
このプライドの高い男が、まさか、同情を買おうとしているわけがあるまい。
いや、同情がほしいとして、いったい、どんな。
呆気にとられた雪虎に両手をついて、淡々と大河は続けた。
「僕は御子柴というせいで、実のところ、誰とセックスしても、一度も油断ができたことはありません」
…まあ、そうだろう。
御子柴の魅了に狂わない相手は滅多にいない。
それでも、学生時代、大河はむしろそれを利用して、色々と遊んでいたはずだが。
考える間にも、大河は冷静に言葉を紡いだ。
「理性を捨てて、快楽に溺れられたのは、トラさんがはじめてなんです」
大河の言葉の内容に関しては、どこまでが嘘でどこまでが本当かは、分からない。
重要なのは、そのような台詞を聞かせることで、大河が相手に何を望んでいるのかということだ。
「…えぇと、つまり、なんだ」
雪虎は一度唸った。
思えば昔から、この男は気持ちいいことに弱い。だから。
雪虎にも、あんなに簡単に身体を開く。雪虎は、言いにくい気分で口を開く。
「手近に俺がいれば、すぐ気持ちよくなれて、手軽で便利だと?」
大河がにっこり微笑んだ―――――気がした。刹那。
雪虎は息を詰める。
雪虎の胸についていた手を、大河が、後ろへついて。
前を、突き出すようにして。
腰を浮かした大河が、雪虎の切っ先を自分の中へ沈めはじめたからだ。
「トラさんは、もし」
は、と息を乱しながら、挑発的な表情で、大河は言った。
「僕が我を忘れても、僕に危険なことはしないし、僕との行為を口外しないでしょう?」
それは勿論だし、雪虎は、大河が嫌いなわけではない。
むしろ、見ても触れても最高だと思う。だからこそ、自分が相応しくない、とも思うわけで。
両足を限界まで開いた大河が、苦労しながら腰を遠慮がちに揺らし、沈めていく姿もまた、煽情的で。
雪虎は改めて、正面からその腰を掴んだ。
引き寄せながら、自身の腰を真下から思い切り突き上げる。
とたん。
あれほど強気だった大河が、狼狽えたように、息を呑んだ。
「待…っ」
「―――――い や だ、ね」
言葉を刻みつけるように腰を穿てば、言葉もなく、大河はさらに仰け反りそうになる。
刹那、背をベッドから起こし、雪虎はその腕を掴んだ。
手首を握り締め、
「もっと、深いところ、突いてやるよ」
そのまま、背をシーツへ戻す。同時に。
腰を強く押し付けながら、大河の両手を引いた。
身体を引き寄せる、というよりも。
結合部が深くなるように。
とたん。
「あ、やぁっ」
信じられないくらい甘い声がして、雫を結んでいた大河の先端が、体液を噴き出す。
二度、三度、身体を波にさらわれたように痙攣させながら、達した。
奥を突かれた際の絶頂の時、大河の先端は潮をふくようになっている。そのように、雪虎がしてしまった。
それでも、雪虎は足りず、
「まだだよ」
大河が達している最中であるにも関わらず、責め立てた。
「トラさ、お願い、ゆっくり…っ」
「そこは、もっとって言ってくれ」
必死そうな大河に、からかう声を返して、雪虎は。
このときばかりはただ楽しもう、と衝動に身を任せた。
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