Another Dystopia

PIERO

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2033年6月 予兆の変革(中)

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「というわけで、小林。
どういうことか説明してもらおうか」

「あははー。誰も聞いてこなかったから別に隠していたわけじゃないよ?それに嘉祥寺君にはちゃんと言ってるからいいでしょう!?」

「言ってたのか…。
まあ、それが悪いってわけじゃないからな」

 雪花の突然の登場と衝撃の事実を聞かされた直後、タイミングよくあるいは悪いときに小林が現れる。小林も雪花がいることに驚いたのか、嬉々として雪花に話しかける。一方で雪花は意外にも純情だったのかテンションが高くなった小林の扱いに困っているのかこちらに視線を向ける。
 このまま眺めるのもいいだろうと思ったが、ここは病院である。わざと大きな咳をして小林のテンションを収める。
 そして先ほど雪花から聞いたことを小林に質問し、今に至る。

「まあ、婚約云々は後でほかのメンバーと一緒に聞くとして、小林に一つ聞きたいことがある。
俺がFRに狙われていることは既に知っているよな?」

「ほかのメンバーって、ああー、ちょっとやだなー」

「小林?話聞いてる?」

「もちろんもちろん!聞いてますよ!
まあ、その事実は知っているからね。それがどうかしたの?」

「今回、FRは小林一家に狙いを定めてあれこれと悪事をしようとしているらしい」

「それで、それがわたしになんの関係があるの?」

 意外な返答に俺は戸惑いを感じる。実家が恋しくないのかと思ったが、その疑問は隣でおとなしく聞いていた雪花が答えた。

「佐夜は父上から同じ道を歩ませるわけにはいかないという願いで本家から半分追放された身だ。加えて、唯一佐夜に良心的に接してくれた先代もこの前お亡くなりになった。故に本家がどうなろうと知ったことじゃないということだ」

「そう!ほかの人たちはわたしをただの邪魔者って思っているし…まあ、全員が全員というわけじゃないけど…」

「具体的には一家には『佐夜様を見守る隊』という非公式の隊が存在しておりまして、俺はその総監督として勤めています。
愚問ですが、佐夜様を護衛するのは本来の任務ですので、勘違いしないでほしい」

「え?それわたし初めて知ったんだけど。というかいつから?プライベートも見ているの?」

「当然です。目の届く範囲であらゆる場所でかんさ…護衛をしています」

「観察って言わなかった?ねえ、言ったでしょ!観察って言ったでしょ!」

 小林は胸元をつかみ、雪花はしれっとそっぽを向いている。その様子は確かに夫婦のように見える。俺は大きな咳をして、再び本題に戻す。

「あのな、話が進まないんだが…。その、俺がいうのもあれだがイチャつくのは後にしてくれ」

「い、イチャついてないもん!これが普通だよ!」

「…結論だけ言っておこう。小林、お前は命を狙われている。しかも身内にだ」

「うん。知ってる。雪花から聞いてるから。それに、おじいちゃんが亡くなった時からこんな展開もあるかなって思っていたから」

 肝が据わっている。純粋にそう思った。普通なら驚きを隠せないだろう。加えて身内の人間から狙われているというのであれば普通は安心することもできないだろう。
 にもかかわらず小林はしっかりと覚悟を決めている。まるでこれから死ぬ。そんな気がした。

「言っておくけど、これは身内の問題だから弁田君たちは手を出さないで」

「言われなくてもそんなおっかないことは関わりたくない。って、言いたいところだが、知った以上、そうはいかない。少なくともHOMEのメンバーは無理にでも引き留めるだろう。まあ、寺田は知らないが。
それにほかのみんなだって引き留める。
悪いことは言わない。一人で抱え込むな」

 すると、小林は大きくため息をする。すると無言のまま病室から出て行ってしまった。俺は引き留めようとしたが、先ほどまでおとなしかった雪花が俺の口元を抑えた。

「許せ弁田君。申し訳ないが、これは小林一家の問題。
堅気の人の力を借りるわけにはいかないんだ」

 全身に脱力感を感じ取り、俺の意識が徐々に暗闇に侵食されていく。絞り出した声は枯れはて、小林の耳に届かない。完全に意識がなくなる直後そこには申し訳なさそうな表情でこちらを見ている雪花が目に入るそしてもう一つ。

「…まて…はなしはまだ…」

「さようなら弁田君。みんなによろしくね」

 涙を流し、別れの挨拶をする小林の悲しそうな表情だった。



「我が戦友よ、目覚めるのだ。
今すぐに。
状況がかなりまずいのだ!」

「…嘉祥寺か。そうだ、小林は!?小林はどこだ!?」

「おおおお落ち着け戦友!
詳しい話はちゃんと聞こうではないか」

 頭痛がひどい。俺はゆっくりと起き上がると周囲には会社のメンバーが全員そろっていた。しかし、皆の表情は暗い。一体何があったのかと嘉祥寺に聞く。

「それがだな戦友。
小林が二日前、本日付で会社を辞めるなどといったのだ。
そこまではいい。
だが、その直後行方が不明なのだ」

「二日前?今日は何日だ?」

「今日は六月の十九日だ」

 最後に小林が面会に来たのが六月十八日。つまり、会社を辞め、何かを準備してから最後に俺に会いに来たということだろう。
 だが、一日中寝てしまったのは非常に痛い。俺はすぐに先日の情報を皆に共有した。
 その事実に驚愕するもの、悲しそうな表情でいるもの、反応は様々だったが、ただ一人、堀田だけはすぐに病室から出ようとしたところを中田が言い留める。

「どこに行く堀田?」

「決まっているざんす。殴り込みにいくざんす。そして小林を奪還するざんす」

「お前らしくもない。俺様がいうのもあれだが、貴様はもっと自分勝手な奴だと思っていた」

「そんなことは知っているざんす。でもHOMEのメンバーが関わっているなら話は別ざんす。
一刻も早く小林を奪還して説教するざんす」

「待て!ノープランで行くつもりか。
今回は相手が相手だ。加えてFRも関わっているならいっそのこと警察に頼るればいいじゃないか」

「警察なんて信用していないざんす!彼らはどうせ事件が起きた後にしか来ないざんす!」

「だからって一人で特高は無謀だこの馬鹿が。もっと考えて行動するべきだ!」

 中田と堀田は言い争っているが、二人の意見は理解できる。確かに警察に頼るのも一つの手段だろう。だが、本当にそれでいいのだろうか。それが小林にとって最大の救いになるのだろうか。
 どうすればいいのかと悩んでいると、聞きなれた声が響きわたる。

「おんやぁ~。なかなかににぎやかだねぇ~。でも、びょういんはおしずかにだよぉ~」

「あなたは…」

「え!?なんでここに!?」

「お?きみは聖くんじゃないかぁ~。ひさしぶりだねぇ~。げんきにしてたかい?」

 百九十近くある長身に鍛えられた肉体。いかつい色付きサングラスを顔の傷跡がトレードマークの強面。そして見た目に反してのびのびとした話し方をする人物は一人しか知らない。
 この場に現れるはずのない人物、鮫島元部長、いやFRI捜査官の鮫島さんがそこに現れた。

「んん~。よくみたらなかたくんもいるじゃないかぁ~」

「お久しぶりです」

「そうかしこまらなくてもいいよぉ~。ぼくはもうぶちょうじゃないからねぇ~」

 すると鮫島はゆっくりと俺のところに近づいた。なんとなくだが鮫島がなぜここに来たのか理解できた。

「小林佐夜についてですか?」

「おんやぁ~?ぼくがききたいこと、もうりかいしているのかい?」

「…いや、すべてではないです。ですが、小林佐夜に要件があるということはなんとなく理解できました」

「そうかそうか。でも、あてがあずれたみたいだねぇ~」

「ええ。昨日の昼間。ここに来ました。おそらく本家に戻っている可能性があります」

 すると鮫島さんは近くにおいてある椅子を引っ張り、それに座る。煙草を取り出そうとしたが、ここが禁煙であることをすぐに察し、懐にしまう。すると鮫島さんはゆっくりと背を伸ばして話をつづけた。

「はなしがそれるけど~、そのくびはどうしたんだい?」

「研究の事故です。もうすぐ退院できます」

「それはよかったよぉ~。さて、さっそくほんだいだけど、きみたちのちからをかしてくれないかね?
とくに、そこのふたりのちからを」

 鮫島の視線の先にはアダムとアカネの二人がいた。俺は冷や汗を流したが、直後に嘉祥寺が声を荒げる。

「ミスターシャーク!
貴様は我らのかわいい娘をよこせというのか!?」

「???みすたー?しゃーく?
弁田くん。かれはいったいなにをいっているのかい?」

「失礼した。つい普段のノリで話してしまった。
さて、真面目に話そうか。鮫島さん。弁田の代わりに返答しますが、答えはノーです」

 すると鮫島さんの顔色が変わり、席をゆっくりと立つ。すると鮫島さんは嘉祥寺の前に立ち、威圧する。しかし一方で嘉祥寺も怯むことなくまっすぐと見つめる。すると鮫島さんはゆっくりと口を開いた。

「きみ…なまえは?」

「嘉祥寺。この会社の社長だ。交渉するならいつでも歓迎だが、これは若干強引じゃないか?」

「まあ、そうでもしないとまずいじょうきょうだからねぇ~。でも、それはきみたちもおなじのはずだよねぇ~?」

「そうだな。だが、社長として皆に危険な目にあうことは絶対しない。そのためなら俺は会社に無関係な人間を切り捨てる。たとえ、友人であってもな」

 その発言に俺は即座に嘘だと反論したかった。嘉祥寺ほど仲間に対して情に厚い人間がそう簡単に友人を切り捨てられるわけがない。ほかのみんなは目を疑うように嘉祥寺を見つけている。
だが、そんなブラフなど気にしないで鮫島さんは大きくため息をつく。

「しょうじき、よそうがいだねぇ~。きみはなかまをたいせつにするとふんでいたんだけどねぇ~」

「だが、それも時と場合に限る。こちらは手を引く覚悟はできている。だが、そちらはそうはいかないだろう?正義の味方はつらいからな。
加えて鮫島さん、あなたはずいぶんと焦っているように見える。
大方FBIが想定していた展開よりも大幅に変わってしまったのだろう。それこそ、俺たちの手を借りなければならないほどに」

「ん~。そうだねぇ~。それじゃあ、はらのさぐりあいはやめようかねぇ~。
ぼくてきにもそうやってはなしたほうがいいからねぇ~」

 すると俺がよく知っている物腰柔らかな鮫島さんの雰囲気に戻る。一触即発の状態だった俺はほっと一息入れる。しかし、鮫島さんのいうまずい状況というのが一体何のか理解できなかった。
 ようやく本題に入れそうな鮫島は再び椅子に深く座り、話を始める。

「弁田くんたちがFRについてどくじにしらべてることはりかいしているよぉ~。そのうえでたずねるけど、『DC計画』ということばにききおぼえはあるかい?」

 『DC計画』。FRの色んな派閥が考えている謎が深い計画。寺田から手に入れたあのファイルにすらその計画について一切乗っていなかった。おそらくそれぞれの派閥の最終目標であることは理解できていたが、何をするかまでは理解できていない。
 鮫島さんの質問に俺は素直に答える。

「名前だけは。計画の内容等は一切情報が入手できていない状態です」

「そうか。じゃあ、じんるいしゅごはについては?」

「それは理解しています。人類が常に頂点に立つように守護する派閥。という認識であっていますか?」

 その回答に鮫島さんは首をひねらせる。おそらく俺が間違った解釈をしているのか。しかし、その疑問を解消したのは俺でも嘉祥寺でも鮫島さんでもないものだった。

「弁田君。多分、違うと思うわ」

「ん?きみは?」

「白橋です。私の解釈の仕方ですが、そもそもその派閥にとって人類とは何かという視点から考えると人類守護派以外の人類は人類としてカウントされていないんじゃないかと思っています」

 突然話に割ってきた白橋だったが、その答えに鮫島さんも驚いたのか、サングラス越しに目を丸くしていた。俺は白橋の言葉を聞き、自己流に理解を深めようとする。
 人類守護派にとって、派閥以外の人間は人類じゃない?つまり…。

「派閥以外の、全人類を抹消しようとする派閥ということか」

「そのとおりだねぇ~。だからFBIとしてもちゅういぶかくかんさつしてたんだけどねぇ~。
そのけいかくがじっこうされるっていうじょうほうがあったなら、とめないといけないじゃない?」

 計画が実行される。その一言を聞き、皆が驚きを隠せなかった。

「鮫島さん。計画っていったいどんなものなんでしょうか」

「ちょっとおおげさすぎたけどぉ~。かれらにとってはてすとみたいなものだよぉ~。
くわしいしょうさいはさくせんにさんかすることをやくそくしてくれたおしえてあげるよぉ~」

「…十分時間が欲しい。この場にいるみんなと相談してから選択したい」

 すると鮫島さんは笑顔で頷き、病室を後にする。俺はこの選択をどうするべきか考えるため、皆に語り始めた。
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