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幕・37 火のように
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悪魔が御使いに囚われたなら、替えの利く消耗品として道具のように扱われる。
それと同様、悪魔に捕らわれた御使いの末路も哀れなものだった。
翼をむしられ、死ぬまで嬲られる。
あるいは、死んでからも。
…死体を。
…残酷だが、すぐに殺される方がましだったろう。
何せ悪魔という種族は、美しいものが汚れ、堕ちる姿にことさら愉悦を感じる。
悪魔という獣たちの中で、性奴隷扱いされた御使いは、…ほんとうに酷い姿をさらした。
変に生命力の高い―――――即ち位の高い御使いほど、捕らえられたのちも長く生き抜いた。
ただ、性奴隷として扱われながらも、彼らが快楽より苦痛を拾う傾向にあったのは、まだ不幸中の幸いかもしれない。
醜い悪魔たちの中で、快楽に溺れるなど、御使いたちにとってはこれ以上ない屈辱だろう。
彼らを襲った悪魔たちは、御使いを気持ちよくさせようと言うつもりはなく、鬱憤のはけ口にしただけだった。
それはほとんど拷問である。
ヒューゴが垣間見た光景の中に、今のリヒトのように、上と下から貫かれている御使いがいた。
その御使いは、美しかったが、逃れられない苦しみの中にいて。
ひたすらつらそうで、激痛を堪える姿に。
うっかり見てしまったヒューゴは、興奮するどころか―――――…萎えた。次いで、おろおろした。
セックスは気持ちよくなってこそだろう。
苦しいセックス、だめ、絶対。
そのように思ったのは、ヒューゴに前世の人間だった記憶が蘇っていたせいもあったはずだ。
あの光景を目の当たりにしたのは、三千年前だったか。
黒竜が突貫工事で地獄へやって来た頃には、扉は廃棄されていたから、まあ、そのくらいは前だったはずだ。
まだヒューゴは竜体になっておらず、悪魔そのものの外見だったが、悪魔の中でも強いのはその頃からで、力がすべての地獄では、案外、思うとおりにコトを為せた。
気付けば、ヤってる悪魔たちを殴り飛ばし、蹴散らしていた。
だからと言って御使いに好意が湧くわけもない。虫の息の相手を、犯す気も起きなかった。
かわいそうすぎる。
力が同等の相手と真っ向勝負をして勝つのは高揚するが、弱い相手を嬲るのはいただけない。
ヒューゴは御使いの有様を見ただけで、涙目になった。
そのままヒューゴは御使いの首根っこを引っ掴み、機能していた近場の門の中へ思い切り投げ込んだ。
天へ戻れば仲間が介抱してくれるはずだ、と思っての行動だったが。
あとから思えば、短絡だったかもしれない。
悪魔に犯された御使いを、同じ御使いたちが受け入れるかどうか。
だがそこまでは、ヒューゴだって面倒を見切れない。
あとは自分で何とかしてもらうしかなかった。
以降、その御使いの姿を見たことはない。
いずれにせよ、あれがちょっとしたトラウマになって、上と下、同時に咥えさせるのってどうなの、という気持ちがあったわけだが。
(あ、これは…クるかも)
リヒトの、伏し目がちの整った顔が、美しさを損なわないまま、ヒューゴのイチモツを飲み込んでいる。
涙のあとが残る頬は上気し、普段、冷酷な光を帯びた黄金の目は今、うっとりと潤んでいた。
常に厳格な言葉を放つ唇は、美味しそうな桃色だ。実際、美味しいと思う。
ん、ん、とリヒトの喉奥からこぼされる息は、ひたすら甘い。
咥えるだけでも気持ちがいいのだとその反応から熱が伝わってくるようだ。
よかった。
リヒトが苦痛にまみれた表情になったりしたら、ヒューゴは涙目になるどころでは済まないかもしれない。
ヒューゴはつい、真顔になる。
リヒトの頭を撫で、髪を梳きながら、本気で言った。
「リヒトはどうしてこんなにきれいなんだろうな?」
なんだろうか、この、どうあっても汚されない、彼のうつくしさは。
「リヒトにはどんな魔法がかかってるんだろうかと毎日思う」
今度は、それまで動きを止めていた背後のヒューゴは言って、ヒューゴの言葉に感じたように身を震わせたリヒトを見下ろし、―――――にやり、不敵に笑う。
「さて、大丈夫なようなら、…動こうか」
告げ、ヒューゴは思い切り大きく腰を引いた。
「あ…っ?」
中からの急激な喪失に、リヒトの身体が陸で跳ねる魚のようにびくりと震える。
顔を逸らしたリヒトの口の中からぼろり、ヒューゴのイチモツが抜けた。
それに頬擦りするように、リヒトがヒューゴの腹にしがみつく。
先端だけを残し、背後のヒューゴは、一度、ぴたり、動きを止めた。
ふう、と大きく吐きだした息に、強烈な欲望の熱が火のようにこもっている。
背後のヒューゴはその手をリヒトの腹側に回し、
「外からも、腹の中、刺激してやろうな」
言うなり。
ぐっと下腹を押さえ、思い切り中を突き上げた。
「あ、ん!」
拍子に、中と外から挟み撃ちにされた前立腺が、リヒトの陰茎に、痺れるような快楽を押し流す。
―――――なすすべもなく、リヒトは射精。かと思えば、
「―――――…ひっ、」
ヒューゴの切っ先が、最奥に届いた。
拍子に、もう一方の彼の指先が、リヒトが蜜をふり零すその先端を引っ掻く。
敏感になったそこに、深い刺激は凶暴なほど快楽の神経の芯まで噛みついてきた。
それなのに。
「待…っ、ぃや、だ―――――あぁ…―――――っ」
ぐち、ぐち、と濡れた音を派手に立てながら律動を繰り返し、ヒューゴは容赦なくそこに爪を立てる。
射精の波が行き過ぎた、と思う間もない。
透明な体液が、リヒトの陰茎の先端から吹き上がった。
潮だ。
同時に。
「…はっ、気持ちイイ、な…っ」
リヒトの体内に根元まで埋めながら、それでもまだ進もうと、ぐりぐり腰を押し付けるヒューゴが本質にある凶暴さを隠さない声で呟いて。
リヒトの奥へ放った。
「…く…っ」
感覚を共有しているのか、リヒトが顔を押し付けている陰茎も、痙攣。
かと思えば、びゅ、と精液が放たれた。
リヒトの整った顔が、ヒューゴが放ったもので濡れる。
うっとりとヒューゴの体液を受けたリヒトの前から。
「うわ、やった…っ」
ヒューゴの姿が消えた。
支えを失い、ベッドに突っ伏したリヒトの中から、ずるり、ヒューゴが抜けるのに、この期に及んでリヒトの唇から物足りなさそうな吐息がこぼれる。
すぐにリヒトは抱き起された。
ヒューゴが胡坐をかいた足の間に座らされ、背を支えられる。
どこから出したのか、ヒューゴは温かな濡れタオルで、リヒトの顔を拭った。手つきは脆い小動物を撫でるように優しい。
その手に脚の間まで拭われていくのに、息を乱し、また軽く達したリヒトの額に頬を押し当て、ヒューゴが言う。
「ごめんな、大丈夫か」
優しい手つきに、リヒトの先端が、トロトロと体液をこぼして、止めようがない。そこにヒューゴの手は今、少しも触れていないのに。
声を出すのは億劫で、でも離れたくなくて、リヒトは手を伸ばし、ヒューゴの服を掴んだ。
「よーし、よし。ここにいるぞ。…だから、鎖を増やすな、またかよ…」
寂しがる子供をあやすように言って、ヒューゴはリヒトを抱き寄せた。
耳から侵入したヒューゴの声が、腹の奥を打って、また甘く達した心地の中で、とろとろとリヒトは眠りに落ちていく。
その意識の端で、ヒューゴの呟きを拾った。
「あー…、やっぱ、アイツ、消滅しちまったか」
何の話だろう。
思った時には、リヒトは意識を手放していた。
それと同様、悪魔に捕らわれた御使いの末路も哀れなものだった。
翼をむしられ、死ぬまで嬲られる。
あるいは、死んでからも。
…死体を。
…残酷だが、すぐに殺される方がましだったろう。
何せ悪魔という種族は、美しいものが汚れ、堕ちる姿にことさら愉悦を感じる。
悪魔という獣たちの中で、性奴隷扱いされた御使いは、…ほんとうに酷い姿をさらした。
変に生命力の高い―――――即ち位の高い御使いほど、捕らえられたのちも長く生き抜いた。
ただ、性奴隷として扱われながらも、彼らが快楽より苦痛を拾う傾向にあったのは、まだ不幸中の幸いかもしれない。
醜い悪魔たちの中で、快楽に溺れるなど、御使いたちにとってはこれ以上ない屈辱だろう。
彼らを襲った悪魔たちは、御使いを気持ちよくさせようと言うつもりはなく、鬱憤のはけ口にしただけだった。
それはほとんど拷問である。
ヒューゴが垣間見た光景の中に、今のリヒトのように、上と下から貫かれている御使いがいた。
その御使いは、美しかったが、逃れられない苦しみの中にいて。
ひたすらつらそうで、激痛を堪える姿に。
うっかり見てしまったヒューゴは、興奮するどころか―――――…萎えた。次いで、おろおろした。
セックスは気持ちよくなってこそだろう。
苦しいセックス、だめ、絶対。
そのように思ったのは、ヒューゴに前世の人間だった記憶が蘇っていたせいもあったはずだ。
あの光景を目の当たりにしたのは、三千年前だったか。
黒竜が突貫工事で地獄へやって来た頃には、扉は廃棄されていたから、まあ、そのくらいは前だったはずだ。
まだヒューゴは竜体になっておらず、悪魔そのものの外見だったが、悪魔の中でも強いのはその頃からで、力がすべての地獄では、案外、思うとおりにコトを為せた。
気付けば、ヤってる悪魔たちを殴り飛ばし、蹴散らしていた。
だからと言って御使いに好意が湧くわけもない。虫の息の相手を、犯す気も起きなかった。
かわいそうすぎる。
力が同等の相手と真っ向勝負をして勝つのは高揚するが、弱い相手を嬲るのはいただけない。
ヒューゴは御使いの有様を見ただけで、涙目になった。
そのままヒューゴは御使いの首根っこを引っ掴み、機能していた近場の門の中へ思い切り投げ込んだ。
天へ戻れば仲間が介抱してくれるはずだ、と思っての行動だったが。
あとから思えば、短絡だったかもしれない。
悪魔に犯された御使いを、同じ御使いたちが受け入れるかどうか。
だがそこまでは、ヒューゴだって面倒を見切れない。
あとは自分で何とかしてもらうしかなかった。
以降、その御使いの姿を見たことはない。
いずれにせよ、あれがちょっとしたトラウマになって、上と下、同時に咥えさせるのってどうなの、という気持ちがあったわけだが。
(あ、これは…クるかも)
リヒトの、伏し目がちの整った顔が、美しさを損なわないまま、ヒューゴのイチモツを飲み込んでいる。
涙のあとが残る頬は上気し、普段、冷酷な光を帯びた黄金の目は今、うっとりと潤んでいた。
常に厳格な言葉を放つ唇は、美味しそうな桃色だ。実際、美味しいと思う。
ん、ん、とリヒトの喉奥からこぼされる息は、ひたすら甘い。
咥えるだけでも気持ちがいいのだとその反応から熱が伝わってくるようだ。
よかった。
リヒトが苦痛にまみれた表情になったりしたら、ヒューゴは涙目になるどころでは済まないかもしれない。
ヒューゴはつい、真顔になる。
リヒトの頭を撫で、髪を梳きながら、本気で言った。
「リヒトはどうしてこんなにきれいなんだろうな?」
なんだろうか、この、どうあっても汚されない、彼のうつくしさは。
「リヒトにはどんな魔法がかかってるんだろうかと毎日思う」
今度は、それまで動きを止めていた背後のヒューゴは言って、ヒューゴの言葉に感じたように身を震わせたリヒトを見下ろし、―――――にやり、不敵に笑う。
「さて、大丈夫なようなら、…動こうか」
告げ、ヒューゴは思い切り大きく腰を引いた。
「あ…っ?」
中からの急激な喪失に、リヒトの身体が陸で跳ねる魚のようにびくりと震える。
顔を逸らしたリヒトの口の中からぼろり、ヒューゴのイチモツが抜けた。
それに頬擦りするように、リヒトがヒューゴの腹にしがみつく。
先端だけを残し、背後のヒューゴは、一度、ぴたり、動きを止めた。
ふう、と大きく吐きだした息に、強烈な欲望の熱が火のようにこもっている。
背後のヒューゴはその手をリヒトの腹側に回し、
「外からも、腹の中、刺激してやろうな」
言うなり。
ぐっと下腹を押さえ、思い切り中を突き上げた。
「あ、ん!」
拍子に、中と外から挟み撃ちにされた前立腺が、リヒトの陰茎に、痺れるような快楽を押し流す。
―――――なすすべもなく、リヒトは射精。かと思えば、
「―――――…ひっ、」
ヒューゴの切っ先が、最奥に届いた。
拍子に、もう一方の彼の指先が、リヒトが蜜をふり零すその先端を引っ掻く。
敏感になったそこに、深い刺激は凶暴なほど快楽の神経の芯まで噛みついてきた。
それなのに。
「待…っ、ぃや、だ―――――あぁ…―――――っ」
ぐち、ぐち、と濡れた音を派手に立てながら律動を繰り返し、ヒューゴは容赦なくそこに爪を立てる。
射精の波が行き過ぎた、と思う間もない。
透明な体液が、リヒトの陰茎の先端から吹き上がった。
潮だ。
同時に。
「…はっ、気持ちイイ、な…っ」
リヒトの体内に根元まで埋めながら、それでもまだ進もうと、ぐりぐり腰を押し付けるヒューゴが本質にある凶暴さを隠さない声で呟いて。
リヒトの奥へ放った。
「…く…っ」
感覚を共有しているのか、リヒトが顔を押し付けている陰茎も、痙攣。
かと思えば、びゅ、と精液が放たれた。
リヒトの整った顔が、ヒューゴが放ったもので濡れる。
うっとりとヒューゴの体液を受けたリヒトの前から。
「うわ、やった…っ」
ヒューゴの姿が消えた。
支えを失い、ベッドに突っ伏したリヒトの中から、ずるり、ヒューゴが抜けるのに、この期に及んでリヒトの唇から物足りなさそうな吐息がこぼれる。
すぐにリヒトは抱き起された。
ヒューゴが胡坐をかいた足の間に座らされ、背を支えられる。
どこから出したのか、ヒューゴは温かな濡れタオルで、リヒトの顔を拭った。手つきは脆い小動物を撫でるように優しい。
その手に脚の間まで拭われていくのに、息を乱し、また軽く達したリヒトの額に頬を押し当て、ヒューゴが言う。
「ごめんな、大丈夫か」
優しい手つきに、リヒトの先端が、トロトロと体液をこぼして、止めようがない。そこにヒューゴの手は今、少しも触れていないのに。
声を出すのは億劫で、でも離れたくなくて、リヒトは手を伸ばし、ヒューゴの服を掴んだ。
「よーし、よし。ここにいるぞ。…だから、鎖を増やすな、またかよ…」
寂しがる子供をあやすように言って、ヒューゴはリヒトを抱き寄せた。
耳から侵入したヒューゴの声が、腹の奥を打って、また甘く達した心地の中で、とろとろとリヒトは眠りに落ちていく。
その意識の端で、ヒューゴの呟きを拾った。
「あー…、やっぱ、アイツ、消滅しちまったか」
何の話だろう。
思った時には、リヒトは意識を手放していた。
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