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第十二章 隠された物語

12-1 約束

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「独りだったんだ」


 そのひとは言った。


「ずっとずっと、独りぼっちだった」


 大人なのに。まるで小さい子のように、くしゃりと顔を歪ませて。それはそれは、今にも泣き出してしまいそうなくらいだった。

 その姿が、あまりに寂しくて。あまりに、悲しくて。気がつけば、自分がぽろぽろと涙を流していた。


「だいじょうぶよ」


 励ますように、そのひとを抱き締めた。膝をついたその背中に腕を回し、ぎゅっと力を込める。


「あたしが、友達になったげる。そんでね、かくれんぼも、鬼ごっこも、いろんなことして遊ぼ?」


 そのひとは、黙って背中を抱き締め返してきた。少しきついが、仕方ない。このひとは、悲しいひとなのだ。寂しいひとなのだ。負けじと、ぎゅーっと抱き締め続ける。


「……優しいね」


 耳元で、そう囁かれた。言われた言葉に、少し鼻が高くなる。


「ずっと……一緒にいてくれる?」


 問いかけには迷いなく、「うん」と頷いた。


「ずっと、いっしょに遊ぼ。あのね、他の友達も、いるのよ。みんなで、毎日遊ぼ」


 それはすてきな思いつきだと、心から思った。だが途端、そのひとの声はまた曇りを帯びた。


「それじゃ、駄目なんだよ」

「え?」


 予想外の言葉にきょとんとすると。その顔を、半泣き顔が覗き込んできた。


「だってね――ずっと、待っていたんだ。君のこと」


 「だからね」と。そのひとは、傍らの植物から、黄金色に光るモノを一つ、引きちぎった。それを、目の前に差し出してくる。


「これ、食べてみて?」


 鼻先に、まとわりつくような甘い香りが漂った。
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